第1話 

文字数 1,198文字

今日は寒い。本当に寒い日だ。こんな寒い日でも私は人探しをしなければならない。私はこんな日でも仕事をさせてくる主人を恨めしく思う。
 突然だが、私の名前はファウスト。私は今人探しをしているが、何も特定の人物を探しているわけではない。私が探している人間とは心に満たされない欲を持っている人間だ。満たされない欲の具体例を挙げると、
「富が欲しい、名声が欲しい、素晴らしい恋人が欲しい」
といった人間たちが強く願うけれども決して叶う事のない望みの事を指す。そして満たされない欲を持つ人間は常日頃から抑圧された生活を強制的に送っているので強い負の感情も心の中に渦巻いている。私はそんな人間の強い負の感情を感じ取り、彼らの目の前に現れて、一つの契約を持ち掛ける。人間は私と契約を結ぶ事で自分の願望を叶え、満たされない欲を取り除く事ができる。ここまで聞くと私はいい人のように見えるかもしれないが、それは大きな間違いだ。なぜなら私は悪魔だからだ。悪魔と契約を結んだ人間は例外なく全員、悲惨な末路を迎えている。有名な例を挙げると、世界的に有名なミュージシャンが27歳を機に死んでしまう事例があり、都市伝説好きな人間が
「彼らは悪魔と契約を結んで、たぐいまれなる才能と幸運を掴んだが、結局悪魔に魂をとられて死んでしまった」
と何の根拠もない噂を立てて、都市伝説やオカルトを信じない人間から馬鹿にされている。しかし、実際のところ彼らの見立てや予想は大正解である。何を隠そう、この私が彼らに契約を持ち掛け、誘惑に負けた彼らと契約を結びその願いを叶えたからだ。彼らは最上級の幸福を享受したが、全員長くは続かなかった。なぜなら彼らは私の警告を無視したり、約束を破ったからだ。私は契約を結ぶ時に、彼らに破ってはいけないルールや注意すべき点を伝える。最初のうちは彼らも私との約束を律儀に守ってくれる。しかし、時が過ぎていくと次第に約束を守ろうとしなくなっていく。そして最終的には私との約束を破り、今まで享受してきた幸福分の大きなしっぺ返しが彼らを襲うのだ。その状況を待ってましたと言わんばかりに私は現れ、彼らから生じる最上級の負の感情である「絶望」を収穫するのだ。私との約束を守ればその人間は永遠の幸福を享受し続け寿命を終えて死ぬこともできるのだが、残念な事に私と契約した人間は全員約束を破ってしまうのだ。しかしこれは仕方のない事だと私は思っている。私の主人は何度も私に
「人間は、神から理性を与えられたが、それを使いこなせる人間はこの世には存在しない。」
と言っているが、主人の言っている事はこの仕事をしている中で本当にその通りだと実感している。
 そうしている内に、強い負の感情を持つ女を見つけた。女の目には生気がなく、力なく道を歩いている。
「これは良い『絶望』を収穫できそうだ」
私は興奮して独り言を言いながら、女をターゲットに定めた。
 

 
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