2枚目

文字数 2,331文字

 と、いうわけで2枚目に突入だ。
 あなたがここまで付き合うような物好きかどうかはわからないけど、読まれているという前提で書いていこうと思う。
 さてと、とりあえず1枚目にはあえて書いておかなかった事を書いていこう。
 簡単に言ってしまえばこんな事をした動機というやつね。
 時間遡行をして、自分の身体を捨ててまで彼女の復活を企てた動機。
 星歴2017年4月1日に彼女の肉体は確実に、そして完璧に死んだ。
 生きているかもしれない、などという可能性は全くない、絶望的なまでに彼女の死は完璧だった。
 完璧に死ぬ身体の持ち主と魂を交換すれば、その後どうなるかなんて馬鹿でもわかる。
 死ぬ。確実に完璧に死ぬ、それ以外に道はない。
 デッドエンド以外にあり得る可能性は一つもない。
 では、何故私は絶対に死ぬとわかっていて、それでも彼女を復活させようとしたのか。
 その動機を、今から綴ろうと思う。
 と言っても大した動機なんて実はなかったり。
 でもまあ、変なことまで深読みされて億劫になられるのも嫌だし、一応ちゃんとした理由は書いておこうか。
 別に誰かのためだったわけじゃない、世界のためでもなければ勿論あなたのためでもない。
 強いていうのなら私のためであったのだけど、別に自己犠牲的な欲望があったわけでもない。
 あ、それから人生には一切悲観していなかった。
 生きているのが辛いから、とかそういうのも一切ない。
 ここを勘違いされると一番嫌だから宣言しとく、私は辛いことがあったとか、何かに絶望したとかいう理由でこんな事をしたんじゃない。
 じゃあなんなんだっていうと、ただ飽きただけ。
 ――どうして彼女ではなくお前が生きているのか。
 ――どうしてお前ではなく彼女が死んでしまったのか。
 ――彼女が生きていればよかったのに。
 ――お前が死ねばよかったのに。
 ――何故完成品ではなく失敗作が生きているのか。
 その嘆きにはもう飽きた。
 最初の頃はこの世界崩壊の危機という辛く厳しい現実に耐えきれなかった心の弱っちい人間どもが妙ないちゃもんつけて精神安定を図ってるなって愉快に馬鹿にしてたわけだけど、言われすぎると流石に飽きる。
 それに飽きると同時に生きていることにも飽きた、元々大した理由もなく惰性でなんとなく生きていただけだったし。
 だからといって首を吊ったり高所から無防備に飛び降りたりするのも癪だったので、誰もがあっと驚く方法でこの崩壊間近の世界から一足お先にフライアウェイしようかなって。
 それで色々考えているうちに、自分の身体を使って彼女を復活させるという方法を思いついた。
 思いついた瞬間に馬鹿馬鹿しいとは思ったけれど、同時にそれは私にとってどうしようもないくらい理想的な消え方だった。
 だから実行に移した、思いついたのが2017年の2月半ばだったから、準備期間は約1ヶ月半。
 その間に準備をしつつほんの少しの未練を潰して回って、決行の日を迎えたというわけだった。
 未練を潰して回るうちに勘のいい何人かには何かやらかそうとしている事を勘付かれかけたけど、それでも具体的に何をするかは気付かれずにサプライズのまま実行に移ることができて安心している。
 この手紙を書き終わったら、私は彼女の元に向かおうと思っている。
 死ぬ事への恐怖は不思議なほどない。
 だからと言って楽しみでもなんでもないけど。
 元々惰性で生きていたからだろう、今から確実に死ぬというのに、ほとんどなんとも思わない。
 色々と準備している時もほとんどなんとも思わなかった、途中で多少は躊躇うんだろうなって思っていたけど、そんなことは全然なかった。
 そのくらい、私にとって自分が生きていることはどうでもいいものであったらしい。
 だから結局止まらずにこんなところまで来てしまったというわけだ。
 彼女を殺してでも私と生きたい、嘘でもそんな戯言を言ってくれるような大馬鹿がいたのなら、途中でやめていたのだろうけど。
 なんてあり得るはずのない可能性をみっともなく語ったところで、そろそろ筆を置こうと思う。
 そろそろさようならだ。
 ところで私がいなくなった代わりにあなた達は彼女という最高にして最高の戦力を手に入れたわけなんだから、当然世界を救ってね?
 手前勝手だと怒られそうだけど、ここまでしてやったんだからバッドエンドは許さない、ノーマルエンドならギリギリ妥協してやるけど。
 せめて負けるな、できれば勝て。
 そのくらいのことはやってくれると信じているよ。
 それでは永遠にさようなら、世界を救ったのち平和になった世界でオシアワセにのうのうと生きやがれ。
 2年前の過去より、未来を生きるあなたたちの息災を願って。

 P.S.
 どうしても私の事が気になる、負い目が、心残りがあるというのであれば同封した封筒を開くといい。
 そこにとある偉大な魔法使いの連絡先を入れておいた。
 代金はもう支払っているから、きっとなんとかなるだろう。
 それでは本当にさようなら、ここまで読んでくれた勤勉なあなたに、お疲れ様の言葉を送ろう。

 さらにP.S.
 ああ、そうそう。私が死んだことに関して誰かが負い目を持つ必要は全くないよ。
 誰かのために彼女を復活させたわけじゃないし、誰かのせいで死を選んだわけではないから。
 私がただ単に人生に飽きて死ぬついでに、ちょっとばかし世界を救う手伝いをしただけだったんだから。
 だから素直に彼女の復活を喜ぶといい、悲しまなければいけないと思う必要はない。
 だから、私のことなんてさっさと忘れてしまえ。
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