文字数 525文字

 ゲレンデに着き、他のスノボ客に紛れるため、ウエアとボードをレンタルする。
初めてしたバイトのお金が、まさか自殺資金に消えるなんて。そんな気はしてたけど、ほんまにそうなってしもた。

 まだ、日が暮れるまでは時間があった。一人で、無心で坂を滑り下りては、リフトに乗る。
 何て無駄なんやろう。下るために上って、上っては下って。お金と体力と時間を遣って、みんないったい何をしてるんやろう。
 
 ゴオ、と派手な音を立てて、上級のスノーボーダーが風のように走り抜けていく。
小さい頃は、両親に連れられてよくスノボをした。父も母もスノボが上手で、熱心に教えられたものだ。あの頃は、無駄かどうかなんて、考えもしなかった。ただただ、上達するのが嬉しくて、父と母に近づくのが嬉しくて、何度も何度も転んでは、何度も何度も起き上がった。

 あの頃は、良かったなあ。
 私が小さく、無垢で、出来ることより出来ないことの方が多かった時代、父も母も私に優しかった。それが、私が従順ではなく、幼い可愛さを脱ぎ捨て、大人の仲間入りを果たそうともがきだすと、父も母も途端に私から興味を失った。
「昔は可愛かったのに、どうして今はこんなに可愛くないのだろう」そう嘆いた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み