2 ✿ 黒手配書

文字数 2,081文字



 死んだはずの女性が生きている。
 警視庁の特殊課では、緊急会議が開かれた。
 この件を担当することになったのは四名だ。

 鞍馬(くらま) (まさる)
 宿木(やどりぎ)(えん)
 中武(なかたけ) (まなぶ)
 黒木(くろき) 智子(ともこ) の四人である。

「まず、オーレリア・ジョンソンという女性について話しをしたい。インターポールを通して得た捜査情報を元に、話すぞ」

 勝が、プロジェクターの前で話す。
 マリーの絵とそっくりの人物の写真が、プロジェクターに表示された。

「オーレリアは、日系ハーフだ。化粧品専門のインターネットショッピングのサイトを開き、香港に事務所をかまえていた。だがある日、事務所で虐殺事件が発生した」

 この事件については、(えん)(まなぶ)智子(ともこ)も、概要だけは知っている。世界各地で起こった魔法犯罪の情報は、ひととおり目を通しているのだ。

「社員の多くが殺され、監視カメラも破壊されていたが、奇跡的に一命をとりとめた警備員の証言が残っている。犯人は、黒いフードをかぶった人物だったという。突然身体が宙に浮かび、壁にたたきつけられ、腹部を撃たれたそうだ」

 智子は「なんてむごい」と眉をひそめた。

「社長のオーレリアは社長室で何者かに射殺された。そして死んだオーレリアの横には…」

 勝は、ごくりとつばを飲む。

オーレリアと瓜二つの女性の死体が転がっていた

 (えん)(まなぶ)智子(ともこ)
 三人の表情がとたんに緊張を帯びた。

「事件を捜査した香港警察は、はじめどちらがオーレリアか分からなかったという。【黒手配書】が出されているのは、そっくりの死体に対してだ」

 黒国際手配書。
 身元不明の死体に対して出されるものだ。

「世間に認知されていない、双子の姉妹がいた、ということですか」

 学が訊ねる。

「オーレリアに双子はいないはずだった。彼女の両親はすでに他界していたが、産んだのはオーレリア一人のはずなんだ」

「産んだことを隠して、他に預けたとか…? なにか事情がありそうだ。預けた先からお金をもらったとか、犯罪組織の一員だったとか」

 円は、思いついたことを、メモに記す。

「そして今日、展覧会で起こった痴漢事件だ。偶然その場に居合わせたマリー・ローゼンクランツさんが犯人を目撃し、得意の人物描写で再現してくれた。ラルフさんによると、彼女の記憶力は昔から人並み外れているという」

 勝はスクリーンに、痴漢の似顔絵を表示した。

そっくり
 円が言うと、学と智子もうなずいた。

三つ子だった……とか? これは他人の空似のレベルでは…」
 学はあれこれと推理する。

「質問、よろしいですか」
 智子が挙手した。

「死体発見現場ですが、香港警察はいかにして、どちらの死体がオーレリアさんと判別したのでしょう。同じ現場には瓜二つの女性の死体があったというのに」

「現場の写真がある。少し、ショッキングなものだが…」

 勝はスクリーンに、現場の写真を表示した。

「オーレリアさんはこの通り、スーツ姿で電灯から逆さに吊るされていた。吊るされた状態で射殺されたようだ。オーレリアさんと言われたこの遺体について、背中にできたバラ疹が、彼女だと判断する要素になった」

 勝は、オーレリアの背中を映した写真を出す。

「彼女の通っていた性病科から、彼女が梅毒にかかっていたことが分かった」

 円たちの表情がにわかに強張った。

「……。バラ疹だけでは、少々…決定打に欠ける気がします」
 智子の意見に「俺もそう思う」と勝が言う。

「赤い斑点がたくさん…。アトピーみたいや。梅毒ってこういうもんやっちゃ」

梅毒は怖いぞー、学」
 会話を耳に入れていた勝が、スクリーンをつけたまま、彼と目を合わせる。

「梅毒はキスでも感染する可能性が高いからな」

「え」

「それくらい感染力の強い病気なんだ。最近また流行しているらしいな。真剣交際している男女でも、元カレや元カノからうつされる。初期症状に気づかない期間に、他の人にうつす可能性があるのが厄介だ」

「…なるほど。俺や勝のような奥手な男性は、安全圏だな」

「……。会議中だぞ、円。余計な発言はつつしんでくれ」

「仕事が忙しくて、彼女もつくれないしなぁ。俺たちの仕事を聞くと、いつ死んでもおかしくない…って女子に敬遠される。学と智子はいいなぁ。職場結婚、うらやま」

「同郷やしね。お互い昔から知っちょっとよ」

「くされ縁、とも言います」

「トモちゃん!? くされはないやろ~、くされは」

 学が、地味にショックを受けていた。
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登場人物紹介

マリー・ローゼンクランツ


 絵画修復士を目指す少女。

 事件に巻き込まれ、傷心旅行で日本へやってきた。

(事件の詳細は、前作:ローゼンクランツの王 を参照)

守部 良治 (もりべ・りょうじ)


 高校二年生。球児。

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