青虫

文字数 852文字

小松菜ジュースを飲み終わったあと、加奈は、「おえっ」と言って吐き戻しそうになった。
小松菜の切れ端の上を、青虫が歩いている。

急いでて、よく洗わなかった…。
やだっもしかして私、青虫も一緒にミキサーにかけちゃった?
んで、いまそれを飲んじゃった?
やだやだどうしよう、おえーっ。


その夜、加奈は、物悲しい夢を見た。
美しい女が部屋に入ってきて、加奈の枕元に立つと、しくしく泣きはじめた。
あまりにも悲しそうに泣くので、聞いている加奈まで、胸がはりさけるように悲しくなってきた。
女は、泣きながら、加奈に言った。

「どうしてですか? ・・・・・ねえ、どうして、夫を殺したの? 夫は何も悪いことをしていないのに! わたしたちは、畑でしあわせにくらしていたんです。・・・・・蝶になったら、必ず結ばれることを約束して、しあわせにくらしていたんです。・・・・・なのに、あなたは、夫を殺してしまった! 夫があなたに何をしたと言うんです? 自分がどんなにひどいことをしたか、わかっていないんですね。あなたは、夫だけでなく、わたしも一緒に殺したんですよ。・・・・・だって、わたしは、夫なしには生きられませんから。・・・・・わたしは、そのことを言いにきたんです」

それから、女は、またひとしきり泣いた。
悲しげな声が、聞いている加奈の骨のずいにしみこむほどだった。
そして、女は最後に、こう言った。

「あなたは知らないんですね。あなたにはわからないんですね。自分がどんなことをしてしまったのか。明日、目が覚めれば、わかります。そう、きっと、わかります・・・・・」

はらはらと涙を流しながら、女は出ていった。

朝になって目が覚めたとき、この夢は、加奈の記憶にはっきり残っていた。
とてもいやな気分だった。
女の言葉がよみがえってくる。
「明日、目が覚めれば、わかります。そう、きっと、わかります・・・・・」


加奈の枕元を青虫が這っており、加奈の方に、顔を、もたげていた。


加奈は頭を剃り、僧になった。
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