ある月曜日のこと
文字数 1,999文字
ドンッ! ズボッ、ゴソゴソゴソ
「んんっ……まだ……」アラームは鳴ってない。
ぺろぺろ
「くすぐったいってば……」
ギャーッ!
「うわっ!」目が覚めた。
目覚まし時計を見る……秒針、止まってる!
慌ててスマホを見た。
もうこんな時間! マズいっ、寝坊したっ!
「あーっ、フージュ、判 ってるんならなんで早く起こしてくれなかったのよぉ!」
私は相棒に苦情。
言われた相棒はソッポを向いていた。
いや、私ももちろん解 ってるけど。これでは自分に甘すぎる。けど、まさか時計が止まるとは。
いや、とにかく! 時間がない! 起きぬけの私はとりあえず服を羽織 って、朝の支度 を急いだ。今朝は、シャワーは省略だ。
私は深水 瞳 。歳はざっくり言うと20代の後半。私と相棒は
私の朝は早い。お店を開けなくちゃいけないからだ。
結局、開店時刻に間に合った。今日は月曜、わりと暇な曜日だ。相棒も計算済で、ギリギリに起こしたな……。
今日は地元のコミュニティ紙の取材が来たので、お店の説明をする。
ここが、私たちのお店。店の名は、「パティスリー ラ シャット ブロンシュ 」。いえ、なんのことはない、「白猫 洋菓子店」です。
当店は不定休。開店は9時と早め。お昼休みを挟んで、閉店は遅くとも16時。暗くなる前には閉めちゃいます。でも実際には売り切れれば閉店ですので、もっと早いですね。
で、これが白猫のフージュ 。当店の看板猫 。この猫、昼間はほとんど寝てます。なので、触らせてくれそうな気がするんですけど……。あっ、やめたほうがいいですよっ!
「シャーッ! フーッ!」
触ろうとすると、こんな風 に怒るんで。私にしか懐 かないんですよ。私一筋 なんです。
うちの洋菓子職人つまりパティシエールは私ではなくて、別にいます。それが、店内に写真も掲げてありますが、谷口茜 、当店の共同経営者 です。彼女が夜中に作っています。
そうですね。茜は夜型なんです。日中は寝てまして、店には顔を出さないんですよ。
当店のオススメですか? ガトーショコラですね。特に2月3月は、売れ行き抜群 です。
――こんな感じで、取材が終わった。
そしてお昼休みを挟んで、午後の特別なことといったら――
「こんにちはー」
「あっ、いらっしゃいませ!」
近所に暮らす顔なじみのカップルがやって来た。誕生日や記念日だけでなく、普段から買いに来てくれる。もうお互い名の知れた仲。背の高い方が聖良 さん。もう一方が彩奈 さんだ。
「あの、ケーキのオーダーメイドをお願いしたいんですよ」聖良さんが切り出した。
「どんなケーキですか?」問い返した私。
「実は、ウエディングケーキを……」
聖良さんは恥ずかしそうに、はにかんだ。
「いよいよなんですね、おめでとうございます!」
ついに、きたか!
「ミャー」傍 らの椅子の上でうたた寝していたフージュも声をあげた。
「あ……ありがとうございます……」顔が真っ赤な彩奈さん。
「それで。ウエディングケーキですか……。オーダーメイドとなると、私じゃなくて実際に作る茜が直接に御注文をお聴きした方がいいですね」
「なるほど。そうですよね」
「それで御面倒をおかけし申し訳ないのですが、茜が仕事に出てくる夜に、また来ていただけないでしょうか?」
「何時頃がいいでしょう?」
「例えば、今夜の7時はいかがでしょうか?」
というわけで、茜の仕事のアポが入った。
日も傾いてきたら店を閉める。入口に『本日終了』をぶら下げ、カーテンを閉めて、外のシャッターを半分下ろした。
家を玄関から回り込んで戻ってくると、茜が帰ってきていた。
「おつかれ……」
茜を私は温めるように抱きしめて、頬に口づけた。
「今朝のお返しギフトだよ」
弾圧され、理不尽にも刑罰として呪いも受けた。故郷を棄 てて移り住んだこの街。私たちが二人でこうしていられる時間は僅 かしかない。だけどたくましく、少しでも幸せに生き抜いている。
茜が『朝風呂』を済ませ、仕事着をまとって準備。
「今晩はお客さん来るからな」
メイクにも余念がない。
そうこうしていると。
「こんばんはー」
約束していた二人がやってきた。
「あなたが茜さんですね」と、聖良さん。
茜のことは写真では見ていたわけだから、もちろん判る。
「はい! 初めまして!」
茜は、第一印象が大事といわんばかりの勢いだ。
彩奈さんが私を見つけて言った。
「あれ? 茶色だ。ほかにも猫、いたんですね」
「そうなんですよ」
「なんていうんですか?」
「なまえですか?ウイユ っていいます。普段は『ウイ』って呼ぶことが多いですけどね」
「そうなんですか。ウイぃー」彩奈さんが呼んだ。
「にゃ」
「チョコみたいで美味しそうですけど、ゼッタイに食べちゃダメですよ」茜が笑った。
いやいや。食べられてなるものかッ!
――私は茜だけのものなんだから。
「んんっ……まだ……」アラームは鳴ってない。
ぺろぺろ
「くすぐったいってば……」
ギャーッ!
「うわっ!」目が覚めた。
目覚まし時計を見る……秒針、止まってる!
慌ててスマホを見た。
もうこんな時間! マズいっ、寝坊したっ!
「あーっ、フージュ、
私は相棒に苦情。
言われた相棒はソッポを向いていた。
いや、私ももちろん
いや、とにかく! 時間がない! 起きぬけの私はとりあえず服を
私は
ワケ
あって、この街に避難してきた。いまは自宅の一階で洋菓子店を開いている。私の朝は早い。お店を開けなくちゃいけないからだ。
結局、開店時刻に間に合った。今日は月曜、わりと暇な曜日だ。相棒も計算済で、ギリギリに起こしたな……。
今日は地元のコミュニティ紙の取材が来たので、お店の説明をする。
ここが、私たちのお店。店の名は、「
当店は不定休。開店は9時と早め。お昼休みを挟んで、閉店は遅くとも16時。暗くなる前には閉めちゃいます。でも実際には売り切れれば閉店ですので、もっと早いですね。
で、これが白猫の
「シャーッ! フーッ!」
触ろうとすると、こんな
うちの洋菓子職人つまりパティシエールは私ではなくて、別にいます。それが、店内に写真も掲げてありますが、谷口
そうですね。茜は夜型なんです。日中は寝てまして、店には顔を出さないんですよ。
当店のオススメですか? ガトーショコラですね。特に2月3月は、売れ行き
――こんな感じで、取材が終わった。
そしてお昼休みを挟んで、午後の特別なことといったら――
「こんにちはー」
「あっ、いらっしゃいませ!」
近所に暮らす顔なじみのカップルがやって来た。誕生日や記念日だけでなく、普段から買いに来てくれる。もうお互い名の知れた仲。背の高い方が
「あの、ケーキのオーダーメイドをお願いしたいんですよ」聖良さんが切り出した。
「どんなケーキですか?」問い返した私。
「実は、ウエディングケーキを……」
聖良さんは恥ずかしそうに、はにかんだ。
「いよいよなんですね、おめでとうございます!」
ついに、きたか!
「ミャー」
「あ……ありがとうございます……」顔が真っ赤な彩奈さん。
「それで。ウエディングケーキですか……。オーダーメイドとなると、私じゃなくて実際に作る茜が直接に御注文をお聴きした方がいいですね」
「なるほど。そうですよね」
「それで御面倒をおかけし申し訳ないのですが、茜が仕事に出てくる夜に、また来ていただけないでしょうか?」
「何時頃がいいでしょう?」
「例えば、今夜の7時はいかがでしょうか?」
というわけで、茜の仕事のアポが入った。
日も傾いてきたら店を閉める。入口に『本日終了』をぶら下げ、カーテンを閉めて、外のシャッターを半分下ろした。
家を玄関から回り込んで戻ってくると、茜が帰ってきていた。
「おつかれ……」
茜を私は温めるように抱きしめて、頬に口づけた。
「今朝のお返しギフトだよ」
弾圧され、理不尽にも刑罰として呪いも受けた。故郷を
茜が『朝風呂』を済ませ、仕事着をまとって準備。
「今晩はお客さん来るからな」
メイクにも余念がない。
そうこうしていると。
「こんばんはー」
約束していた二人がやってきた。
「あなたが茜さんですね」と、聖良さん。
茜のことは写真では見ていたわけだから、もちろん判る。
「はい! 初めまして!」
茜は、第一印象が大事といわんばかりの勢いだ。
彩奈さんが私を見つけて言った。
「あれ? 茶色だ。ほかにも猫、いたんですね」
「そうなんですよ」
「なんていうんですか?」
「なまえですか?
「そうなんですか。ウイぃー」彩奈さんが呼んだ。
「にゃ」
「チョコみたいで美味しそうですけど、ゼッタイに食べちゃダメですよ」茜が笑った。
いやいや。食べられてなるものかッ!
――私は茜だけのものなんだから。