文字数 1,089文字

 先生んとこから独立して、今は仲間とちっちゃい事務所やってます。子ども絡みの案件が多いです、どうしても。おばけも毎日見ますよ。俺が年を取ったからなのか、おかんに「やり方」を聞いたお陰なのか分かんないけど、最近はちょっとだけ、おばけたちとも会話みたいのが成立するようになったんです。すごいでしょう?

 梅宮先生に用事があったから大学まで足を運んだんです。誤解しないでください。しかしすげえ顔するな、ふふ。忘れたわけじゃないんですねえ。20年も経つのにねえ。

 あんたの後ろに100人からいますよ、子どもばっかり、生きてるやつも死んでるやつもいる。……人に酒をぶっかけるとかどういうお育ちなんです? ああ大丈夫です、ごめんなさいね、すぐに連れ出しますからこいつ。
 大学の食堂であんたを見かけた時、こっちを見詰める同級生とばっちり視線が合って吐きそうになりましたよ。あの事件を俺は一度だって忘れたことはない。俺はね、あんたに罪を償わせるために、

なったんだ。

 うるせえ怒鳴るな、名前を言うぞ。みんないい子たちだ、俺に名乗っておまえに何をされたか事細かに教えてくれた。お陰で俺はこのひと月まともに眠れてない。子どもたちの証言の裏を取るために走り回ってたんだからな。--くん、--ちゃん、--さん、--くん……

 おねえさんごめんなさい、飲み代これで足りるかな? ちょっと急ぐから俺もう出ますね。足りなかったらここの事務所に連絡ください、すぐに払います。はい、弁護士です、バッチもありますよ。

 おら、行くぞ。どこに? さあ、どこに行こうかなぁ。おまえをさ、法で裁くのは簡単なんだよね。え、なに、償うから許してくれ? 罪を? 償う? おまえが? うふふ、馬鹿なこと言うもんじゃないよ。この国はさぁ、残念ながらおまえみたいなやつに甘いんだよねえ。弁護士になってみたはいいけどそれが不満なの、俺。だからさ、ちょっとこれから遠出しようよ。今、弟がクルマ出してくれてるから。俺、おかんに「やり方」聞いたって言ったでしょう。あんたにもおばけを見せてあげる。声も聞かせてあげるし、なんならあの子たちのつらかった記憶も体験させてあげる。市岡の人間はね、そういうことができるんだ。まあでもこれある種の呪いだから、将来的に俺もきっと酷い目に遭うんだけど……でもまあいいんだ、こういうことをするために俺はこうなったんだから。

「にいちゃん! こっちこっちー!」
「おうヒサシ! わりぃな夜中に、助かるわ」

 泣いても駄目だよ。これ、あんたがあの子たちに言った台詞だよね。それじゃ、行こっか、思い出の地を巡りにさ。

おしまい
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