第1話 即位

文字数 1,645文字

 広大な土地に建てられた国の名はヘブン。この異世界で一番平和な国という意味を持つ。

 前国王のアーサー・パウフィーが冒険に出かけ残職したため、空いた国王の座位に、娘のグレン・パウフィーが座ることとなった。

「グレン・パウフィーを国の王女として、この国に尽くし、この国を統一することをこの場に宣言する!!!」

 国の中央に立っている城の隣に建てられた教会。大勢の住民たちが即位の瞬間を見るために訪れていた。本来なら、即位の日は、住民たちは祝福するはずだったのだが、住民たちは、祝福するのではなく、怒っていた。

 それもそのはず、貢献したアーサー・パウフィーと違い、特に実績のないアーサー・パウフィーが即位したからだ。

「おい! 親の七光りが、この国を統一する女王だって! ふざけんな!!!」
「そうだ! そんな奴よりも、レグンの方がいいだろ!!!」
「大体! こんな小娘に何が出来る!」

 住民たちの怒りが、収まる見込みはない。前国王、アーサー・パウフィーは、荒廃したこの国を立て直すために、多大なる貢献をした。困っている人がいたら率先して助け、モンスターが襲ってきたときは、たった1人で戦い、この国の平和に貢献した。

 それに比べて、娘のグレン・パウフィーは・・・

「18歳になった今でも、スキルが使えないお前に、この国が守れるのか!!!」
「大体、父親が出来たことをお前は出来るのかよ!!! 答えろよ!!!」
「わ、私は・・・」
「私は何だ!!!」

『私の父は、アーサー・パウフィー。この国の前国王です。私が、どれだけ頑張っても父に追いつける気はしませんが、精一杯がんばり、1日でも早く父のような立派な大人になれるように頑張ります!!!』

 グレンは、大きな声で宣言した。しかし、その宣言が逆に住民たちの怒りを増大させてしまった。

「ざけんな!!! お前が、あの人のようになれるわけがないだろ!!!」
「口だけお嬢様でも、言っていい言葉と悪い言葉の区別ぐらいつけろよ!!!」
「所詮は、お前は、親の七光り!!!」 

 住民たちの怒りは、とうとう複数人いる警備を薙ぎ払い、グレンのそばに近寄ると、罵詈雑言を浴びせた。そして、住民の目は、批判的で攻撃的な目だった。

「そこまでよ!!! 今すぐ、グレン女王のそばから離れなさい!!! さもなくは、私があなたたちの首をきる!!!」

 これ以上近づくと危ないと判断したのか、住民とグレンの間に1人の女性が割り込み、住民たちからグレンを切り離した。その女性は、腰の鞘に刀しまっていて、いつでも抜く準備が出来ていた。

「レグン! あなたは、そちらに側なんですか?」
「あの子が、アーサーのようになるのは不可能です!!!
「・・・」
「あなたの方がいいに決まっています! あんな親の七光りよりも!!!」

 レグンは、住民たちからの問いをすべて無視した。

「黙らっしゃい!!! 彼女を王女に即位させると決めたのは、アーサー・パウフィー本人です! 彼はこの世界で一番ふさわしい人を即位させたまで! 彼女が一番ふさわしいと決めたのはアーサーです! 我々に止める権利はありません!!!」
「し、しかし・・・」
「しかしではありません! 未熟だとわかっているなら、私達が彼女の理想に近づけるよう協力しようではありませんか! この世で一番ふさわしい人に!!!」
 
 レグンの一言に、住民たちからの批判が称賛に変った。一言一言が重く、心に来るものだったと後にグレンは語った。元々、父アーサー・パウフィーが冒険家として活動していた際の同じパーティーメンバーだった。解散した後も、レグンは、アーサーの側近として働き、住民たちに多大なる貢献していため、それなりの絆があったからだ。

「ありがとう、レグン」
「いえいえ、これからですから頑張ってください。アーサー・パウフィーの跡継ぎとして」
「はい!!!」

 その日の夜、前日、緊張と興奮でよく眠れなかったグレンは、城の最上階にある自室でぐっすりと眠っている姿をひっそりと、誰かがのぞいていた。
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