(ただし、デザートは和)

文字数 2,000文字

 
 YouTube見ながら家でひとり、昼ご飯を食べてたら、朝美から突然、電話が入った。
「ごめん、ミユ。急だけど相談があるの。よかったら聞いてくれる?」
 服飾系専門学校に通う私と超真面目大学生になった幼馴染の朝美は、今では高校の時よりよっぽど頻繁に会うようになってるんだけど、それにしてもいきなりこういうのは初めてなんじゃないか。嬉しい反面、ちょっとびっくり。だもんで食べてたピザトーストがむせそうになって、慌ててコーラで流し込む。
「……あー、だったら今夜、家に寄ってよ。どうせ今日もバイトでしょ?」
「ううん。ほんとは家庭教師なんだけど、向こうが熱出したって急にお休みになったの」
「じゃあこの後ずっと家にいるから、来たけりゃとっとと来れば?」
 ウソ。本当は課題の材料買いにいく予定だった。でもいいや。いつだって朝美が最優先。
「ほんと? ありがと! なら、この後、一コマ授業あるだけだから、終わったらすぐ行くね」
 弾んだ声が私の耳を心地良くくすぐる。残り物で適当に作ったピザトーストが、急に有名店の窯焼きハンドクラフトピザに見えてくる勢い。やば。私、やば。そう思いながら、通話が切れた後もしばらくにやにやが止まらなかった。

 ってそんな場合じゃなかった。残りのピザトーストを口に押し込んで着替え、あ、そうだ、顔もまだ洗ってなかったと洗面所へ。身支度とメイクを済ませたら、部屋も片付けないと。作りかけの課題とその材料資料その他が溢れてる、あんな中に朝美を座らせる訳にはいかない。
 フルターボで諸々終わらせた所でインターホンが鳴った。
 ビバ、私。
 自画自賛しながらドアを開ける。

 はぁ。今日の朝美もクソ可愛い。何ですか、この絶妙なダサ可愛さ加減は。狙ってもこうはいきません、あくまでも天然な朝美だからこその為せる技。って口が裂けても誰にも言えねーな。
「これ、買ってきたから一緒に食べよ?」
 おばさんの分もあるからと笑顔で手渡されたのは、うちの母親が好きな大判焼。こういう所がガチ優等生ってやつ。女子大生ならなんかこうもっと違う物、例えばコンビニスイーツとかSNSでよく流れてくる期間限定のお菓子とか、そういうの買ってきそうなもんだけど。
「サンキュ。お茶入れるから先、部屋上がってて」
「何言ってるの、手伝うって」
 ふたり並んで台所に立っている、ただそれだけで幸せ、ってなる私は一体、何者。心の中で自分突っ込みしつつ、お盆を持って私の部屋へGO。

「で、相談、って?」
 まだほんのりと温かい大判焼を頬張りながら、朝美を促す。
「ええっとね、」
 あら、珍しい。朝美が下向いてもじもじしてます。
「あのね、」
「うん?」
「今度、バイト先の塾の広報誌でチューター紹介するんだって。それで顔写真も載せるからって言われて、」
 意を決したように朝美が顔を上げた。
「ほら、この前、クラブに連れてってくれたでしょう? あの時してくれたみたいなのとは違うんだけど、でも、私、メイクってその、あんまり、」
「……分かった。要はチューターらしく見えてなおかつ写りのいいメイクをカメラ撮りの時にして欲しい、と」
 一瞬で朝美の顔が輝く。
「そう。そうなの!」
 どうしてミユって私の言いたいこといつもすぐに分かるの? って首を傾げてるけど、分かんない方がどうかしてる。そんな目で訴えられて分かんなかったらそれ色々と詰んでる。

 ってことで、再び。
 夜遊びド迫力お姉様系だった前回と違って、今回は思いっきり抑え目。元々の朝美のキャラを生かしたお上品真面目系メイクだから、本人に取っても違和感はなかろう。お試しで手早く仕上げただけなのに、
「そうそう、こういう感じ♡」
 嬉しそうに頷いてる。
「そんなに大きい写真じゃないんだろうから、本番はもうちょい濃いめに仕上げるよ。その方がメリハリきいてキレイに見えると思う」
「うん、任せる」
 ありがと、と満開の笑顔。こんな顔見せられたら私、何だってしちゃいます。
「さっき顔写真って言ってたけど、バストトップまで写ることも考えて、上の服、少し試しておこうか」
 例えば同じ白のトップスでも、首回りが大きく開いているのと首を全部覆っているのとでは印象がまるで変わるからね、なんて言いながら上から当ててみせる。
「わぁ。ほんとだ。そんなこと考えたこともなかった。さすがミユ」
 気のせいかな、私を見る朝美の目がうっとりしているような。いかんいかん。腐った頭がついユートピアにまで飛んでいってしまったらしい。気を付けねば。
 それでもこうしていると、自分の好きなこと(服のことだとかその延長にあるメイクだとか)が自分の好きなひとの役に立って、その上、喜んでもらえるって幸せだなあとつくづく思う。それもこれも当の朝美が私の気持ちに全く気付いてないってことが前提としてあるんだけど、それはまあ今回に限っては良しとしておこう。

 グラッチェ、鈍感。

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