第三八話 成功しすぎて経営危機?
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売上だけじゃない。魔法剣スリーパーの成功は、『ドリームアームズ』の宣伝にも間違いなく繋がっていたんだよな。俺たちの店の格を上げてくれていたことは確かだ。
……そうは言っても無い袖は振れない。経営の安定のためにも、新規販売は中止せざるを得ない、か……。
ただな、ちょっと色々と難しい問題も発生しちまうぞ。魔法剣スリーパーの安定供給のために、戈星工房とは長期契約して専門の職人を確保してる。加えて魔法協会とも似たような長期契約を結んでいるんだ。ということは、販売が滞ると、アタシらが商品を丸抱えすることになっちまう。結局、損は溜まるだけということだぜ?
待ってください。私は『一時中止』と言ったんです。あくまで一時の応急処置ですよ。せっかくのヒット商品なんですから、それを売らないなんて、お店を続けるのを諦めるようなものです。頑張って一番いい道を模索しましょう。
たしかにな。俺らは正当な商売で分割払い購入者の債権をしっかり押さえているというのに、ごく当たり前な業務のはずの回収がスムーズにできないままだ。一方で、本当は勇者は借金なんかしてなかったのに、魔王は勇者をガチガチにハメて追い込んできたわけだ。
この手際の違いはなんだ? 俺らとは経験値が違うとしかいえない。
だから提携……魔王さんと共同事業をしようって提案なんです。月賦払いの流れに魔境銀行が入ることで、私たちは代金回収のことを考えなくてよくなりますし、魔王さんはそのなかで利益を出してもらえると思うんですね。これが魔境銀行さんにとってビジネスになるのなら、魔王さんはきっと賛同してくれるんじゃないかなって。
漠然と私が思うのは、たとえば魔法剣スリーパーを月賦払いで購入したいというお客さまがいれば、まず魔境銀行さんから9万8000Gの借金をしてもらう契約を結んでもらうんですね。そして私たちは、販売代金を魔境銀行さんから受け取ります。そして魔境銀行さんが毎月の回収を担当していくという形はありえるんじゃないでしょうか。
いくつか考えられると思うのですが、一案としては、ドリームアームズが5000Gくらいを魔境銀行さんにお支払いすることですね。二案目としては、月賦払いを選択したお客さまへの商品販売代金を値上げしてしまうということもあると思います。月賦払いを選択すれば10%値上げして、その10%分を魔境銀行さんの利益にしてもらうとか。
そりゃ嫌だろうが、その代わりに月賦払いというメリットがあるんだろ。
今のアタシたちのやり方だと、普通に全額払って購入するのも、月賦払いを選択するのも、商品価格は変わらない。それじゃ大抵の人は月賦払いでいいやってなるかもな。でも商品価格が10%違うってんなら話は別で、一括で払いたがる客が増えてくれるかもしれない。
逆に考えればいいんじゃないか。月賦払いは10%商品代金が上がるんじゃない。その場で一括で支払ってくれる客の商品代金が10%下がるんだ。そっちの客は管理コストも掛からないから、10%下げても割には合う。
魔境銀行さんにとっても、すごくメリットがある提携になってくれるんじゃないかなって気がするんです。なぜなら、一取引ごとに数千Gの利益が出るというだけの話じゃないと思うんですね。魔境銀行さんのお客さまを、私たちが代行して増やしてあげることになるはずなんですよ。
そういうことだな。
回収リスクを魔境銀行が背負ってくれるなら、俺たちとしては余計なことに頭を悩まされることなく、いっそう販売に力を入れていけるというものだ。時間にも余裕ができて、その分を新規事業なんかに回していける。