電車

文字数 908文字

 私は気分よく電車に乗った。法律は犯していないが、小中高で散々良くないものと教わってきた行為をしてなんだか気分が良かった。

 ガタンゴトンという音が身体になじんできて段々と聞こえなくなってきたころに京都駅に着いた。ぷしゅーとドアが開きそして閉まろうとするとき一人の女性が急いで乗り込んで横に座ってきた。昼の電車だから空いている席はたくさんあるのになぜか私の横に座わった。

 美人かといわれるとよく分からないが、目はぱっちりしていて、痩せ型でどちらかといえば好みだ。その顔を何度も確認したいがじろじろとみるのもなんだかなぁと思い、私は窓の方を見ながら、窓に映ったその女性を見ることにした。

 私の煙草のにおいに気付いているのだろうか。女性は特に変わった表情はしなかったが私は煙草も受け入れるタイプの女性だと決めつけた。

 それからしばらくして車内のアナウンスが聞こえた。鼻にかかったような高い声だ。低いよりはいいが、独特すぎてなんといっているか分からない。首を動かすとモニターには膳所(ぜぜ)駅と書いてあった。

 膳所ときくたびにあまちゃんで流行ったじぇじぇじぇが思い出される。受け入れてくれなさそうなのでこの冗談は誰にも言ったことがない。窓を見ながらを女性を観察していた。女性は動画を見て笑っていたので私は受け入れてくれるタイプの女性だと決めつけた。

 膳所駅に着いた。私は観察を止め、景色を眺めていると突然、女性がこれは何と読むのですかと標準語で聞いてきた。女性は電話をしながら紙に書かれた「膳所」という文字を見せてきた。私は話しかけられると思っていなかったので驚いて、ちょっと噛んでしまい「じぇじぇ」といった感じの言葉を発した。女性は笑わず逃げるように荷物を抱え外へ飛び出していった。近くの人ぶつかりながら出て行った。みんなぶつかられているのに誰も気にしていない。

 そのときぱっと視界がひらけ、車内がよく見えるような気がした。車内のみんながスマートフォンをみていた。女性がいてもいなくても全く関係ないという感じだった。女性の姿も見えなくなり、私はリュックの中からスマートフォンを取り出した。鞄のなかの煙草はくしゃくしゃになっていた。
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