第9話 これからも一緒に路上ライブしよう

文字数 1,071文字


「これからも一緒に路上ライブしよう。」

 夏菜子は驚いた顔をした。

「何でそんなに驚いてるんだよ。」
「いや、だって。慶太くんが言うなんて。」
「え。しかも動揺しすぎて自分がお願いしたこと忘れてるぞ。」
「なにが。」
「くんって言ったから。」
「私はいいの。」

 なんかわがままだな。
 何だそれ。

 でも夏菜子ならなんだか許せる気がした。
 何でだろう。

「で。これから一緒にやってくれるんでしょ。」
「ああ。これは俺からお願いしたい。」
「いや私からもお願いしたい。」
「いやいや俺から。」
「私から。」
「いやいや…。」
「じゃあお互い様ってことで。」

 今日でわかったことはいくつかある。まずは夏菜子がわがままであると言うこと。
 でもそれはなぜか許せると言うこと。

 二つ目はどっちも腰が低すぎると言うこと。
 自分を相手より下に置くからとてつもない譲り合いみたいなのが起こる。
 多分譲り合いではないが。
 譲り合いみたいなの。

 でもこれの解決方法はもうわかった。
 どっちかが「お互い様で。」って言うこと。
 使い方が合ってるかどうかはわからないけど。

 これでどっちの意見も尊重してますよ。的な?

 最後に…。
 路上ライブがとても楽しいものであると言うこと。

 1人でやっていたらまた結果は違っていたかもしれない。
 と言うか1人でなら絶対にやらなかったであろう。

 でも夏菜子がいた。
 俺のギターで弾いてくれる人がいた。

 だからだと思う。
 ひとりぼっちじゃないから。

「じゃあ。決まりだね。」
「おう。」
「今度も楽しくなりそうだな。」
「今度はいつやるんだ。」
「来週かな。」
「了解。」
「今日よりもいっぱい人を集めようね。」
「ドームが埋まるぐらいのな。」

 夏菜子が吹き出した。
 そこまで面白かったかどうかはわからない。

 でもこの時間は今までにないぐらい楽しかった。

 夏菜子に会えて心から嬉しい。

「ねえ。この公園に来てくれてありがとう。」
「いやいやこっちこそだよ。夏菜子がこの公園に来てくれなかったら俺は今頃もう駄目だったかもしれないよ。」
「こっちのセリフだって。」
「いやいや。お互い様だね。」
「そうだね。この言葉便利だね。」
「使い方が合ってるかどうかはわからないけど。」
「そうだね。」

 こんなしょうもない会話で盛り上がれる関係。
 文化祭の時に関係が崩れて以来の関係。

 久しぶりのこの感覚を味わうとこんなに楽しかったかと思う。

 ありがとう夏菜子。この公園に来てくれて。

 これを言葉にするとまた譲り合いみたいなのが起こる気がするので言葉にはしない。

 これからも彼女と一緒に活動していきたいと思った。
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