第1話

文字数 2,029文字

お!今回のタイトル。山口智子と柳葉敏郎のドラマをモジってますねえ
だれも言ってくんないとイヤだから、先に自分で言っちゃろ。

いいタイトルだなあ

まあ、そのドラマちゃんと見たことないですけど。
さあ、本編参ります。


随分と前になるが、弟が結婚することになった。
目のキリリとした、意志の強そうなフレンドリーな女性と。
暮らしのこと、家のこと。詳しくは知らないけれど、涙と笑いの中二人は夫婦になることになったんだ。
その式の前夜。
明日にワクワクする俺に母ちゃんは言った。
母「アンタわかってるとは思うけど、明日は絶対ふざけないでよ」

なぬ?俺29にもなってそんなこと釘刺されんのか!
無理からぬ、というフシもある。
確かに俺はふざけてばっかりだ。ふざけることに真剣になれば、この世の憂いも悲しみも、全てを笑い飛ばせると本気で思っている。
そういえば以前、大学を卒業する俺に親父は言った。
「お前の人生なんだから、お前が決めてお前が思うようにやればいい。ただ、お前は若干ふざけ過ぎの傾向があるからな。それが唯一心配だ」

いやいやおふたりさん、と。
確かにいつもはそうですけど。
さすがに俺だってわかってますよ!他ならぬ大事な弟の結婚式なんだよ。
お嫁さんの親族だっていらっしゃる訳だし、いつもとは違って当然。

こんなにりっぱなお兄さんがいるならば、弟さんをお婿に頂いても大丈夫だ。
山本家の長男ここにあり、とビシッとキメてご覧にいれましょう。
そんな気持ちで夜は明けた。

式当日。
緊張した面持ちの父。
極妻のような母。
前衛的な髪型の兄。
まつ毛キャンキャンの妹。
4人が目指すは「つま恋」県内屈指の一流結婚式場だ。

二人の契りは教会で交わされるようだ。
今まで結婚式は何度か出ている。そして俺は100%の確率で泣いている。
なぜかはわからないけれど、勝手に「新婦の父親の気持ち」になっちゃうんだよね。

今まで大事に育ててきた娘。
小さな頃は「大きくなったらお父さんと結婚する」とか言ってた娘。
反抗期とかもあって、あん時は家庭がどうかなるんじゃないかと思った娘。
結婚を決めた娘。
その式の前夜「お父さんお母さん、今まで育ててくれてありがとうございました」と泣いた娘。

そんな娘が今日、どこぞの馬の骨にもらわれてしまう。
まあ全部想像なんだけど、「いつか自分にも起こり得る現実」だと思うともう涙が止まらなくなっちゃう。
ただね
今日は安心だ、と言うのも。
ウチの弟は婿に行って、向こうの苗字になるので。つまりここには「娘がさらわれる父親」なんて存在しないんだもん。はー。気がラク。

始まった。パパパパーン。
ふむふむ、弟も堂々として。りっぱになったなあ
お、お嫁さんがお父さんとバージンロードを。いつもならここでもう泣いてるけどね、今日はへっちゃらだぜ。
なんて思った俺はなんと浅はかだったんだ。

親族だからこそ初めての教会の最前列。隣から嗚咽が聞こえる。



母ちゃんだ。



ああっ!そうだ!!
「娘がさらわれる父親」は確かに存在しない。でも、その代わりに今日ここには「息子をもらわれる母親」がいるんだった!!!
しかも俺のすぐ左隣に。なんたること。なんたる。

つられて泣かないように下唇をグッと噛んでいたのに、右隣の妹も泣き出した。見ればもう、親父もギリギリだ。
そんなん見たらもう、俺だって無理だよもう。えーん。

親父の想い。母ちゃんの想い。俺たち兄妹の想い。
無愛想で、クールで。でも本当は熱苦しいくらい熱い弟。
イライラすることも多い、でもやっぱり大好きな俺の弟。
その弟は人生を一緒に歩む相手に巡り逢って、明日から違う家に行ってしまう。
俺たちの涙を止める方法なんて、そこにはもう何もなかった。
ダーダーと流れる涙。
ハンカチはあったがバスタオルはなかった。

式が終わった。
後ろの方から披露宴会場にお移りくださいと。ならば最前列の俺たちが一番最後だね。
先程までの厳かな空気が、若干和らぐ。
兄「いやー泣いた泣いた」
妹「ホントだねえ、グスン。ねえおにいちゃん、アタシ大丈夫かな。目元とかまつ毛とか」
兄「ぎゃっ!お前ナニそれ、目がとんでもないことなってるぞ!!」
妹「だよね。アタシ今きっと悪魔みたくなってるよね」

マスカラどろどろ。まつ毛ベタベタ。確かにもうコイツは妹じゃない。悪魔だ。
その時、俺の中で何かが切れる音がしたんだ。ブッチーン、てさ。

俺は、親族よりもさらに前にいる神父さんの所に、ズカズカと妹を連れて行った。
兄「神父様!ご覧ください、ここに悪魔が!悪魔がおります、この神聖な場所に!どうか!どうか今すぐに悪魔祓いを~!!!」

そう言った直後に、思った。
あ、俺今ふざけたな。
そう思った直後に、母ちゃんに背中をどつかれた。



けっこう痛かった。
しかしさすがは神父様、ニコニコと十字を切ってくれたおかげで、妹は人間の世界に戻った。
そして
ふざけも。そして痛みも。全部を喜びに変えて弟は幸せになりましたとさ。


ちゃんちゃん。
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