第9話

文字数 7,738文字

暗闇で高橋は考える。大森たちはもう薬が盗まれた事に気づいただろうか?よほどずさんな管理でない限り気づいているだろう。今は誰が盗んだか見当している最中かもしれない。盗んだ時には指紋などは残していないにせよ、時期からいって俺が有力な候補に挙がっている事は間違いない。奴らは裏で暴力団などと繋がっているのだろうか?なにせ国からの承認のない安楽死用の薬なんかを作っている連中だ。どこと繋がっていても不思議ではない。最初のアンケート用紙にバカ正直に本当の住所などを書いてしまったから家に戻るのも危ない。住所と同時にこれまた本当の携帯番号も書いたがまだ何も掛かってきていない。俺に警戒を持たせないためだろうか?そのまま家に帰ったら暴力団が待ち構えていて、その場で拉致監禁、最悪殺されてしまう事も充分考えられる。それを避けるために決行までの間、木倉の家に居候していたのだが…。俺が家に帰っていない事が分かったら、当然俺が前に働いていたバイト仲間のこの木倉の家も調べてくるだろう。これ以上ここに居ることは、俺自身も何より木倉に迷惑をかけることになる。
 自分が始めた近未来的の小説じみた行動が、現実味を帯び始めている。鞄の中には大森たちから盗み出した四つのカプセルが確かに存在している。果たしてこれは本当に究極の安楽試薬なのだろうか?今、ここで確認する方法は一つ。自分が飲んで見ることである。ここで飲むと木倉の迷惑になるなら、明日どこか近くの公園ででも飲めばいい。そうだ、俺が何より欲しかった死への恐怖を打ち崩すものが手に入っている。なにも他人なんかを巻き添えにする事を始めなくてもいいじゃないか。明日で俺のふざけた人生は終わりにしよう。明日で…。ははっ、人生なんてホントにあっけないもんだ。いろいろ考えたり、悩んだりしたのに、終わるときは糸を切るみたいに…。
 もう眠ろう。もう何も考える事はない。楽になる事だけを夢見て、明日を迎えればいい。しかしやはり気が張り詰めているのか、いっこうに睡魔が来る気配がない。もう何も考えなくてもいいのに色んな事が頭をよぎる。いつの間にか、木倉の家で過ごしたこの二日間の事について考えていた。最初に玄関に入った時のあの懐かしい匂い。あの時から俺はどこか癒やされていた。他人の家族なのに不自然過ぎるほど俺は心を許していた。居心地のよいこの場所にずっと留まっていたいという気持ちが高鳴る。だめだ、俺は他人なのだ。ここに留まる場所はない。俺の居場所は…。
 思考がまたもつれた糸のように複雑に絡まる。胸が締め付けられる。眠ろう。俺にはまだ明日がある。明日になれば気分がまた好転しているかもしれない。明日に任せよう…。
 今度は裕恵さんが頭に浮かんできた。申し訳なく思いながら、高橋はさっきの裕恵さんの白い胸元や首に触られた時の手の感触を思い出しながら自慰をした。すると少し睡魔が襲ってきた。使用したティッシュを気づかれないように何重にもくるむと、近くにあったゴミ箱の奥の方にねじ込んだ。

 目が覚めるとカーテン越しにうっすら光が入ってきていた。時計を見ると5時前だった。昨日何時に寝たか覚えてないが6時間も寝ていない。が、頭は昨日の夜よりだいぶスッキリしていた。そのまましばらくうとろうとろしていると玄関の開く音がした。こんな時間に誰が来たのかと思って玄関に出ると木倉だった。
「なんだ。もう起きてたのか?俺りゃーもう限界、おやすみー。」
そうだ。スーパーのバイトは朝5時には終わるのだった。裕恵さんが出て行ったら一人になると思っていたが、木倉は家にいるのだ。
 部屋に戻ってTVをつける。隣の部屋に迷惑にならないよう消音にして画面だけ見る。ちょうど天気予報をやっていた。台風9号が接近しているらしい。ここも昼前から雨が降り出し夜に暴風域にはいるらしい。木倉が家に居るのであれば、昼までは居ていい事にもなるが…。色々考えているうちに裕恵さんと子供が起きてきた。
「あっおはよう高橋くん。」
「おはようございます。」
「朝ご飯食べる?」
「はい。」
食パンの上に目玉焼きとベーコンが乗ったものが置かれた。
「ごめんね。急いでてこんなもので。」
「いえ、全然かまわないで下さい。」
時間がないのか、裕恵さんが子供を急かしながら食べている。
「じゃあ、私たち出かけるけれど…。」
「あっはい、僕も出ます。」
 外に出ると予報通り雨雲が近づいていた。
アパートの前の駐車場まで一緒に歩いて行き、裕恵さんと子供は車に乗り込みそこで別れた。高橋は駐輪場に行き自転車に跨がった。

 結局朝早く裕恵さんと出てきてしまったが…。今日自殺しようという思い詰めた気持ちは一晩寝てだいぶ薄れていた。心の動きは高橋の意志を越えて別人のようにも思えてしまう。
「さあて…。どうしたもんか…。」
志願者に会うのか、会わないのか…。薬を依頼してきた人物はどのような人なのか。高橋の自転車は自然とターミナル駅に向いていた。地下の駐輪場に自転車を駐める。駅構内はさすがに県随一のターミナル駅だけあって人が混んでいる。台風が接近しているので、動いているうちは電車を使う人が比較的多いのかもしれない。いつもなら人混みに数十分いるだけで気分が悪くなるが、大森たちにどこから見張られているか分からないと思うと、人に紛れている方が安心できた。
 しばらくベンチに座っていると、朝のラッシュも終わったのかいくぶん人がまばらになる。
「6時のターミナルでふりむいた君は…ホヨセーホヨセー人は自分を生きてゆくのだから…」
人だかりを見ながら、高橋はいつの間にか昔親父が車でよく流していた曲を口ずさんでいた。歌詞のほとんどを知らないけれど、今の俺にはぴったしの曲のような気がした。
 ラッシュの人混みに追い出されたホームレスが、構内に戻ってきて高橋の隣に座る。
「兄ちゃん、煙草もってないかい?」
いつもなら相手にしないが、不思議と同情して一本渡して火をつけてやる。
「台風が来てるようですね。」
高橋が目を見ずに話しかけた。
「ん、ああ、へっ大丈夫さ。寝るところはどこでもあるさ。駅、公園、商店街…。俺らにとっちゃ台風よりも、しきりに追っ払ってくる行政の方がやっかいな相手さ。煙草ごちそうさん。」
そういうとホームレスはまた人混みの中に消えていった。
 ゴミのように扱われるホームレス。そこからは人生の美しさなど全く感じられない。あの人たちも自殺を考えたことがあるのだろうか?例え自殺をしてもそれは世間に当たり前のように思われるかもしれない。ホームレスだから自殺した…。ゴミが自らゴミ箱に入ったように…。この国が豊かになったのは皆が幸せになったんじゃない。ただ表面だけ綺麗にディスプレイしただけなんだと思った。行こう。志願者に会いに…。ゴミ箱に入る決断をした人の最期のはなむけに…。
 待ち合わせ場所はターミナル駅から南に下る線を快速で5駅の場所。
 9時49分発、快速四号。電車は次第に近づいてくる台風から逃れるように順調に速度を上げる。ターミナル駅からすでに満員の電車に途中から乗り込んでくる乗客は、席に座れずあぶれてちりぢりに散らばってゆく。人生にあぶれた人たちも上手く乗せていってくれたらいいのに…。
 
 10時半、目的駅に着く。駅から出るとまだ青空が一部見えた。約束まではずいぶん時間があった。駅前の喫茶店に入る。そこは待ち合わせの店だった。初めて入ったが、年季の入った趣のある店だった。モーニングはもう終了していたので、コーヒーとサンドイッチの単品を頼む。すると50を少し過ぎた感じではあるが、白髪が髪にまじり顔の皮膚の張りがなくなった初老といった雰囲気の男が入ってきた。背広の襟はくたびれ、体全体に疲労感が漂っている。男はカウンターに座り、高橋と同じくコーヒーを頼む。店内に客は高橋と男の二人。静寂が店内を包む。高橋はもしやと思ったが、ターゲットとはネットと電話でしか接してないので、外見では分からなかった。…まだ時間はある。高橋は会計を済ませて店を出た。ガラス越しに店内を見ると、男は煙草を手に持ったまま虚ろな目でどこか一点を見続けていた。燃え尽きた煙草の灰が落ちたのと同時に高橋は歩き出した。
 駅の近くには競艇場があって、駅から無料の送迎バスが出ていた。台風が近づいてはいたが、どうやら開催しているらしい。平日なのに相変わらずの客入りである。予想紙に赤ペン片手のおやじはシンボリックな光景だ。第3レース。風が吹いてきて波が立っている。競艇は割と番狂わせが少なく、出来レースが多いと聞く。高橋は二連単を艇を変えて二口買った。結果一着は本命が来て当たったが、二着は人気5番手が来て二口とも外れた。それから3レース続けて外し、財布の中身も寂しくなってきた頃、台風の為午後からのレースが中止されることが告げられた。
 ぽつりぽつりと雨が降り始める中、さっきの喫茶店に戻るとあの男はまだ居た。あれから二時間近く経っている。高橋は思いきって男に声をかけた。
「誰かを待っているんですか?」
男は無言のままこちらを凝視し、一言小さく呟いた。
「ええ、もうすぐ私を助けてくれる、死に神を待っているんですよ…。」
高橋はあと数時間もせずに、命を高橋の手によって絶つだろう男の顔を複雑な心境で見つめ返した。

 男の家は、駅から少しあるらしく車で来ていた。二人で車に乗り込むとほぼ同時に雨足がひどくなる。ワイパーを最大にしても追いつかない。視界も急激に悪くなり、いつの間にか前の車との車間距離が短くなっていた。男が慌ててブレーキを踏む。小さくすいませんと男が謝った。ハンドルを持つ手が少し震えている。やはり動揺しているのか?カプセルを渡す前に二人とも事故死するんじゃないかと少し心配になった。

 もう閉鎖しているであろう工場横の空き地に男は車を駐めた。車から出ると高笛のような風音が空き地の雑草の吹き倒れるサワサワした音と共に、これから本格的に来る嵐の前奏を奏でていた。
 男は指を指してあれが私の家ですと言った。空き地の奥に、今の台風で吹き飛んでしまうんじゃないかと思う程の年季の入ったアパート、いやプレハブ小屋といった建物があった。木倉の家もボロかったがそれよりももっとお粗末な建物だ。強風に煽られて建物全体がギシギシ悲鳴をあげている。男とその建物の一階の突き当たりの部屋に着く。男は薄い木の扉を鍵も使わず開けた。
「狭いところですけど、どうぞ…。」
高橋は何も言わず部屋に入った。
「鍵は使わないんですか?」
「あっええ。最初は使っていたんですけど…。鍵を使っても簡単に開いてしまうことが分かって。それからは使ってないんですよ…。」
男は気恥ずかしそうに少し微笑んだ。
 部屋の中は綺麗に片付けられていた。元々何もなかった部屋のようだが、さらに整理整頓された感じだ。飛ぶ鳥後を濁さずといったところだろうか?
 重い空気が充満する。高橋は腰のポシェットから透明のプラスチックに入った例のカプセルを取り出した。
「合い言葉は…?」
「パ…パンツのひも…。」
「ではどうぞ。」
高橋は男にカプセルを手渡した。
「あの…何も聞かないんですか?」
「何を?」
「なぜ、私が自殺したがっているとか…。」
「僕の役目はこれを渡す事だけですから…。話したければお聞きしますが…。」
「そうですか…。あのお金は?」
「ああ、お代は結構ですよ。ボランティアですから…。」
「どうして…?」
「僕ももうすぐ自殺するつもりなんです。だから貰っても使い道がないでしょう?」
「まだ若いのにって…、私が言う台詞じゃないですね。世の中不景気ですね。最近、ようやく景気が回復してきたなんて言ってますが…。」
「景気が上がった下がったなんて、バカなマスコミが騒ぎ立ててるだけですよ…。」
「…しかし私には現実の傷跡として残った。
会社をリストラされ、女房も子供も出て行ってしまった…。残ったのは養育費の支払い義務と家のローンだけ…。家は今売りに出していて少し前からここに住んでいるんです。」
 ドラマなんかである実にベタな話だと高橋は思った。だがそれが逆にリアルな重さで伝わってくる。
「私は一人になった。これからの人生、何も無くなってしまったような気がして…。この歳でやり直しももう利かない。…だから早く楽になりたいんです。」
「そうですか…。大変でしたね。」
「すいません、くだらない話を…。じゃあ…飲みます…。」
 男はカプセルを口に入れようとするが、なかなか実行できない。額から尋常じゃない汗が男の額から出ている。夏の暑さのせいではない。気温は大雨と風のせいで、薄着ではむしろ肌寒かった。
「ははっ、楽に死ねる薬なのにね。やっぱりいざとなったら体が動かないもんですね。はー…、あの、出来れば一人にしてもらえませんか?自分のタイミングで飲みたいんですが…。」
「すいませんがそれはできません。僕はあなたがカプセルを飲んで死ぬのを見届けなければなりません。万が一、他人に悪用されたりしたら困りますからね…。」
他人に悪用と言って、高橋は自分の言葉に苦笑した。自分のやっている事がまさにそれだったような気がしたからだ。
「分かりました。そうですね。いつまでズルズルしてても同じ事の繰り返しだ。私は楽になれるんだ。もう怖くない!うっ!」
男は手のカプセルを口に放り込んだ。男は力尽きたようにその場にへたり込んだ。
 数秒経って、男は自分がまだ生きているのを確かめるように半身起き上がって自分を見ている。
 カプセルと同時に盗み出したパソコンのデータの中には、カプセルの説明書みたいなのが入っていた。それを読むと、まず最初に死ぬ苦しみを避けるために脳の一部を軽く麻痺させる段階があるらしい。一度に多くを吸収するとショックが大きいので、徐々に薬剤は放出される。始めはだんだん体がだるくなり、少しずつ意識が遠くなる。そこまでの段階に4~5分かかると書かれていた。
「薬の性質上、数分は意識がありますよ。」
究極の余命宣告だなと高橋は思った。
「あと、数分ですか…。あと数分後には私は死んでるんですね…。お金なんですけどね、少しなんですけど退職金が出たんです。大分使ってしまったんですが残り50万あります。あなたに渡そうと思って…。」
「いや、だから俺はもらっても…。」
「最初から10万、20万取られるのは覚悟してましたから…。それに実際にお会いしてあなたのような若い青年だったとは…。若いうちはいくらでもやり直せますよ。このお金はその手助けになれば…。」
「いや、俺はもう…。」
「この件だったら大丈夫ですよ。私が死んでいるのが見つかっても、警察はリストラを苦にした男の自殺として片付けるでしょう。」 警察はそんなに甘くないだろうと高橋は思っていた。男の死体は医師の付き添いのある自然死ではないから当然解剖される。安楽死薬といえど所詮毒物なのだから、警察はあれこれ調べるだろう。解剖の結果自殺と断定されても、男の毒物の入手経路をたどり、俺に行き着くのは時間の問題だと思った。
 しかし…。男は人生の最期に高橋に小さな希望を抱いているのかも知れなかった。男の言うことを聞いたふりをすれば安らかに死ねるのかもしれないと思った。
「分かりました。お金は頂きます。」
「そ…ですか…。よか…た。あなた…わかい。じんせ…これ…からで…よ…。」
 男の口が回らなくなってきた。だいぶん麻痺してきたらしい。男もそれが分かったのか目から涙がこぼれていた。
「そうですね…。頑張ってみますよ…。」
「あ…が…とう。」
ほとんど回らなくなった口で、男は最期にそう呟いた。
 男はその後、高熱時の風邪で感情が操作できなくなった時のように、目から大量の涙を流しながら嗚咽を漏らしていた。もしかしたら薬のせいで風邪の時のような症状が体内で起きているのかもしれない。安楽死薬といえど簡単には死なせてくれないのか…?男は嗚咽の途中で何か言っていたが、もはや聞き取ることは出来なかった。
 高橋は男の手を取り、大丈夫安らかに逝けますよと言ってやった。男はその言葉が分かったのか少し首を縦に動かした。暫くし、男の体はピクリとも動かなくなった。どうやら第一段階が終了したらしい。この後は、高橋が実際に治験で実験台になった、強烈な睡眠薬みたいなのが体内に吸収される段階になる。カプセルの溶ける時間が第一、二、三段階とそれぞれ被らないよう調節してある。高橋が治験されている時は、始めに重い頭痛を感じたが、今は第一段階で脳を麻痺させているのでそれすらも感じないかも知れない。
 男は目を開いたまま眠りに入ったようだ。手首を触ると脈は動いている。ポケットから携帯を取り出し、カメラ用のライトを男の瞳孔に当てた。瞳孔は小さく萎んだ。間違いなく男はまだ生きている。パソコンのデータによると、第二段階の時間は約10分。体を深い混迷状態に作り上げ、第三段階のショックに耐える。第三段階は心臓に約3分間薬を少しずつ投入し、最終的には動きを駐めて死に至らす。
 男の顔は第二段階に入り穏やかになった。ただ熟睡しているように見える。そしてさらに10分後、男の顔は苦痛に悶えることもないが、ただ呼吸が明らかに弱くなってきた。脈も遅くなってきた。それから男は2度大きく深呼吸をした後、それきり呼吸を止めた。それからしばらくして脈も止まり、高橋は再び男の顔にライトを当てた。男の瞳孔は動かなかった。
 男は間違えなく死んだ。高橋は立ち上がって部屋を出ようとした時、視界に机の上に乗った分厚い封筒が入った。あれが男の言っていた50万か…。思わず高橋は手に取った。中には新札の福沢諭吉が並んでいた。…しかしこの金を受け取ってしまうと、今したことが自分の信念でも何でもなく、ただの人殺しになってしまうと思った。高橋が封筒を戻そうとしたその時、玄関を叩く音がした。
「上村さーん、隣の吉村です。麻雀行きませんか?人手が足んなくて…。上村さーん…。あれ?いないのかな?仕事見つかったのかな…?」
これには高橋もギョッとした。上村というこの男はどうやら隣人との付き合いが少しはあったらしい。高橋は足音を立てないようにドアに近づきノブを握り固定した。
「上村さーん入りますよー。あれおかしいな…。鍵なんていつも…。…しょうがねーなー。メンツそろわねーと話になんねーや…。」 男の足音が遠のき、隣の部屋の扉が閉まる音が聞こえた。
 高橋は大きく深呼吸すると、吹き出た額の冷や汗を腕で拭った。もうここに長居はできない。高橋は靴を履き、物音を立てないように静かに部屋を出た。
 外は相変わらずの土砂降りと暴風で、アパートの軒を出ると10秒足らずでずぶ濡れになった。ここから駅まではおそらく2~3㎞あるが走っていくしかなかった。傘を持ってこなかったことを強く後悔しながら、台風に逆らうように高橋は走った。途中コンビニがあったが、今更傘を買っても同じだと思って通り過ぎた。ただ本当はひたすら走り続けるほうが何も考えなくて良かったからかもしれない。
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