【3】

文字数 683文字

 オペラ本編が始まるまでには15分ある。
 小夜子さんはいったんロビーに出てみた。
 プロローグを観た後で、もし、自分がこのオペラに出られるとしたらと考えた。演技の経験はないし、あんなに声を張り上げて歌えないけれど、叶うことなら、喜劇女優のツルビネッタの役がいいなと思った。
 スマホをチェックした。メールが一通きていた。同業者の調査事務所からだった。おもに企業の調査をしている大手の調査事務所である。これまでにこの事務所から頼まれて尾行を手伝ったりしたことがある。しかも、カップルを装って動くとき、その相手は決まって進藤正也さんだった。彼はイケメンで独身。また彼とデート、いや、仕事の依頼ではないだろうかと、メールを開いた。
『S県に出張していただけないでしょうか。探偵事務所が補助員を探しています』
 その場所とは、中国地方のS県の日本海側に面したところにある町だということだ。風光明媚で、砂浜を歩くとキュッと音がする鳴き砂海岸で知られていると書かれてある。
 もっと詳細を知りたいところだが、オペラ本編の開演が迫っているので、後で問い合わせることにしてスマホの電源を切った。
 第二幕のオペラ本編では、悲劇のオペラ『ナクソス島のアリアドネ』と喜劇芝居『浮気なツルビネッタと四人の男たち』が同時に上演されるのである。オペラの中に喜劇が入ると、いったいどのような展開になるのだろうか。
 オペラ本編が楽しみだ。
 第一幕のラストから想像すると、本編のオペラは、悲劇の中に喜劇が割り込むのを作曲家が見ている、という演出になるようである。

そのとき、オペラ本編の開幕を告げる予鈴が鳴った。

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