詩小説『ホテル ピーチデイズ』3分で裏側を。訳アリな人へ。〜第1話〜

エピソード文字数 1,471文字

ホテル ピーチデイズ〜第1話〜

「ほんの二十分前まで客がいたこの部屋から、人の気配が一切しないとこまでよ」
「なんの抵抗もなく、よくそんなモン持てますよね。それ、使用済みのゴムでしょ?」
深夜四時。町外れのラブホテル。
「ちょっと、なにやってんですか? 濡れたバスタオルでグラス拭くなんて。あり得ないでしょ?」
「雫と指紋が消えりゃ、グラスはオッケー。どうせ洗濯するバスタオルで拭きゃあ、一石二鳥」
「無茶苦茶だなぁ、ほんと」
ベッドが考えられない汚れ方をしている。いったいどんな愛し方をしたのだろう?
「おし、準備中から空室に切り替えろ」
「へーい」
「肩凝るわぁ。Dカップが重くて」
「はぁ?」

『ゴトンっ』

あんな部屋へ十分後、客が入る。
使用済みのゴムを摘みあげ、ゴミ袋へと投げ込むこの女こそ、先輩のアネゴ。アネゴはつまりこの人のあだ名。

こじんまりした『関係者以外立ち入り禁止』のモニター室。
「ぱりぱりのシーツに、消毒済みの袋に入れたグラス。リモコンだってきっちり背の順に並べて。リアルは汚れてるのにね」
「電子レンジ使っていいですか? 弁当温めたいんで。ってか、レンジきったねぇ。なんかついてるし」
「ひと時だけでも夢見たいのよねぇ。汚れてるってしってても」
「割り箸いれてないじゃんよ、あのコンビニ店員め。まっ、可愛いから許すけど」
狭苦しそうに肩を寄せ合い、夜食を食べるふたり。いくつかあるモニターに何気なく目をやる。カメラが設置されてある、駐車場や、エレベーター、廊下が映しだされている。
「ほれ。また来たよ」
「あぁ、あの」
「ピーチの帝王」
グレードの一番高いA室の駐車場に車を入れる男。
「また違う女ね」
「ずいぶん羽振りが良いですね」
「いや、そうでもないよ。ほれ、普通車だけど、そこまで良い車じゃないでしょ?」
「ほんとだ」
「背も高い訳でもないし、どうしようもない、奥から湧き出るもんがあんのね」
「なんすかそれ?」
「色気って訳じゃないけどさ、母性本能と乙女心の狭間くらいを突いてくる男。たまにいるのよ」
「よく分かんないです」
「あんたモテないでしょ?」
「ほっといてください」
「とか言って女居るでしょ?」
「まぁね」
「急にタメ語」
「アネゴは、男居ないんですか?」
「えっ?」
「いや、なんでもないです」
「居たよ」
「居た?」
「悪い男に引っかかってね」
「あちゃー」
「苦労させてもらったわ」
「それにしてもなんでこの仕事を?」
「それに私根っからのホスト狂いで。そんでラブホで夜して稼いでんのよ」
「ご愁傷様です」

『チン』

「おいおい、エレベーターでキスしてやがんぞ」
「防犯カメラあんの知らないんでしょうね」
「いや、その逆。わざと見せつけてんじゃないのかい」
「おめでたいカップルですね」
「お馬鹿にさせる場所よ、ここは。あれで意外と世間では上品に振舞ってたりするからね」
「女をとっかえひっかえ、幸せモンですね」
「ほんとにそう見える?」
「えっ?」

点滅する部屋番号。手を絡めたふたりは部屋へと消えて行った。

「っていうのは嘘」
「えっ?」
「さっきの話よ」
「Dカップっての?」
「ちげーよ馬鹿。ホスト狂いって話」
「あぁ」
「子供がさ、病気で。まぁ、今、母親に預けてんだけどさ。手術費稼がなくちゃならなくて。そんで」
「そうでしたか。なんか、すんません」
「シングルマザーも大変だ」

『ゴトン』

「ほれ、清掃行くよ新人」
「はい」
そうして誰かは夢から醒める。
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登場人物紹介

主人公はあなたです。それぞれの恋愛模様を『詩小説』で。

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