第1話

文字数 1,097文字

 先日の土曜日、山形の庄内から花の都の東京に出張で出かけた。
 さすが東京、街は外国人観光客であふれ活気に満ちていた。
 時間がなかったので、靖国通りに面した焼肉屋で昼食のランチを食べた。いわゆる焼肉定食である。
 店員は黒髪を後ろで束ねた黒い瞳の女性で、日本人でも韓国人でもなかった。
 「ハイ、何ニナサイマスカ?」
 彼女は流暢な日本語を話した。
 「ん~、豚トロと牛ハラミの焼肉定食を下さい。」
 「ワカリマシタ。オ飲ミ物ハ何ニシマスカ?」
 「ウーロン茶を一つ下さい。」
 「カシコマリマシタ。」「コンロノ火ヲツケマスネ。」
 (日本人でも韓国の人でもなくて焼肉店に勤めるって、凄いなぁ…。一体どこの国の人なんだろう?)店員は厨房の調理人と、聞いたことのない外国語で話をしていた。
 私は山形の庄内では滅多に体験できない、国際化の現実に触れた気がした。
 出てきた定食はご飯にワカメスープ、野菜サラダ、キムチの小皿、そして杏仁豆腐の小鉢、そして豚トロと牛のハラミの載った皿だった。
 (キムチと杏仁豆腐ねぇ…?!)何となく感じるちぐはぐ感。
 火が通った牛のハラミは硬く、ビーフジャーキーのようだった。
 ご飯の粒は白く濁り、宝石のような(つや)やかな輝きを欠いていた。食べるとべしゃべしゃとして、噛んでもほのかな甘みも旨味もなかった。
 (米が不味(まず)い。)私の脳裏には日本有数の米どころ、庄内の鳥海山麓一面にに広がる、収穫前の豊穣で黄金色に輝く稲穂の絨毯(じゅうたん)の光景が目に浮かんだ。(写真1)

 毎日、普通に食べている庄内米の美味しさのレベルの高さを改めて痛感した。
 確かに国際化は大切だ。そこから新たな文化や価値観が生まれる。
 しかし、日本の本当の米の旨さ、韓国の本場の焼肉の美味しさを知らない人たちが集まって、大変失礼な言い方かも知れないが、まねごとをしても、本物を知る人たちの心を動かすことは難しいのでは…と思いながら、店を後にした。
 帰って調べたところ、その店のSNS での評判は凄くよかった。えぇ~?? (これが国際化の新しい味の価値観なのかなぁ…。)と思ったりもした。
 その後、あ~でもない、こ~でもないと思案した結果、少なくとも私は、米や肉の美味しさ、味の繊細さは国産に勝るものはないと結論した。

 さて写真2は、庄内町で行きつけの居酒屋のおにぎりである。

 酒を飲んだ締めに、大きなおにぎりにがぶりと食らいつく。噛むと庄内米のほのかな甘みと力強い旨味が口の中に広がる。指や口の周囲にご飯粒がくっつく。最後にそのご飯粒を一粒一粒、取って口に入れる。
 嗚呼、これぞ食べきったぞという充実感。
 んだんだ!
(2024年4月) 
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