ホンの小さな物語(プロット)

文字数 1,293文字

起)田舎から都会の学校に転校してきた中学二年生の奥田千春は本が大好きな女の子。引っ込み思案な千春は新しいクラスに馴染めるかと心配していたが、好きな本の話題をきっかけに、一学期中にほとんどのクラスメイトと仲良くなれた。
 でもクラスの中でただ一人、大東亮介とだけは口をきくことがなかった。亮介は制服の胸のボタンをだらしなく外し、上履きの踵を踏んでいつも退屈そうにしていた。不良っぽい彼に話しかけるクラスメイトはおらず、千春も彼を遠巻きに見ているだけだった。

承)夏休みになり、本を買おうと書店にやってきた千春は、支払いの際に財布を落としたことに気づいた。レジの前で困っている千春に「落としたぞ」と後ろから財布を差し出したのは亮介だった。亮介は千春がクラスメイトだと気づいていないようで、財布を渡すとそのまま店の奥に立ち去った。支払いを済ませた千春はあとを追いかけてお礼を言い「本が好きなの?」と思い切って尋ねた。
 亮介は本が嫌いだったが、夏休みの読書感想文の宿題のために本を買いにきていた。だが日頃から読書をしない彼は本を選べずに困っていた。
 千春は亮介の本選びを手伝うことにした。本は読まないが漫画は読むというので、アニメ化された漫画のノベライズを選んでやった。レジで亮介は小銭をたくさん出してその本を買った。

転)二学期が始まると、放課後に千春は亮介に呼び出された。緊張する千春に向かって、亮介ははにかんだ様子で夏休みに本を選んでもらったお礼を述べた。「頭の中で漫画のキャラが動き回ってとても面白かった」と。
 続けて亮介は千春に本を貸してほしいとお願いした。亮介の家庭は貧しく、本を自由に買うお金がない。夏休みに書店で支払った小銭は、親からときどきもらう食費の残りをこつこつと貯めたお金だった。
 千春は自分の持っている本の中から亮介の好きそうなものを選んで貸してやった。亮介が読み終わると、また次の本を選んで貸した。人に見られるのが恥ずかしいからと、本の貸し借りは学校ではなく、亮介の希望で近所の公園でおこなった。学校では近寄りがたい雰囲気の亮介だが、公園では普通のクラスメイトに思えた。

結)三学期の終わりに千春に本を返したときに、春休みは忙しくなるからと亮介は次の本を借りなかった。そして三年生になった春に、亮介は学校からいなくなった。母親の田舎に引っ越したのだと先生からクラスに説明があった。
 本のこと以外はほとんど話さなかったが、クラスの中で亮介と最もたくさん話したのは千春だった。クラスメイトは亮介のことをすぐに忘れたが、千春は公園の前を通るたびに彼のことを思い出した。
 夏休みになり、千春のもとに亮介から手紙が届いた。転校するのが寂しかったから黙って引っ越したことを謝り、千春のおかげで本が好きになったこと、今は学校の図書室で本を借りているが人気作は順番が回ってこなくて困ることなどが書いてあった。そして来年高校生になったらアルバイトをしてお金を貯めて、千春に会いに行くつもりだと綴られていた。
 来年までにもっとたくさん面白い本をみつけておこうと、千春はますます本が好きになった。
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