第1話

文字数 867文字

危 惧

週五日働くと 一日が機械のように
スケジュール通りに動くことが求められて
心と身体がすっかり時間の鋳型に嵌め込まれる
朝 必ず便通があるわけではないのに
家を出る前に何とかしたいと思うし
今日はとても身体が重くて体調が悪く
とても これからそんな大量の仕事は
できないと思っても とにかく
心と身体を無理強いしながらやるしかない
そのように追い込まれるのだ
だから 金曜日に家に帰ってくると
大きな解放感に包まれる そして
心と身体を時間の軛(くびき)から解放してやる
そして 時間の枠の外に放り出された
ひとつの肉の塊になるのだ
ごろりと部屋に投げ出された肉の塊 
認識に特化したひとつの肉の塊になるのだ
この土日がなければとても人間として
生きて行くことはできないだろうと思う

そろそろ こんな生活からも解放されても
いい歳であるし 仕事や時間に縛られる
ことがない生活に強く憧れるのだが 
怖いのは認識の肉塊の幸福を貪る代償として
心も身体もすっかり洞窟の囚人に成り果てて
社会性も失い かえって廃人のようにボロボロに
なってしまうことなのだ 遥か以前に
若くしてそのようになってしまった記憶から
とても そんなことを危惧してしまうのだ
時間の軛から解放される地平が
いよいよ視界に迫ってきた今ごろになって


ファンレターさまの紹介

自由になる代償は

毎日の猛暑でお疲れのことと思います。週5日しっかりと働くことは容易ではありませんね。何十年もの歳月を規則正しく過ごすうち、心身共に鋳型に嵌まり、時間の軛に括られる。金曜日にようやく緩めてもらった肉の塊は、土日をいとおしむようにドテリと畳に寝転がり、考えることを許される…。いよいよ定年が迫ると、自由への憧れよりも不安が勝る。社会の流れからはみ出したら、どうすれば良いのかわからない。楽しみな筈の自由な時間が無限に続くことへの恐怖がわき上がり、危惧する。何だか切ない気持ちになりました。牛馬のように社会に縛られ、勤勉に汗水垂らして生きて来たのに…今この時間も歯を食い縛って働く大勢の人々が、辛い思いをしないで済むようにと願うばかりです。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み