3-3 キクレー因子
文字数 1,881文字
星弥は懺悔でもするように声を震わせて告白する。
異常……そうかもしれない
でもわたし達はすずちゃんが元気でいられるようにずっと見守ってきた
大きくなるにつれて、検診の頻度も少なくなってきて、それはすずちゃんが元気になってきた証拠なんだって──思っていたかった。銀騎研究所は病院じゃないのに、ね
周防くんと
唯くんがここに来るまでは、そんな甘えた幻想で自分を誤魔化してたんだ
わたしも知りたいの、すずちゃんに何が起きてるのか
少し穏やかな口調で永は星弥に頭を下げた。しかし次に顔を上げたその表情はこの世の者とは思えないほど冷たく、暗く、そして激しい怒りを携えていた。
蕾生も星弥も、永の剣幕に呑まれて身動きがとれなくなっていた。永の纏う怒りで周りの空気が震えているのではないかとさえ思う。
二人が息をすることも忘れて硬直していると、永はふっと力を抜いていつもの口調に戻った。
──とは言え、今日判明した疑問の全てを解明するのはなかなか大変そうだなあ
あー、やっぱり鈴心チャンに聞くのが一番手っ取り早いよねえ
……そうだ!
一番最初に言ってたよね、親戚の子が銀騎詮充郎の研究について知りたがってるって
ええっと、主にはお祖父様の研究の内容かな?
最初はうちの陰陽師稼業のことも知りたがってたけど、わたしがほとんど知らないことがわかったら聞かれなくなったな
それでお祖父様の論文を読んで、ここはどういう意味かとか持ってくるの。でもわたしもさっぱりで、答えられないと冷ややかな目で見るんだよ、「この役立たず」って
ま、君の変態性はおいとくけど、リンも何かを調べてるってことか
特に関心があるのは、ツチノコとキクレー因子、かな
兄さんにもたまに聞くみたいなんだけど、うまくはぐらかされるって
銀騎詮充郎がだいぶ前に、空想の生物だと思われてたツチノコを発見して、生体を研究し、新種の生物として登録したって話はしたよね
そのツチノコだけが持ってる遺伝子の特殊な配列がある
それを銀騎詮充郎はキクレー因子と名付けた
ちょっと!この前の見学会で銀騎皓矢が説明したでしょ?
そうだったか?──まあ、なんか聞いたことあるなとは思ったけど
うんうん、ライくんはそんなもんだろうねえ
でね、キクレー因子がツチノコの体にどんな影響を与えてるのか、他にもこれを持つ新生物がいるかも、っていうのが今の銀騎詮充郎の研究なわけ
それが進捗とかは一切公表されてないんだよねえ
ツチノコの時もそれまで何を研究してたか謎の博士がいきなり発表したから世界がビックリしたらしいよ。「銀騎詮充郎?誰?」って!
そう、すずちゃんも研究がどこまで進んでるのかを知りたがってた
だからお祖父様のファンだっていう周防くんなら何か噂とか知らないかなと思ったの
僕?そうだなあ、銀騎詮充郎ファンのネットワークの中では、ツチノコが何故一般公開されないのかっていう考察があるにはあるけど……
そういや、リアルタイムでは見たことねえな
見つかったのって30年も前だろ?
うん。発見当初は標本として見せてたし、その姿はテレビでもかなり映ってたみたいだけど、それ以降はさっぱり銀騎詮充郎共々メディアから隠れてしまってるんだ
お祖父様ならそうなると思うな
もともとテレビとかは好きじゃないから自分が満足に発表できた後はオファーがあっても断ると思う
そういうのに出演してると研究する時間もなくなるし
僕もその意見に賛成
銀騎詮充郎を知ってる人ならそう考えるけど、ただのファンはそうじゃない
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