地味子とプリンス

文字数 999文字

 あと一歩、いやあと半歩、どちらかが歩み寄ることで、きっとあたしたちは結ばれる。確信しつつ、それでいていつもすんでのところで躊躇(ちゅうちょ)してしまうのは、恋愛が始まるか始まらないかぐらいのこの絶妙な距離感をまだもう少しだけ楽しんでいたいからなのだろう。
 
 彼は、あたしと同い年の十七歳。生粋のスポーツマンで、インターハイ常連の名門バスケ部ではキャプテンを務めている。あだ名は王子。何せイケメン、顔がいい。そのうえ高身長。声だって渋くて、髪の毛はサラサラで、人当たりがよくて、もう本当に、本っ当に非の打ち所がない、まさに学園のプリンス的存在である。
 
 一方あたしはというとチビで、メガネで、万年帰宅部の、いまいちパッとしない女子高生。こんな地味子(じみこ)のいったいどの辺を気に入ってくれたのか甚だ疑問ではあるけれど、とにかく彼はマメに連絡をくれるし、既読無視なんてしないし、デートのお誘いにも高確率で応じてくれる。

 それこそ今日もデートだった。放課後、街に繰り出したあたしたちは商店街でクレープを食べ、カラオケに行き、そしてたまたま通りかかった縁日で一緒に金魚すくいをした。賑やかな喧騒をBGMに彼は終始、無邪気にはしゃいでいた。子どもみたいでかわいかった。あたしの中で何かがグラッと揺れ動く音がした。

 別れ際、彼が頬をりんご飴みたく紅潮させながら、ぼそりと呟いたセリフをふと思い出す。

「来年の夏は浴衣姿の君を見てみたいな」

 ……ああ、ダメ! もう抑えきれない!

 真っ暗な部屋の中、昂る感情を胸に、あたしは衝動的にベッドから飛び起きる。コンマ数秒のうちに脳内を埋め尽くした、いくつもの「大好き」の文字。今すぐ彼に会って気持ちを伝えたい。今すぐ一歩、いや半歩を踏み出したい。そんな想いが加速度をつけて膨らんでゆく。

 二十四時五十分。モニター前。コントローラーを強く握り締めたあたしの視線の先にほどなく浮かび上がったのは、女性向け恋愛シミュレーションゲーム「ドキッ♡とメモリーズ」の攻略対象キャラクター、大王路和磨(だいおうじかずま)の姿。

「……王子、あのね!」

 呟き、画面下部の選択肢から「告白する」を瞬時にチョイス。決定ボタンを押して数秒、二人は新たなステージに向けて一気に走り出す。

 この恋は止まらない。

 もう誰にも止められない――。

 山田彩子(やまださやこ)、十七歳。あたしが三次元の素敵な王子様と恋に落ち、めでたく結ばれるのは、まだもう少し先の話。


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