第1話 あの頃、やおいを教えてくれた君と

文字数 665文字

1986年秋、冬休み前。

小学校高学年だった私は当時の親友梅ちゃんの家で2人こたつに入ってゴロゴロしていた。

彼女の家は団地の一階でこたつカバーは赤い毛糸編みだった。

ラジオからは当時のロングヒット曲、シカゴの「素直になれなくて」が流れていた。

こたつを挟んでみかんを食べながら薄い本を読んでいた梅ちゃんは突然、

「ねえ、この団地幽霊が出るんだよ」

と薄い本から顔も上げずにふつーに話し始めた。

何でも、梅ちゃんのお父さんが夜中トイレに起きてふと、玄関前の壁掛けの姿見に目をやるとそこには…

首をくくってぶら下がる若い女性がはっきり映っていたという。

トイレの事なんか忘れてお父さんはそのまま引き返してしまったそうだ。

後日、お父さんがそのことを団地の人達に話すとやはり昔、女性の首吊りがあったそうでその場所はちょうど玄関と姿見の間だったという。

こたつで寝ていた私は顔を上げて、

「…え?現場は今まさにこの部屋の玄関だったってこと?」と驚いて聞くと

「そう」と私と目が合った梅ちゃんは剥いたみかんを一気喰いしながら再び薄い本に目を戻した。

「私ね、甘酒饅頭を20個食いしたことあるんだ」

「へぇ〜、梅ちゃん細身なのに奇跡の食欲」

そこで会話は途切れ、私は出されたキャラメルコーンを咀嚼し、梅ちゃんはまた別の薄い本を読み出した。

こうして会話が続かなくても一緒の空間にいて本当に居心地が良かった関係性はやっぱり得難い親友だったと思う。

高校を卒業して彼女は地方公務員、私は医療関係の仕事と忙しく会う機会が減り、20才の時飲み会で、

「ちっくしょー、上司が脱税してんだぜ
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登場人物紹介

梅ちゃん今頃どうしてるのかなー。


貴腐人としてノリノリで同人誌描いてるか反動で自分の子に「薄い本なんて読んじゃいけません!」と言ってるかもの二択。

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