第1話 先行の愚痴

文字数 896文字

「ねぇ!聞いてよミャーさん!」
扉を開けた瞬間からこれか。
「おはようとか、お邪魔しますとかが先じゃないのかね。きさらちゃん。」
「いいから聞いてよ!」
私の発言は流し、ドカドカと人の家に入ってくる。
私より先に小さなリビングに着くと、冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップに氷を入れ、テーブルに着く。もう何回この光景を見ているだろう。コップを私の分まで準備しているところがなんとも愛らしい。
「あの人ったらもう知らない!」
私が席に着く前から話し始め、この言葉も何度も聞いたなと思いながら先を促す。
「いつも宿題やったのかとか、もっと美味しそうに食べなさいとか、早く寝なさいだとか、私はもう子供じゃないっての!」
「まだまだ高校2年生は子供だと、、、」
「昨日なんて最悪!」
私が話の途中だっていうのにこのガキは、、、と思いながら大人の私は理性を保って話を聞く。
「あれだけ部屋に入るなって言ってるのに、学校に行ってる間に部屋に入って、私が大切に取っていた本の栞を床に散乱してたからって全部捨てちゃったのよ!もう最悪!!」
大切なものを床に放りっぱなしだとか、あんな薄っぺらいどの本にでもある栞を集めてやっぱ子供だなとか思うが、それを口にすると小汚いものを見るような目つきで私を見るので頷くだけにしておく。
「お姉さんだってきさらちゃんのためを思って、、、」
「そのことをあの人に言ったらなんて言ったと思う?」
またも私の声は虚空に消えていく。
「あなたが部屋の扉を開けっぱなしにしていたのが悪いだって!信じらんない!」
部屋が偶然開いていて、その部屋が汚かったら自然と片付けたくなったのだろうと姉の気持ちも少し分かってしまう。
「それからね、、、」
まだまだ今日も先は長いのか。

本日もフルスロットルで母親の愚痴を私に打ち続け、1週間分のマザーストレスを発散しきったJKは夕食もたいらげ、徒歩5分のお家へとニコニコしながら帰っていった。
まったく母親の妹で家が近いからといって、自分のお家のようにくつろぎやがって、、、
そんな気持ち以上に産まれた時から大きくなっていく姪を可愛く、愛おしく思っている私はなんて親バカならぬ叔母バカなのだろう。


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