1枚目

文字数 2,215文字

 この手紙があなたの手に渡っている時、すでに私は死んでいる。
 厳密に言うと違うんだけどね、肉体はバッチリ生きているはずだから。
 というか私の身体が死んでたら、この手紙はそもそもあなたの手に渡っていないわけで。
 だけど魂はもう完全完璧に死んでいる、私の魂はこの手紙を受け取ったあなたがいる時間軸から2年前の4月1日にこの世から永遠に失われているはずだ。
 身体は生きているけど、中身は完全に死んだものだと思ってほしい。
 わけがわからない? 意味がわからない?
 だろうねえ、だからそろそろ説明してあげる。
 私は星歴2019年4月1日に時間遡行の魔術を使って、あの日に、つまり星歴2017年4月1日にタイムトラベルした。
 そんなことできるのかよと思われてるんだろうけど、まあギリギリなんとかなった。
 私、魔力は結構あるし、ちょっとしたズルも使ったから。
 ちなみにこの手紙は2017年4月1日に書いている。
 この時間軸の私は地下に引きこもっていたから知らなかったけど、話に聞いていた通り本当にいい天気。
 なんで私が時間遡行なんかしたのかというと、ある人を復活させるためだった。
 あなたの一番大事で大切な人を。
 かつて世界を救った英雄の模造品の完成品にして、失敗作である私の妹を。
 それこそできるわけがないだろうとあなたは私にツッコミの声を上げているんだと思う、その顔を想像すると少しだけ笑える。
 確かに、時間遡行を利用して死んでしまった人を生き返らせようとした人はたくさんいたけど、それらは全て失敗した。
 修正力に邪魔されて、生かしたとしてもすぐに死んでしまうか、そもそも生かそうとするその行為そのものが失敗してしまうか。
 とにかく、時間遡行による死者の蘇生の成功率は現状では0%だったというわけで。
 それでも私は彼女の復活を目論んだ。
 偶然じみた奇跡により私は一つのとある方法を編み出してしまったから、それを実行させたんだ。
 思いついた時はちょっと天才かと思ったよ、深夜テンションだったのもあってガラにもなく大はしゃぎしちゃった。
 で、どんな方法を思いついたのかというと、こんな感じになる。
 ① 彼女が死ぬ前の時間軸(2017年4月1日)まで時間遡行する。
 ② 死にかけている彼女と私の魂を交換する。
 ③ 彼女の魂を持つ私の肉体を元の時間軸(2019年4月1日)に戻す。
 というような感じ。
 彼女が死ぬという事実が変わらないのであれば、彼女を彼女ではない誰かにしてしまえばいい。
 あなたにとっても世界にとっても重要なのは彼女の魂、ならばそれだけを死の運命から逃すことはできるんじゃないか、そう思った。
 多分成功するんじゃないかなと思う。
 彼女の肉体は死ぬわけなんだからこれは『死者の蘇生』ではないし、彼女と私の肉体はほとんど同一だから魂が肉体に拒絶反応を示すこともないだろう。
 この方法なら、きっとなんとかなる。
 と、いうわけで、あなたに手紙を渡したのは彼女の魂を持った私の肉体というわけだ。
 そして彼女の死にかけの身体を引き取った私の魂は、彼女の肉体と共に2017年4月1日に死んでいるというわけだ。
 あなたなら今あなたの目の前にいるのが私ではなくて彼女であることが理解できると思う。
 それでもタチの悪い悪戯だと疑うのであれば、彼女の魂具を見せてもらうといい。
 魂具は魂そのものを武器として具現化させたもの、失敗作の私と完成品である彼女のそれが全く違う形で全く違う性質を持っていることをあなたはよく知っているでしょう?
 そして喜ぶといい、あなたの一番大事な人があなたの元に戻ったのだから。
 咽び泣いてぴょんぴょん飛び跳ねてガッツポーズも決めてなんなら踊り狂って、とにかく派手なリアクションをして喜ぶといい、あなたの一番の望みが叶ったのだから。
 そして私を褒めるといい、類稀なる奇跡を起こした私に未来から喝采を送るといい。超褒めて超讃えろ。
 彼女の肉体が私のものになってしまうのは申し訳ないけれど、そこはまあ妥協してほしい。
 あなたは彼女のロリィなボディが好きだったのかもしれないけど、どうせいつかはこうなっていたはずなんだし。
 それにあなたの隣に立つにはちょうどいい年頃でしょう、彼女が生きていたとしても本来の年齢だと若干犯罪臭がする感じだし。
 いやね? あなたがもう少し愛想のいい顔だったら顔の似てないちょっと年の離れた兄妹かなって感じだけど、あなたってば本当に愛想ないし目つき悪いから誘拐犯っぽい感じじゃん?
 あ、今怒ったでしょ。
 でもざーんねん、事実だから。
 事実は幸福とともに受け入れるといい。
 まあそんな感じで色々と理解して受け入れて、私の肉体によって奇跡の大復活を果たした彼女と共にせいぜい頑張って世界を救いたまえ。
 と、筆を置きたいところだけど、きっとまだ他に知りたいこともあるだろうから、2枚目まで続けようか。
 この時点でもう気になることなんてないのなら2枚目は読まなくて構わない、ゴミ箱にでも放っておいて。
 それでもまだ気になることがあるのなら、何かが納得できないというのなら2枚目を開くといい。
 お望みの答えが見つかるかもしれないからね。
 それではここらで一旦挨拶を。
 さようなら、せいぜい達者に生きるといい。
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