第21章:第21章:初めて「虹」が完成した日 その⑨

文字数 2,243文字

紫月、黄泉、橙羽の3人がエントランスに入ると、黄泉が2人に向かって黄泉の後ろ側に下がる様に指示を出した。

紫月と橙羽が後ろへ下がると黄泉はエントランスの出入り口とエレベーターの間にある、暗証番号でしか開かないガラス扉を軽く叩き、『これなら大丈夫そうね』と言うと腰に付けた大きめのポシェットから拳銃と銃弾を取り出した。

日廻 橙羽
『えっ! 撃つの?』

百合 黄泉
『命に比べたらやむ負えないでしょ。』

日廻 橙羽
『でも・・・。』

百合 黄泉
『いいから下がって。
(硝子の)破片が飛び散っても責任取らないからね。』

そう言うと黄泉は硝子扉に向かって銃弾を3発打ち込み、銃弾に弾かれた硝子は粉々に崩れ落ちた。

黄泉は弱りながらも引っ付いている尖った硝子を蹴り崩し道を広げると、郵便受けのネームプレートに白華から教えてもらった名前がある事を確認した後、『行くわよ』と言い3人はエレベーターの方へと向かった。

エレベーターが1階に着くと3人はエレベーターに乗り込み、目的地である5階の部屋へと向かっていた。

そんな中、目的の部屋が近寄って来るにつれて、その部屋に明らかな違和感がある事に気が付いた橙羽は、不安そうな表情で紫月の服の裾を握り締め話し始めた。

日廻 橙羽
『ねえ、アサガオちゃん・・・。
あの部屋のドア・・・空いてるよね・・・?』

紫月が部屋の方へ目をやると、橙羽の言う通り微かに扉が開いており、室内の灯りが少しだけ外へと漏れていた。

朝顔 紫月
『本当だね・・・。』

百合 黄泉
『玄関に鍵を閉める事も無く中に居る人の方へ向かったのか、それとも私達の存在に気が付いて何かしらの意図で扉を開いているのか分からないけど、皆で一気に入るのは止めておいた方が良さそうね。』

朝顔 紫月
『そうだね。
取り敢えず、皆球体を手に持っておこ!』

日廻 橙羽
『うん。』

3人は白と黒に彩られた球体を手に持ち、扉の前に到着した。

朝顔 紫月
『それじゃあ私、入ってくるね。
もし私が5分経っても出て来なかったら、2人は1階へ逃げてリーダー達に連絡して。』

紫月がそう話すと、黄泉が橙羽の頭の上にポンと手を乗せ『一人じゃ危険よ。私も行くわ。』と言い終わると、黄泉は不安そうな顔で佇む橙羽の顔を覗き込み、『5分経っても私達が出て来なかったら、リーダー達に連絡して、早く来る様に伝えなさい! 分かった!』と伝え、紫月と黄泉は玄関の中へと入って行った。

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紫月と黄泉が室内へ入ると、電気はついてあるもののベビーベットに赤ん坊の姿も無く、御飯も炊けてはいるがリビングや部屋に人の気配は無く、玄関にも靴一足無かった為、どうやら外出している様だった。

朝顔 紫月
『留守みたいだね。』

百合 黄泉
『一応、部屋の中も調べておきましょう。』

紫月は部屋の奥にある押入れの方へと近付き、黄泉と顔を見合わせると、唾をこくりと飲み込んだ後、押入れを引いたのだが、そこには大人用の布団が2枚あるのみで、特に変わった所は無いのであった。

朝顔 紫月
『確かに5階には、上がって行ったのにね。』

百合 黄泉
『まだ外廊下に居るかもしれないわね。
だとすればヒマワリちゃんが危険だわ。』

黄泉が再び玄関の方へ向かって行くと、室内の廊下に面した洗面所の扉が急に開き、その中から先程1階で見た男が無表情でゴルフクラブを振り下ろして来た。

朝顔 紫月
『黄泉ちゃん! 危ない!』

紫月は、慌てて球体を壁に打ち付けて破損させたが、運動神経の良い黄泉は、ギリギリの所でゴルフクラブを避け男のお腹に蹴りを入れていた。
そして男が怯んだ隙に紫月の手を引き外廊下へと駆け出して行ったのだった。

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急に扉が開き紫月と黄泉が飛び出て来た事に驚き飛び上がる橙羽。

日廻 橙羽
『何! 何! 何があったの!』

百合 黄泉
『良いから着いて来なさい!
追い付かれても知らないわよ!』

そう言いながら黄泉は紫月の手を引き外階段の方へと走って行った。
その少し後ろに続き、何も分からないまま走る橙羽。

日廻 橙羽
『何があったの?』

そう言いながら橙羽が後ろを振り向くと、先程の男が無表情でゴルフクラブを片手に走って来ていた。
その男の瞳は、先程見た時とは明らかに違っており、物凄く燻んだ感情を感じ取れないものだった。

黄泉は振り返り青褪めた表情の橙羽に『(状況が)分かったでしょ。 取り敢えず、1階まで駆け降りるわよ。』と冷静な口調で話し掛けると、階段を駆け降りて行った。
その後を同じく息を切らしながら階段を駆け降りる橙羽。

日廻 橙羽
『中の人は、どうなったの?』

朝顔 紫月
『運良く、外出中だったみたい。』

紫月と橙羽が話している間も、男が階段を降りてくる足音が少し上の方から聞こえて来ていたのだが、その足音は、乱れる事無く一定の間隔を保ち続けており、男の足音からは、疲れた様子が一切感じられなかった。

日廻 橙羽
『疲れたぁ〜!』

百合 黄泉
『疲れてでも走りなさい!』

朝顔 紫月
『1階に着く頃には、リーダー達来てるかな?』
 
百合 黄泉
『さあね?』

3人が1階に着くも葵達の姿は見当たらず、3人はマンションを飛び出した後、紫月と黄泉は植え込みにある花壇に身体を隠す様にして、橙羽を休ませていた。

朝顔 紫月
『どうしよう・・・。』

百合 黄泉
『流石に、もう来るでしょ?』

そんな話しをしていると、隣にある花壇に向かって猛スピードで車が突っ込み、3人が恐る恐る車の運転席を眺めると、そこには血走った目でこちらを眺める、先程の男の姿があったのであった。
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