Episode002 日常
文字数 4,115文字
「なあ、成往 。昨日のことなんだが…。」
「え?僕が恵 さんと付き合うことになったって話のこと?」
昨日、僕がボディーガードという扱いで恵さんの彼氏になった話。
あの話は昨日の放課後に起こったことだから、まだ僕や恵さん、奏真 くん以外は知らない。
「ああ。それなんだが、どうしてか、既に話が広まっていて…。」
「ええ!?」
僕らは、昨日帰る時には誰にも会わなかったのに…。一体誰が…?
「あれ、そういえば、昨日恵さんをいじめていた人って、あの後どうなったんだっけ?」
「あー、確かにそこを気にし忘れてたな。」
それが盲点だった。まさか、その人が、それで恵さんを辱めるつもりなのか!?
そういえば、まだ恵さんを見ていない。この辺りで昨日は別れたはずなのに。
「おはよう、成往くん。」
後ろから声をかけてきたのは、紛れもない恵さんだった。
「恵さん!大丈夫だった!?」
「はい?」
恵さんには何もなかったみたい。よかった。
でも、まだ安心できない。いつ誰が何をしてくるか分からない以上、僕が傍にいないと。
「恵さん、手、繋いでいいかな?」
そうすれば、恵さんに何かあっても、すぐ対応できるはず。
「あの…。成往くん?」
「どうかした?」
「えっと…。手は繋いでいいけど…。恥ずかしいから、できれば人の少ないところでだけにしてくれない?」
うん、恥ずかしがる恵さんも最高だ。
「いや、それじゃダメだよ。」
「ええ?」
「だって、僕はキミのボディーガードなんだよ?キミをいつでも守れるようにしなかったら、意味ないじゃん。」
まあ、手を繋ぐうえで、いつでも守りたいっていうのは、建前になっちゃうのかな?
恵さんを守りたいのは本当だけれど、どちらかっていうと、ただ今は恵さんと手を繋ぎたいだけなのが本音なんだけどね…。
「そっか。あなたは、彼氏彼女っていうよりは、ボディーガードと依頼主って関係がいいってことなんだね。」
「え…。」
「なんて冗談だよ。」
「ほっ…。」
よかった…。一瞬嫌われちゃったのかと思ってびくびくしちゃったよ…。
でも、この類の冗談は時々本気のシャレにならないものもあるし、できればやめてほしいかも…。
「お二方。学校であんまりイチャつきすぎると、誰の反感を買うか分からんから、気をつけたほうがいいぞ。」
「い、いや、学校では自制するから!僕だって何も考えてない訳じゃないよ!」
「流石に人目の多い場所だとこっちが落ち着かないから…。」
急に奏真くんにそんなことを言われ、僕も恵さんは思わず言い返していた。
「やっぱり、2人はやっぱりベストマッチだな。」
そんなことをからかうように言う奏真くん。恥ずかしいのでやめてください…。
*
「おはよ…。」
「おめでとー!」
僕らが教室に入った途端、急にクラスメイトたちがそう言って拍手をしたり、クラッカーをならしたりした。僕は何が何だか分からなくなった。
「夏樹、お前、結城を守ったんだって?すごいな!よく先輩相手に物怖じせずに闘ったな!このクラス、いや、学校の漢 の鑑 だ!」
「しかもワンパンって!かっこよすぎだろ!」
「夏樹くんって、意外と凄いところがあったんだね。パッとしないイメージがあったから、見直しちゃった。」
「お姫様を救いにきた王子様みたいで、なんか結城さんが羨ましいわねー。」
口々にそういうクラスメイトについつい僕らは硬直してしまった。
恵さんも、耳まで赤くしてうつむいている。その様子もかわいくて、どうしても見てしまう。
「もう俺らから先生には言っといたぜ!」
急に1人がそう言った。
え?何を?なんて?場合によっては問題だよ?
「『夏樹くんが結城さんのボディーガードになったから、2人がずっと一緒にいることを許してやってください』って!」
あ。そういうことか。
僕が恵さんのボディーガードなら、ずっと一緒でも不自然ではない。
あれ?でも、どこから僕が恵さんのボディーガードになったって情報が漏れたんだろう。
「ああ、なんか昨日、学校の掲示板に、『いじめてた女子、まあ今年の生徒会長の結城恵をなぶってたら、確か成往ってヤツに成敗された。ソイツはアタイが倒されてすぐに彼氏兼ボディーガードに任命されてた。』って匿名で書き込まれてたから発覚したんだって。」
アイツ、僕らのこと広めやがったのか…。
そういえば、今更だけど、先生の反応って大丈夫なんだろうか。
「一応、先生の反応って聞いてもいい?」
「ああ、先生は『まあ2年生で生徒会長だと、逆恨みだとか、先輩って立場を利用したヤラセが起こらないとも言えないしな。問題にはしない。』なんて言ってた。」
また別の1人が言う。
ええ…。それでいいのか、先生。
まあ、僕としても、ボディーガード、いや、彼氏として同行できるのはありがたい。
「ねえ、僕が恵さんと付き合うのに反対したり、恨んだりしてる人っている?」
まあ1人や2人、アンチがこのクラスにいてもおかしくはないか…?
「いやいや、アツアツなお二人さんを邪魔するほど、僕らも空気を読まない人じゃないよ。」
え、もしかして、普通に僕らの関係、歓迎してくれてる?
「もし何か関係で困ったことがあったら、いつでも相談してね。」
全員、このクラスのメンバーは、いい人たちばかりなのであった。
*
「成往くん。今日から屋上で一緒にお昼ごはん食べない?」
4限目が終わったとき、恵さんがそう誘ってくれた。もちろん、僕もそのつもりでしかなかった。
「なあ、成往、今日は俺と…、って、無理か。」
あ、奏真くん、一緒に食べるつもりだったんだ。
「ねえ、恵さん。奏真くんも一緒に食べていいかな?」
「うん。いいよ。」
「え!?いや、それは二人の問題だし、俺は1人で食べるから。」
「でも、ごはんは皆みんなで食べた方が美味しいので、一緒に食べてくれますか?」
低い背から放たれる上目遣いは強烈だろう。
ああ…。僕にも上目遣いしておくれ…。
「あ、ああ。分かった。」
恵さんの上目遣いを受けて従わざるを得なくなった奏真くんも、一緒に食べることになった。
「ねえ、恵さんの上目遣い、どうだった?」
なんとなく気になったので、奏真くんに聞くと、
「ああ、結城の上目遣いは、それはもう凄かった。お前の女だと知らなきゃ、俺も落ちていたかもだ。」
「そりゃあ恵さんの上目遣いだからね。男の1人や2人、簡単に落とせちゃうはず。」
「あの…。恥ずかしいので、やめてください…。」
少しして屋上に着いたけど、あまり人がいないから、何も気にせずにずっと恵さんを見ていられるな。
「それじゃ、食べよっか。」
「うん。」
こうして、初めての幸せなランチタイムが始まった。
「あの、成往くん。この玉子焼き、食べてもらえますか?」
「うん。ありがとう。」
「じゃあ、、お口を開けてください。」
「え?」
「『あーん』ですよ。」
「え!?」
いやいやいや、初日からこのイベントはダメでしょ!?
一応近くにチラホラと人がいる。しかも、全員こっち向いてるのは気のせいかな!?
「ね、ねえ。人目、気にしてないの!?」
「私は、もう人から何をされても、成往くんと幸せになる為なら何でもするって決めたんです。」
「そ、そうなんだ…。」
まあ、恵さんの覚悟を無駄にしない為にも、ここは『あーん』しよう。
「なあ、成往。その前にちょっといいか?」
「ん?何?」
「こっちからすると、ちょっと恥ずかしいんだが…。」
そうは言われましても。
今さ、恵さんが言ったじゃん。人目は気にしないって。
他人のことまでは気にしてられないよ。
「はい、あーん。」
「あーん…。」
「どう?私の手作りで…。手作りって、初めてで…。」
「え、ナニコレ…。」
「え?美味しくなかったですか?」
「美味しい…!美味しすぎるよ!」
何!?本当に手作り初めてなの!?
確かに玉子焼きは初歩的な料理だ。でも、少なからずとも僕は玉子焼きを50種類は食べてきた。
でも、こんなに美味しい玉子焼きはなかった。
もうギヌス記録の申請出したいくらいだ。
『世界一美味しい玉子焼き』って。
「成往くん。喜んでくれたのはいいんだけど…。」
「ん?何?」
「成往くんの叫びで、皆みんながこっち見てるから、ちょっと恥ずかしいな…。」
「あ、ごめん…。」
ちょっと喜びすぎたかな?
*
昼食を食べ終え、しばらく話すことにした。
「ねえ、恵さんって、誕生日っていつなの?」
「私は、9月15日なの。だいたい5ヶ月後だね。」
「じゃあ、それまでに喜んでくれる誕生日プレゼントを考えておくね。」
「うん。楽しみにしてるね。逆に成往くんの誕生日はいつなの?」
「僕の誕生日は7月30日だよ。」
誕生日を互いに把握しておくことで、誕生日プレゼントについて考える時間がどのくらいあるのか分かるから、プレゼント選びもよりいいものを選べるんだよね。
「あ、あと、佐藤さん、あなたの誕生日はいつなの?」
「え!?俺…ですか!?」
「うん。だって、佐藤さんも友達でしょ。」
「いいんですか…!?」
奏真くん自身は関係ないと思っていたらしく、自分の誕生日も聞いてくれたことが嬉しかったらしい。
「お、俺は、1月23日です。」
そういえば、奏真くんは恵さんとはなす時だけ丁寧語になるな。意外と奏真くんは自分の気持ちに鈍感なのかもしれない。
『恋に落ちかけた』とか言ってたけど、実際は恵さんのこと好きなんだな。
*
放課後。
僕らは普通に歩いていたところ、急に道に野良猫が出てきた。
「この子、昔っから僕に懐いてる子だ。」
小学生の時に出会い、それ以来何回も遊び、今では簡単に近寄ってくるほどに懐いている。
「おいで。」
すると当然のようにこちらに近づいてきた。
「成往、なんで飼ってやらないんだ?」
「姉さんが猫アレルギーで…。」
「あれ?成往くん、今お姉さんがいるって言った?」
「う、うん。」
あれ?もしかして、妬いてる?
「お姉さんと一緒にお風呂に入ったのって、何年前?怒らないから、素直に言ってみて。」
あ、これ正直に言ったらヤバいかも。
まあ普通に10年前だし、何より1歳差しかないし。問題ないか。
「じゅ、10年前だよ…。年差は1歳だし。」
「そっか。ならよかった。」
ふう…。何もなくてよかった…。
「じゃあ、次の週末、そのお姉さんに会わせてよ。」
「うん。わかった…え?」
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「え?僕が
昨日、僕がボディーガードという扱いで恵さんの彼氏になった話。
あの話は昨日の放課後に起こったことだから、まだ僕や恵さん、
「ああ。それなんだが、どうしてか、既に話が広まっていて…。」
「ええ!?」
僕らは、昨日帰る時には誰にも会わなかったのに…。一体誰が…?
「あれ、そういえば、昨日恵さんをいじめていた人って、あの後どうなったんだっけ?」
「あー、確かにそこを気にし忘れてたな。」
それが盲点だった。まさか、その人が、それで恵さんを辱めるつもりなのか!?
そういえば、まだ恵さんを見ていない。この辺りで昨日は別れたはずなのに。
「おはよう、成往くん。」
後ろから声をかけてきたのは、紛れもない恵さんだった。
「恵さん!大丈夫だった!?」
「はい?」
恵さんには何もなかったみたい。よかった。
でも、まだ安心できない。いつ誰が何をしてくるか分からない以上、僕が傍にいないと。
「恵さん、手、繋いでいいかな?」
そうすれば、恵さんに何かあっても、すぐ対応できるはず。
「あの…。成往くん?」
「どうかした?」
「えっと…。手は繋いでいいけど…。恥ずかしいから、できれば人の少ないところでだけにしてくれない?」
うん、恥ずかしがる恵さんも最高だ。
「いや、それじゃダメだよ。」
「ええ?」
「だって、僕はキミのボディーガードなんだよ?キミをいつでも守れるようにしなかったら、意味ないじゃん。」
まあ、手を繋ぐうえで、いつでも守りたいっていうのは、建前になっちゃうのかな?
恵さんを守りたいのは本当だけれど、どちらかっていうと、ただ今は恵さんと手を繋ぎたいだけなのが本音なんだけどね…。
「そっか。あなたは、彼氏彼女っていうよりは、ボディーガードと依頼主って関係がいいってことなんだね。」
「え…。」
「なんて冗談だよ。」
「ほっ…。」
よかった…。一瞬嫌われちゃったのかと思ってびくびくしちゃったよ…。
でも、この類の冗談は時々本気のシャレにならないものもあるし、できればやめてほしいかも…。
「お二方。学校であんまりイチャつきすぎると、誰の反感を買うか分からんから、気をつけたほうがいいぞ。」
「い、いや、学校では自制するから!僕だって何も考えてない訳じゃないよ!」
「流石に人目の多い場所だとこっちが落ち着かないから…。」
急に奏真くんにそんなことを言われ、僕も恵さんは思わず言い返していた。
「やっぱり、2人はやっぱりベストマッチだな。」
そんなことをからかうように言う奏真くん。恥ずかしいのでやめてください…。
*
「おはよ…。」
「おめでとー!」
僕らが教室に入った途端、急にクラスメイトたちがそう言って拍手をしたり、クラッカーをならしたりした。僕は何が何だか分からなくなった。
「夏樹、お前、結城を守ったんだって?すごいな!よく先輩相手に物怖じせずに闘ったな!このクラス、いや、学校の
「しかもワンパンって!かっこよすぎだろ!」
「夏樹くんって、意外と凄いところがあったんだね。パッとしないイメージがあったから、見直しちゃった。」
「お姫様を救いにきた王子様みたいで、なんか結城さんが羨ましいわねー。」
口々にそういうクラスメイトについつい僕らは硬直してしまった。
恵さんも、耳まで赤くしてうつむいている。その様子もかわいくて、どうしても見てしまう。
「もう俺らから先生には言っといたぜ!」
急に1人がそう言った。
え?何を?なんて?場合によっては問題だよ?
「『夏樹くんが結城さんのボディーガードになったから、2人がずっと一緒にいることを許してやってください』って!」
あ。そういうことか。
僕が恵さんのボディーガードなら、ずっと一緒でも不自然ではない。
あれ?でも、どこから僕が恵さんのボディーガードになったって情報が漏れたんだろう。
「ああ、なんか昨日、学校の掲示板に、『いじめてた女子、まあ今年の生徒会長の結城恵をなぶってたら、確か成往ってヤツに成敗された。ソイツはアタイが倒されてすぐに彼氏兼ボディーガードに任命されてた。』って匿名で書き込まれてたから発覚したんだって。」
アイツ、僕らのこと広めやがったのか…。
そういえば、今更だけど、先生の反応って大丈夫なんだろうか。
「一応、先生の反応って聞いてもいい?」
「ああ、先生は『まあ2年生で生徒会長だと、逆恨みだとか、先輩って立場を利用したヤラセが起こらないとも言えないしな。問題にはしない。』なんて言ってた。」
また別の1人が言う。
ええ…。それでいいのか、先生。
まあ、僕としても、ボディーガード、いや、彼氏として同行できるのはありがたい。
「ねえ、僕が恵さんと付き合うのに反対したり、恨んだりしてる人っている?」
まあ1人や2人、アンチがこのクラスにいてもおかしくはないか…?
「いやいや、アツアツなお二人さんを邪魔するほど、僕らも空気を読まない人じゃないよ。」
え、もしかして、普通に僕らの関係、歓迎してくれてる?
「もし何か関係で困ったことがあったら、いつでも相談してね。」
全員、このクラスのメンバーは、いい人たちばかりなのであった。
*
「成往くん。今日から屋上で一緒にお昼ごはん食べない?」
4限目が終わったとき、恵さんがそう誘ってくれた。もちろん、僕もそのつもりでしかなかった。
「なあ、成往、今日は俺と…、って、無理か。」
あ、奏真くん、一緒に食べるつもりだったんだ。
「ねえ、恵さん。奏真くんも一緒に食べていいかな?」
「うん。いいよ。」
「え!?いや、それは二人の問題だし、俺は1人で食べるから。」
「でも、ごはんは皆みんなで食べた方が美味しいので、一緒に食べてくれますか?」
低い背から放たれる上目遣いは強烈だろう。
ああ…。僕にも上目遣いしておくれ…。
「あ、ああ。分かった。」
恵さんの上目遣いを受けて従わざるを得なくなった奏真くんも、一緒に食べることになった。
「ねえ、恵さんの上目遣い、どうだった?」
なんとなく気になったので、奏真くんに聞くと、
「ああ、結城の上目遣いは、それはもう凄かった。お前の女だと知らなきゃ、俺も落ちていたかもだ。」
「そりゃあ恵さんの上目遣いだからね。男の1人や2人、簡単に落とせちゃうはず。」
「あの…。恥ずかしいので、やめてください…。」
少しして屋上に着いたけど、あまり人がいないから、何も気にせずにずっと恵さんを見ていられるな。
「それじゃ、食べよっか。」
「うん。」
こうして、初めての幸せなランチタイムが始まった。
「あの、成往くん。この玉子焼き、食べてもらえますか?」
「うん。ありがとう。」
「じゃあ、、お口を開けてください。」
「え?」
「『あーん』ですよ。」
「え!?」
いやいやいや、初日からこのイベントはダメでしょ!?
一応近くにチラホラと人がいる。しかも、全員こっち向いてるのは気のせいかな!?
「ね、ねえ。人目、気にしてないの!?」
「私は、もう人から何をされても、成往くんと幸せになる為なら何でもするって決めたんです。」
「そ、そうなんだ…。」
まあ、恵さんの覚悟を無駄にしない為にも、ここは『あーん』しよう。
「なあ、成往。その前にちょっといいか?」
「ん?何?」
「こっちからすると、ちょっと恥ずかしいんだが…。」
そうは言われましても。
今さ、恵さんが言ったじゃん。人目は気にしないって。
他人のことまでは気にしてられないよ。
「はい、あーん。」
「あーん…。」
「どう?私の手作りで…。手作りって、初めてで…。」
「え、ナニコレ…。」
「え?美味しくなかったですか?」
「美味しい…!美味しすぎるよ!」
何!?本当に手作り初めてなの!?
確かに玉子焼きは初歩的な料理だ。でも、少なからずとも僕は玉子焼きを50種類は食べてきた。
でも、こんなに美味しい玉子焼きはなかった。
もうギヌス記録の申請出したいくらいだ。
『世界一美味しい玉子焼き』って。
「成往くん。喜んでくれたのはいいんだけど…。」
「ん?何?」
「成往くんの叫びで、皆みんながこっち見てるから、ちょっと恥ずかしいな…。」
「あ、ごめん…。」
ちょっと喜びすぎたかな?
*
昼食を食べ終え、しばらく話すことにした。
「ねえ、恵さんって、誕生日っていつなの?」
「私は、9月15日なの。だいたい5ヶ月後だね。」
「じゃあ、それまでに喜んでくれる誕生日プレゼントを考えておくね。」
「うん。楽しみにしてるね。逆に成往くんの誕生日はいつなの?」
「僕の誕生日は7月30日だよ。」
誕生日を互いに把握しておくことで、誕生日プレゼントについて考える時間がどのくらいあるのか分かるから、プレゼント選びもよりいいものを選べるんだよね。
「あ、あと、佐藤さん、あなたの誕生日はいつなの?」
「え!?俺…ですか!?」
「うん。だって、佐藤さんも友達でしょ。」
「いいんですか…!?」
奏真くん自身は関係ないと思っていたらしく、自分の誕生日も聞いてくれたことが嬉しかったらしい。
「お、俺は、1月23日です。」
そういえば、奏真くんは恵さんとはなす時だけ丁寧語になるな。意外と奏真くんは自分の気持ちに鈍感なのかもしれない。
『恋に落ちかけた』とか言ってたけど、実際は恵さんのこと好きなんだな。
*
放課後。
僕らは普通に歩いていたところ、急に道に野良猫が出てきた。
「この子、昔っから僕に懐いてる子だ。」
小学生の時に出会い、それ以来何回も遊び、今では簡単に近寄ってくるほどに懐いている。
「おいで。」
すると当然のようにこちらに近づいてきた。
「成往、なんで飼ってやらないんだ?」
「姉さんが猫アレルギーで…。」
「あれ?成往くん、今お姉さんがいるって言った?」
「う、うん。」
あれ?もしかして、妬いてる?
「お姉さんと一緒にお風呂に入ったのって、何年前?怒らないから、素直に言ってみて。」
あ、これ正直に言ったらヤバいかも。
まあ普通に10年前だし、何より1歳差しかないし。問題ないか。
「じゅ、10年前だよ…。年差は1歳だし。」
「そっか。ならよかった。」
ふう…。何もなくてよかった…。
「じゃあ、次の週末、そのお姉さんに会わせてよ。」
「うん。わかった…え?」
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