7年後

文字数 2,182文字

「まだ、納得がいかないのか?」
 作戦を指揮していたもう1つの「護国軍鬼4号鬼」の着装者は、私にそう聞いた。
「力なき者を人質にするなど納得出来る訳が有りません。我々はテロリストでは無い」
「テロリストだ。我々がどう思っていようが、この世界の人間の大半は我々をテロリストと見做しているのだろう? なら、そいつらの御期待通りに振る舞って何の問題が有る?」
 「もう1つの『護国軍鬼4号鬼』」の腕の中には、人質の赤ん坊が抱かれていた。
「……来たか……」
 我々が居る部屋に入って来たのは、護国軍鬼4号鬼を着装(まと)った高木瀾だった。
「一体、何のつもりだ?」
「その恵まれぬ体格で、よくぞここまで強くなったな……」
「何?」
「悪いな……今のお前を確実に倒す方法は……これしか思い付かなかった」
 次の瞬間、赤ん坊は宙に放り投げられた。自分達の組織の指導者が思い付いた「高木瀾を確実に倒す方法」が何か判った時、ようやく、私は自分達の組織を見限る決意を固める事が出来た。
 高木瀾が赤ん坊を受け止めた瞬間、もう一本の斬超鋼刀『(ゼロ)』は既に抜刀されており……その先端は高木瀾の腹部を斬り裂いていた。
「私にはお前のように他人の心を『観る』事は出来ないが……それでも判る……。……お前でも、次の一手を思い付けないようだな」
 その言葉が発せられた時、既に私は抜刀し自分の指揮官を攻撃。しかし、私の斬撃は斬超鋼刀『(ゼロ)』により防がれていた。
「……いつかは……こうなると……思っていたよ」
「裏切り御免」
「お別れに一つ忠告しておこう。君は理想を追い求め過ぎ……」
 だが……その時……。
「……待て、瀾、どこへ行く気だ?」
「悪いが、この赤ん坊の命を優先させてもらう」
「フザけるな、貴様に武人の誇りは……」
「『武人の誇り』とやらが、今、この子の命を救うのに何の役に立つんだ? 役に立つと言うのなら、どう役に立つのか、是非、教えてくれ」
 多分、私の元・指揮官は、私に現実的な人間になれ、と言いたかったのだろうが……残念ながら、この場に居る3人の中で、最も合理主義者かつ現実主義者なのは、高木瀾だったようだ。私も、私の元・指揮官も……あくまで根っからの戦士だ。高木瀾のように「戦う事」を「別の目的を達成する為の手段」「戦わずに目的を果たせれば、それに越した事は無い」と割り切る事は出来ない。

 私と、私の指揮官だった人物は、高木瀾を追い掛ける。
「おい、そこの緑の鎧、頼みが有る」
 そう言って、瀾は、赤ん坊を私に放り投げる。
「えっ?」
 今度は、私が瀾から赤ん坊を受け取る事になった。
「多分、君の方が生き残れる可能性が高い。この場を離れて、その子供の私の仲間に渡せ。もちろん、君なら何ともない事でも、その子供には致命的となる事はいくらでも有るから、その点に十分注意してくれ」
「りょ……了解……」
 いや、ここは了解していいのか?
「き……貴様……」
「私とお前の仲だ。ここで、決着を付けるのも悪くない」
「そうだな……。まぁ、私とお前の仲だ。仲間に最後の分れを言う時間ぐらいは与えてやろう」
「必要ない……。愛する者を失なっても、前に進み続けるのに……何の異能力も必要無い事は、私が一番良く知っている。私に出来た事が、私の仲間達に出来ない筈は無い」
「死ぬ気ですか?」
 私は叫んだ。
「どっちに言ってる?」
 高木瀾は、そう答えた。
「面白い冗談だ。何度も戦いながら、お互い、相手を倒す為の最後の決定打を欠いてきたが……一対一の真っ向勝負なら、体格も技も勝る私が有利だ」
「そうかな? お前は、死に場所を探してるように思えたのだが……違うか?」
「人を煽るのが巧いな……。お前は……私の世界の私の姉とは違う………」
「お前も……私の世界の私の妹とは違う。……とは言え、お前は……ある意味で『私』であると同時に『私の妹』だ。お前を楽にしてやれるのは……私しか居ないだろう」
「めずらしいな……お前らしくもない……感傷的な言葉だ」
「私も、いい加減、嫌になったのかも知れん。亡き妹に瓜二つのヤツと戦い続けるのに……」
 そして、この世界の高木瀾と、「カーラ・チャクラ」を名乗る者が「平行世界」より呼び寄せた「高木治水」を名乗る者の戦いが始まった。

 私は、人質として使われた赤ん坊を瀾の仲間に手渡した後、瀾の仲間達と共に戦いの場に戻って来た。
 しかし……。
「やめろ‼ 勝負は付いている‼ これ以上、何をするつもりだ⁉」
 「高木治水」は地に倒れ伏していた。しかし、一足違いで駆け付けた私のかつての仲間達は……自分達の指導者を倒した瀾を攻撃していた。
 そして、更なる戦いが始まった。

「なぁ……いっそ、この手足を義手や義足に取り替えるって有りか?」
「駄目に決ってるでしょ。リハビリすれば治るって、医者も言ってたよ」
「どれだけ、かかる事やら……」
 瀾は同性の恋人に背負われて一族の遺骨が納められている仏教寺院に来ていた。
「みんな……居なくなってしまったな……。伯父さんも……父さんも……母さんも……おっちゃんも……満さんも……治水も……桜さんも……源望さんも……」
「さびしい?」
「いや……今更だが……聞き忘れてた事が1つ有ったんでな……」
「何?」
「母さんが、どんな人だったか誰にも詳しく聞いた事が無かった……。そして……母さんを良く知ってた人は……みんな……居なくなった……」
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登場人物紹介

高木瀾(たかぎ らん)
主人公その1。
十五歳。
「正義の味方」を「家業」とする一族出身の高木雄介と、「女から次の世代の女へと、神の力を受け継ぐ」一族の出身の眞木涼を父母に持つが、両親の離婚で父方の一族の中で育つ。
「神と戦う為の『鎧』」である「対神鬼動外殻・護国軍鬼4号鬼」の試験着装者だが、「戦士の一族」の一員にも関わらず「自己暗示をかけないと他者を殺傷出来ない」「体質的に鍛えても体が大きくなったり筋肉が付いたりしないらしい」などの欠点が有り、自分より「護国軍鬼」の着装者に相応しい「誰か」が居るのでは無いか?と考えているフシが有る。
また、「正義の味方」「戦士」としては長く戦えない可能性を自覚しており、セカンドキャリアとして技術者を目指している。
主人公2人の内、言葉づかいは「男言葉」に近いが、恐竜のヌイグルミを抱いて寝ていたり、服についても「戦士の一族の中で育てられた合理性」から「動き易く肌の露出が少ない服」≒男物の服を着る事が多いものの、デザインや色については「明る目の色」(特に青/緑系)のものや「女性用でも違和感の無い刺繍などが有るもの」を好む。

眞木治水(まき おさみ)
主人公その2。
十五歳。
高木瀾の双子の妹だが、生まれた直後に両親が離婚した為に別々に育てられる。双子でありながら名字が違うのもその為。
母が養子にした眞木満(血縁上は従姉)より「娑伽羅竜王の娘・瑠璃」を名乗る神を受け継ぐ。
瀾とは逆に、言葉づかいは「女言葉」に近いが、可愛いものが苦手で、ヒーローもののフィギアなどを集めている。服装についても地味め/暗めの色の「男から見て『格好良い男もの』の服」に見える服装を好み、いわゆる「可愛い」系の服には拒絶反応を示す。
にも関わらず「可愛い制服」で有名な女子高に通う羽目になったのが悩みの種。
「一見、チート能力を持っているように見えるが、実は『劣る素質』を努力や工夫で補ってきた」瀾とは対照的に「自分で望んでいないチート能力を得てしまった」少女。

佐伯漣(さえきれん)
メイン・ヴィラン。
若くして、広島県の右翼系政治団体(実態はヤクザ)のリーダーを勤める女性。
治水に取り憑いている「神」の「姉」である「赤の竜神・珊瑚」の依代。
ある「神」との戦いの為に治水を自陣に引き入れようとするが、自分を何度も出し抜いた瀾に、段々と興味を移してゆき……。

眞木満(まき みちる)
十年前の「富士山の噴火」の生き残りだが、物語開始時点では既に死亡。
治水にとっては「義理の姉で血縁上は従姉」。
富士山の噴火による災害の後に、学校の友人だった桜と共に、叔母である涼の養子となり、涼の死後「娑伽羅竜王の娘・瑠璃」を受け継ぐ。
「しょっちゅう、ナンパした相手(ちなみに同性)を(家族が居るのに)自宅に連れ込む」「面倒な事は後回しにする」などの問題行動が多かったが、流石に「血縁者でしかも未成年(それも中学生)」の瀾にまで手を出さない理性は有ったようで、瀾は彼女の「ダメ人間」的な面を知らない。

眞木桜(まき さくら)
十年前の「富士山の噴火」の生き残り。治水にとっては「義理の姉で血縁上は従姉」の満とは高校時代の友達。
瀾と治水の母親である涼の養子。
対異能力者警察機構「レコンキスタ」の久留米レンジャー隊のメンバーでパワー型(イエロー)の強化服を着装する。
違法な「御当地ヒーロー」の取り締まりが任務の1つの筈なのに、取り締まり対象と家族・親戚になってしまう、と云うややこしい状況に置かれる事に……。

高木苹采(たかぎ ほつみ)
北九州門司に有る企業「高木研究所」(パワードスーツなどを開発している「高木製作所」の新技術開発や次期主力製品の設計・テストを請け負う子会社)の係長相当職。
瀾・治水にとっては又従姉妹。
祖父母は勤め先の親会社である高木製作所の設立者。
工学部出身だが、学生時代に他大学の理学部との共同研究で「何か」が有ったらしく、理学部出身者に若干偏見を持っている。
「パワードスーツを着装していないと引けない超強弓」を設計するなど、技術者としては「アカン人」である可能性も若干……。

望月敏行(もちづき としゆき)
十年前に起きた「富士山の噴火による関東壊滅」により九州に引っ越してきた少年。
瀾とは「小学校以来の腐れ縁」。
瀾の事を好きらしいが、実は両者の間には、とんでもない思い違いが……。

眞木源望(まき もとみ)
治水・瀾の母方の祖母の妹。
現在は老人ホーム暮しで、法的には治水の保護者。
治水は「昔、外国の大学の先生をやってた」ぐらいの認識しか無いが、実は、引退前は、ある学術分野の世界的権威。
今は、飄々としているが、若い頃は、治水・瀾の祖母とは、かなり仲が悪く、「あんな姉が居る国になど住みたくない」と云う理由で外国で働くようになったらしい。

高木日焔/羅刹天(ラーヴァナ)
所属:御当地ヒーローネットワーク「ローカパーラ」久留米・小郡・鳥栖チーム
この世界における「日本最初の御当地ヒーロー」の1人。
瀾・治水の父方の伯父。
瀾が着装する「護国軍鬼4号鬼」の「先祖」である「護国軍鬼1〜3号鬼」の設計者の1人であり、五十を超えた現在でも「護国軍鬼2号鬼」を着装し、「正義の味方」として活動している。
身長一九〇㎝、体重一三〇㎏を超える巨漢だが、若い頃は恵まれた体格や身体能力に頼った戦い方をしがちで、純粋な技量は、弟である瀾達の父親に劣っていた模様。
思う所あって、十年ほど前から僧侶になっており、表の顔は民間の児童養護施設の理事 兼 ある寺の副住職。また「日焔」は僧侶としての名前であり、元々の名前は「猛弘」。
冬になると、僧侶としての仕事(荒行の指導要員)で、九州を離れる事が多い。

風天(ヴァーユ)
所属:御当地ヒーローネットワーク「ローカパーラ」久留米・小郡・鳥栖チーム
別名「おっちゃん」。
高木日焔が最初にスカウトした「御当地ヒーロー」の1人で既に六十代。
対人近接戦闘では神業級の技量を持つが、「高齢」「小柄な体格」「人間の急所を突く攻撃が得意」などが重なり、近年普及してきた遠隔操作タイプの人型戦闘ロボット(物理的な防御力が高い上に、急所の位置が人間と違う)などは苦手とする。
表の顔はうどん屋のオーナー。この世界で「関東難民」が発生した十年前の「富士山の噴火」より前から九州に住んでいるが、やや滑舌の悪い江戸っ子口調。

猿神(ハヌマン)
所属:御当地ヒーローネットワーク「ローカパーラ」久留米・小郡・鳥栖チーム
元々は「おっちゃん」が二十数年前に知人から預かった子供。だが、生まれ付き異常な身体能力を持つなどの「訳有り」だった。
瀾にとっては「兄貴分」だが、純粋な技量は瀾に劣る。
弓矢・刃物の扱いに長け、「火事場の馬鹿力」を引き出す自己暗示で、ただでさえ高い身体能力を更に高める戦闘方法を得意とする。
風天(ヴァーユ)と行動を共にする事が多く、互いの弱点を補い合う関係。

鉄羅漢
所属:御当地ヒーローネットワーク「ローカパーラ」唐津チーム
この世界では、普及している(ただし、やや高級品扱い気味)パワードスーツ「水城(みずき)」のNBC汚染地域対応型を着装して戦う三十代男性。
パワードスーツの出力を活かした力まかせの戦闘を得意とする。
作業用重機を改造した戦闘車両「ディマトリア」の操縦も担当する。

鬼子母神(ハーリティー)
所属:御当地ヒーローネットワーク「ローカパーラ」久留米・小郡・鳥栖チーム
「電撃を操る青い鬼」に変身する能力を持っている女性。
5年前に、夫を殺して娘を連れ去った「何者か」を探している。

死神(ヤマ)
所属:御当地ヒーローネットワーク「ローカパーラ」博多遊撃隊
死霊使い。それも「他の死霊使いが呼び出した死霊の支配権を無条件で奪う」と云う「他の全ての死霊使いにとっての天敵」と言うべきチート能力を持つ。
高木日焔が最初にスカウトした「御当地ヒーロー」達の中に似た能力を持ち、同じコードネームを使っている者が居たが、今の「死神(ヤマ)」は、似たまたは同じ能力を持ち、コードネームを受け継いだ2代目以降の模様。

対異能力犯罪警察機構「レコンキスタ」久留米レンジャー隊・副隊長(ブルー)
ある理由で、自分の隊の隊長(レッド)があっけなく死亡した為に、隊の指揮を取る羽目になり、しかも成行きから敵対している(=非合法な「正義の味方」)筈の「ローカパーラ」と共同作戦を行なう羽目になった人物。
次回作では重要キャラになる予定。

行徳清秀
サブ・ヴィランその1。
ある暴力団の荒事専門の二次団体の若き組長(表向きの顔は警備会社社長)。
「トビウオのヒレのような『翼』を持ち、短時間だが滑空による飛行が可能な『河童』」と云う奇怪な姿に変身する能力を持つ。
上部団体の組長(表向きは親会社の社長)とは伯父・甥の関係だが、仲は良好では無い模様。

久米銀河
サブ・ヴィランその2。
行徳清秀が「社長」を勤める「会社」の「副社長」。
獣人化能力・超身体能力・超防御力・傷を負った場合の高速治癒能力とチート能力の塊だが、幹部クラスが「水妖(≒河童)」の血を引く者で占められている系列の組織に属している為、組織の中では、あくまで「外様」扱い。

護国軍鬼
(1)主人公・高木瀾の先祖・高木美憲(たかぎ よしのり)が1930年代〜1945年に率いていた陸軍特務機関により生み出された「『神』と戦う為の『改造人間』」。またの呼び名は「対神人間兵鬼」。成功例は「零号鬼」と呼ばれる1体のみだが、敗戦後に行方不明となっている。何故、この時代に改造人間を生み出せるほどのオーバーテクノロジーが有ったかについては……高木一族に記録が残されているが、その内容は、あまりに荒唐無稽で信じ難いもの。
(2)21世紀(あくまで、現実と微妙に違う歴史を辿ったこの世界における)に入って、日本を含めた主要国が機能不全に陥りつつある時代に、牙なき者達を護る為に高木美憲(たかぎ よしのり)の子孫が作り出した、無改造の人間に「対神人間兵鬼」に近い能力を付与するパワードスーツ。またの呼び名は「対神鬼動外殻」。ある理由で、一定以上の脳改造または精神操作が行なわていない(最低でも自由意志を有する)人間が装着した状態でしか起動しない。

護国軍鬼・零号鬼
全ての「護国軍鬼」の先祖と言うべき「改造人間」。1940年代に日本陸軍の特務機関により「作られ」、敗戦時に行方不明となる。仮に生きていたとしても100歳を超えている筈だが……?

護国軍鬼・1号鬼
21世紀になって高木一族により作られた最初の「護国軍鬼」。あくまでも技術検証機であり、実戦では、数回しか使用されていない。この「鬼体」で確立された技術は2号鬼以降のみならず、高木製作所の民生用パワードスーツ「水城(みずき)」にも流用されている。

護国軍鬼・2号鬼
着装者である高木日焔の身体能力を最大限に活かすと云うコンセプトで作られた重装甲・パワー型の「鬼体」。パワードスーツが民生用・戦闘用を含めてほとんど普及していなかった時代に作られたにも関わらず、何故か、「装甲付きのパワードスーツ」を仮想敵としているとしか思えない設計となっている。

護国軍鬼・3号鬼
2号鬼と同世代の「鬼体」だが、2号鬼より汎用性重視の設計となっている。現在、着装者の高木雄介と共に行方不明。

護国軍鬼・4号鬼
最新の護国軍鬼。人工筋肉・センサ類・制御AIの全てに関して、2号鬼・3号鬼より10年以上進んだ技術で作られているが、現在、技術・身体能力ともに発展途上の瀾が装着者である為、最終的にどこまでポテンシャルが引き出されるかは不明。また、制御AIに関しては、2号鬼・3号鬼が「完成された≒成長の余地が無い戦士の動きに、制御AIが一方的に追従する」ものだったのに対して、「着装者と制御AIが共に成長していく」ものとなっているが……これが吉と出るか凶と出るかは不明。

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