１７才
文字数 1,997文字
ゆったりしたデザインのトレーナーに、スリムなデニムパンツ。トレーナーは、デザインされたチーム名をショッキングパープルで大きくバックプリントした白。デニムパンツはところどころクラッシュ処理された黒。ここまでは全員同じ。足元は、デザインは同じだけど各々違う色のスニーカー。虹の七色のうち、チーム名に使った紫を除く、赤、橙、黄、緑、青、藍。何でかって言うと、チームが六人だから。
【青春 １７ダンスフェス】
某公共放送局が催すこのイベントに出るためのチーム。参加規程は、全員１７歳の六人組で、このフェス用のダンスを踊ること。
三月に入ったと言うのに今日は最高気温５度。もう外は暗くなり始めている時間。今は１度とか、ひょっとしたら０度かも。それでも、特別に使わせてもらっている学校の体育館の中で、私達は白い息を吐き、汗を流しながら踊っていました。
年末に送った動画、一次選考を無事に通りました。そして今度の日曜日に、地区代表を決める選考会がある。みんな真剣。
曲で言うと、サビ、に入ったところで音楽が止まった。
「ユッコ！ 回るの一瞬早い。ミミ！ また手が下がってる、左手。もう一回行くよ！」
台の上からハルが大きな声を出す。もう何度目のダメ出しか分からない。息が上がって来てる。でも、ちょっと休憩しようよ、とは誰も言わない。
そんなに難易度の高くないダンス。なので、
「何か所か少しアクロバティックな動き入れようよ」
と、ダンススクールに通っていると言うミサが最初の頃に言い出した。オリジナルの動きを入れてアピールしようと言うこと。そしてミサが考えた動きを入れて練習し始めた。すると、ストリートで仲間とダンスパフォーマンスをやっていると言うハルが、
「課題通りじゃないとアウトじゃない？」
と、助言をくれた。そう、助言。ハルはチームに入っていない。
アピールポイントが欲しいと言う私達。すると、
「このダンス、テレビで観て思ってたんだけど、メリハリなくて気持ち悪いんだよね。メリハリ付けて見たら？」
と、更に助言をくれた。それから彼女がコーチになった。おかげでキレのある動きが出来上がり、一次選考を通過。なので彼女の言うことに誰も文句は言わない。大体、私達は汗をかいているけれど、ハルはダウンを着込んだ姿で震えながら見てくれているんだもん。
日曜日の午前、栄の地下で全員集合。ハルを含めて数人の友達も来てくれた。ガラスの天井の下の広場、そこが選考会の会場。地下街の通路に面した広場なので、通行人からも見える場所。この街一番の繁華街の日曜日。どれだけの人に見られるのか……。みんなの顔にも緊張の色が浮かぶ。
受付でエントリー。学生証を確認されたりした。そして参加者の控えエリアへ。東海三県地区の一次選考通過は１０チーム。この中の２チームが、ＧＷに行われる本イベントへ行ける。代々木へ行ける。
他のチームを眺めると、みんなプロみたいに見える。格好も仕草も、何もかも余裕があるみたいに見える。普段は１分間に７０秒はおしゃべりしてる私達が沈黙。
でもそんな緊張、始まってすぐに薄まった。１組目のダンス、ハルが言う、気持ち悪い動き、でした。さんざん動画でチェックした自分たちのダンス、百倍良い。おかげで５番目で踊った時、これまでで一番のパフォーマンスが出来た、と思う。歓声と拍手に、６人とも目を潤ませて手を振った。
１０組すべてのダンスが終わってしばらくした頃、イベントスタッフがリーダーのミサの所へ来た。結果発表目前のタイミング。ひょっとして合格？ ２組に入れた？ と輝いた全員の顔が、一瞬で暗くなった。
「公共放送だからね、お役所みたいなもんなんだよ」
と、ハルが最初に口を開く。
「あ～バカバカしい。ちゃんとそう書いとけっての」
「ほんと、一次選考の時はどうなのよ、いい加減だよね」
「受信料取ってるくせに」
「って言うか、そもそも受信料こんなことに使うなっての」
みんながそんなことをボソボソ言い始める、私を見ずに。
そのうち、
「私、四月生まれだから、今日合格してても次でダメだったよ」
と、ユッコが私にそう言う。その言葉でみんなの顔が私に。
「そっか、そうなったんだ」
「なに？ そんなことまで考えなきゃいけなかったの？」
「あ～、頭硬すぎ」
「クソよ、このフェス」
みんな優しい目で私を見ながらそんなことを言う。
やがて、
「でも、この何か月かホントに楽しかった」
ミサがそう言った。
「うん、みんな最高。私も楽しかった」
ハルもそう言う。そして、
「私も」
と、口々に続く。
「このチームでやれて良かった」
少し湿ったミサのその言葉で私も頷いた。本当にそう思う。
ステージでは結果発表が始まった。でも私達はもう別世界、一番後ろでおしゃべり中。いつも通り。
スタッフが告げに来たのはチームの失格。原因は私。私の誕生日は３月２９日。今日はまだ１６才、でした。
【青春 １７ダンスフェス】
某公共放送局が催すこのイベントに出るためのチーム。参加規程は、全員１７歳の六人組で、このフェス用のダンスを踊ること。
三月に入ったと言うのに今日は最高気温５度。もう外は暗くなり始めている時間。今は１度とか、ひょっとしたら０度かも。それでも、特別に使わせてもらっている学校の体育館の中で、私達は白い息を吐き、汗を流しながら踊っていました。
年末に送った動画、一次選考を無事に通りました。そして今度の日曜日に、地区代表を決める選考会がある。みんな真剣。
曲で言うと、サビ、に入ったところで音楽が止まった。
「ユッコ！ 回るの一瞬早い。ミミ！ また手が下がってる、左手。もう一回行くよ！」
台の上からハルが大きな声を出す。もう何度目のダメ出しか分からない。息が上がって来てる。でも、ちょっと休憩しようよ、とは誰も言わない。
そんなに難易度の高くないダンス。なので、
「何か所か少しアクロバティックな動き入れようよ」
と、ダンススクールに通っていると言うミサが最初の頃に言い出した。オリジナルの動きを入れてアピールしようと言うこと。そしてミサが考えた動きを入れて練習し始めた。すると、ストリートで仲間とダンスパフォーマンスをやっていると言うハルが、
「課題通りじゃないとアウトじゃない？」
と、助言をくれた。そう、助言。ハルはチームに入っていない。
アピールポイントが欲しいと言う私達。すると、
「このダンス、テレビで観て思ってたんだけど、メリハリなくて気持ち悪いんだよね。メリハリ付けて見たら？」
と、更に助言をくれた。それから彼女がコーチになった。おかげでキレのある動きが出来上がり、一次選考を通過。なので彼女の言うことに誰も文句は言わない。大体、私達は汗をかいているけれど、ハルはダウンを着込んだ姿で震えながら見てくれているんだもん。
日曜日の午前、栄の地下で全員集合。ハルを含めて数人の友達も来てくれた。ガラスの天井の下の広場、そこが選考会の会場。地下街の通路に面した広場なので、通行人からも見える場所。この街一番の繁華街の日曜日。どれだけの人に見られるのか……。みんなの顔にも緊張の色が浮かぶ。
受付でエントリー。学生証を確認されたりした。そして参加者の控えエリアへ。東海三県地区の一次選考通過は１０チーム。この中の２チームが、ＧＷに行われる本イベントへ行ける。代々木へ行ける。
他のチームを眺めると、みんなプロみたいに見える。格好も仕草も、何もかも余裕があるみたいに見える。普段は１分間に７０秒はおしゃべりしてる私達が沈黙。
でもそんな緊張、始まってすぐに薄まった。１組目のダンス、ハルが言う、気持ち悪い動き、でした。さんざん動画でチェックした自分たちのダンス、百倍良い。おかげで５番目で踊った時、これまでで一番のパフォーマンスが出来た、と思う。歓声と拍手に、６人とも目を潤ませて手を振った。
１０組すべてのダンスが終わってしばらくした頃、イベントスタッフがリーダーのミサの所へ来た。結果発表目前のタイミング。ひょっとして合格？ ２組に入れた？ と輝いた全員の顔が、一瞬で暗くなった。
「公共放送だからね、お役所みたいなもんなんだよ」
と、ハルが最初に口を開く。
「あ～バカバカしい。ちゃんとそう書いとけっての」
「ほんと、一次選考の時はどうなのよ、いい加減だよね」
「受信料取ってるくせに」
「って言うか、そもそも受信料こんなことに使うなっての」
みんながそんなことをボソボソ言い始める、私を見ずに。
そのうち、
「私、四月生まれだから、今日合格してても次でダメだったよ」
と、ユッコが私にそう言う。その言葉でみんなの顔が私に。
「そっか、そうなったんだ」
「なに？ そんなことまで考えなきゃいけなかったの？」
「あ～、頭硬すぎ」
「クソよ、このフェス」
みんな優しい目で私を見ながらそんなことを言う。
やがて、
「でも、この何か月かホントに楽しかった」
ミサがそう言った。
「うん、みんな最高。私も楽しかった」
ハルもそう言う。そして、
「私も」
と、口々に続く。
「このチームでやれて良かった」
少し湿ったミサのその言葉で私も頷いた。本当にそう思う。
ステージでは結果発表が始まった。でも私達はもう別世界、一番後ろでおしゃべり中。いつも通り。
スタッフが告げに来たのはチームの失格。原因は私。私の誕生日は３月２９日。今日はまだ１６才、でした。
