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文字数 7,957文字

 「お、ま、え、ら~!」
 物語は、先生の怒号とともに始まった。

 ガラガラと準備室の引き戸が開いたかと思うと、ひょいと顔を覗かせたその人物と、畳の上に寝そべってお菓子をついばんでいたあたしたち3人の目が一瞬、しっかり合って、そして目というものは「丸い」ものだと思っていたのに、あんなにもマンガのように三角になるものだと感心するくらい、彼の目がつり上がるのを見てしまったわけだ。

「なにをしとんのや!アホ!そこへ直れ!」
 三十代半ばくらいで、いちおうそれなりにスーツ姿をしたその人物、つまり、我が文芸部の顧問にして、あたしたちの担任にして、国語科を受け持ってくれている嵯峨先生がいつものように怒鳴り声を上げたので、
「ひええええええ!」
とこれまたマンガのようなビビり声を上げて、あたしたち三人は、瞬間的に正座をした。たぶん、三人とも、コンマ何秒かだろうけど、おそらくきっと確実に空中浮遊をしてたに違いない。
 それくらい、驚異的に飛び上がって、ドスンと畳の上に着地したんだもの。

 怒られている理由は、至極簡単なことに違いない。言わずもがなわかる。
 嵯峨先生は、腕組みをしたまま仁王立ちで、ぐるっと室内を見渡してから、ちょっとだけため息をつきながら言った。
「どういうことや。はあ~、なんなんやこのつっこみ所満載の部屋は!」
 ちらっと、あたしたちは目を合わせて、いつおううつむいてしおらしい態度を取ってみる。

「野宮(ののみや)!・・・ここはどこや」
 嵯峨先生が、一美(かずみ)を指名した。
「・・・国語科準備室です」
 かずちゃんは、元から小さいのにいっそう小さな声で答える。
「じゃあ、なんでおまえの目の前には、男の子同士がいちゃつき合うようなマンガ本がうず高く積み上げられとるんや!」

・・・先生BL知ってるんや、とあたしは隣の由佳にささやこうとして、やめた。とりあえず、今は。

「・・・。」
 かずちゃんは黙っている。先生は、次にじろりと由佳を睨んだ。
「秦(はた)!おまえの口の周りについてるのは、何や!」
「・・・生クリームです」
 ちゃぶ台の上にある食べかけのケーキが、ちらりと目の端に映った。ええ?まじ?もしかして没収とか?!

「で、常盤(ときわ)。おまえの格好はなんなんや!」
 常盤桜子(さくらこ)、あたしの番。やはりこれはまずかったらしい。制服のブレザーはそこらへんに脱ぎ捨ててあり、あたしはピンクのスウェットの上下を着用して、正座している。ええ、そうだとも。これは部屋着に相違ない。

「それから、・・・第一その畳はどっから持ってきたんや!」
 嵯峨先生は、もうぶっちゃけあたしたちの回答はどうでもいいわけで、とにかく目の前の光景に対して怒り心頭なわけで、もうなんというかアメリカ人が「ホワイ?!」とか「オーマイガッ!」とか叫んでる時のように両手を広げて、この現実と戦っているのだった。

 説明しよう。ここは、あたしたちの通う高校の国語科準備室。しかし、ご承知のように、すでにその中身はかなり模様替えされている。本来なら、事務机とか本棚とか、資料の収納庫とか、そういうものが主役のはずのこの部屋の真ん中には、六畳敷きで畳が並べられていて、ちゃぶ台が置いてあって、電気ポットのコードがあっちらへんから延びて来ていて、お茶とかおやつとかマンガが散乱していて、あまつさえあたしたちはさっきまでゴロ寝で優雅な放課後を過ごしていたわけだ。

 嵯峨先生はそのどれもが、気に食わないらしい。ああ、まったく同感するわよ。おそらくきっとあたしが同じ立場なら、メイビーパハップスプロバブリィあたしだって激怒するに違いない。

「ごめんなさいっっ!」
 とにかく、あたしは大声を上げて正座からの土下座を猛スピードで繰り返した。つられて、かずちゃんも由佳も、まるで五体投地のごとくひれ伏しまくった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!

「許さへんっ!」
 嵯峨先生は怒鳴りつける。そして、決定的な台詞を吐き捨てるように言ったのだった。

「もういい。おまえらから、部室を取り上げる!」
「ええええええ!!!!」
「いいや!泣いても叫んでも取り上げる!だいたいなんや!つぶれかけの文芸部に入部しても、小説のひとつ書くわけでもなく、俳句の一句詠むわけでもなく、ダラダラだらだら毎日過ごしてた上にこのザマやないか!高校入学から半年たっても、まともな部活動を一回もしたことないおまえらに、部室をもらえる資格はない!」
「びええええええ!!!」
「泣いてもあかん!もう決めた決めたからな。三十分で全部片づけて、この部屋から出ていけ!」
「無理!無理です無理無理!一時間かけて柔道部員が武道場から畳移動させたのに、三十分じゃ無理!」
 もう、反論も意味不明だが、仕方がない。あたしたちもここを追われては高校生活の楽しみが半分がなくなってしまうからだ。残りの半分は、まあいろいろあるがそこらへんは、まあいろいろなのだ。

 と、そんな修羅場の真っ最中であったのだが
「いったいどうしたの?」
と思わぬ助け船が現れた。
 騒ぎを聞いて通りかかったのは、隣のクラスの担任で、英語を受け持っている一条寿々(いちじょうすず)先生だった。
「ああ、一条先生。済みません騒々しくて」
嵯峨先生は、頭を下げる。おっさん、今までさんざん怒鳴り散らしていたのが、ちょっとだけ冷静さを取り戻してくれたのがラッキーだ。
「それはいいんだけど、・・・まあ、すごい状態ね」
 一条先生は、ひょいと準備室の中をのぞき込んで、驚きの表情を浮かべた。
「すぐに片付けさせますので、ご心配なく」
嵯峨先生は、本来の落ち着いた口調に戻ると、そう言ってこの場をなるべくあっさりと収めようとしている魂胆だった。
 要するに、他の先生にこの国語科の失態を見られたくないわけだ。
 しかし、一条先生は、そんな嵯峨先生の気持ちとは無関係に、
「でもまあ、文芸部の三人は仲良しね」
とけたけた笑っている。ちょっと天然なのかもしれないが、どちらにしても今のあたしたちにとっては、恐らく味方に違いない。ええい、今がチャンス!

「ごめんなさい!先生すぐ片づけますから、部室だけは取り上げないでください!」
 ここぞとばかりに、あたしは頭をさらに下げて精一杯の主張をした。
「あら、部室なくなっちゃうの?」
 一条先生は、相変わらず天然発言を繰り返している。あたしは内心ニヤリである。
「ええ、こんなことしてるんなら、こいつらには部室は不要です。本来の国語科準備室に戻します」
 嵯峨先生は冷たく言い放つ。
「そう・・・。でも嵯峨先生、この子たちが文芸部に入るって言ったとき、嬉しそうに準備室を空けてあげてたのにねえ。残念」

 このクソバカおんなああ!!!
と、恐らく嵯峨先生は内心怒鳴っていたに違いない。
「いや、まあ、それはその時の事でですね・・・。まさかこんな連中だとは」
 やや劣勢になりつつある嵯峨先生に、かずちゃんが畳みかける。
「あの・・・。ちゃんと部活しますから!もう一回だけチャンスをください。お願いします!」
「ほら、この子たちもそう言ってますから」
にこにこっ、と一条先生が笑う。どうやら勝敗は決したようだ。ナイスだ由佳。

むすっとした表情で、嵯峨先生は黙りこくってしまった。そして、おもむろに口を開く。
「・・・おまえら。悪運だけは強いようやな。じゃあ、わかったから一回だけチャンスをやろう。一週間だけやるから、部屋の片づけと、文芸部誌を一冊仕上げてこい。できなかったら、その場で強制立ち退きやからな。わかったか!」
「はいっ!ちゃんと部活します!」
 あたしたち三人は、これでもか、というくらい礼儀正しく返事をしたのだった。
 

 話は、半年ばかり前に遡る。あたしたち三人は、この春高校に入学したばかりで、なおかつ同じクラスになった縁もあって、いつのまにかコンビを結成してしまっていた。
 お決まりの「部活、何入る?」みたいな雰囲気の会話の中、偶然にも三人の思惑が合致してしまったのが、今日の悲劇を招いているわけである。

「あたしさあ~。放課後にティータイムしたいんだよねえ」
 発端となったのは、あたしの発言だった。当時流行していた某アニメの影響もあって、なんとなく友達同士で放課後にお茶をすすりながら「はんなり」したい!というのが高校生活の夢だったあたしは、ついそんなことを口走ってしまった。
「それいいねえ。やりたい!」
 かずちゃんと由佳の食いつきようは半端なく、よってあたしたちの目標は、「放課後にティータイムできる部活」探しと相成ったわけである。
「スポーツ系だと、青春もってかれそうだし、文化系でも吹奏楽とか厳しそうだしなあ」
というわけで、あくまでも部室が欲しいあたしたちの狙い目は「廃部寸前の部活」になった。写真部と弁論部と文芸部が、ファイナリストに残った結果、
『部室は欲しいけど暗室はいらん』
『あたしらには、とくに青少年な主張はない。その前に少年じゃなく少女だ』
『どっちかというと、本を読むのは好き』
という厳正な選択の結果、私たちは晴れて一年生三人だけの文芸部員となった訳である。

 もちろん、当初の目的である部室の確保は、担任の嵯峨先生が「国語」の教科担任で、おまけに「国語科準備室」がずっと空き部屋放置状態のままであったこともあって、至極簡単に入手に成功したのであった。

 そもそも、国語に準備室なんていらなくね?というのが、部屋を貰ってすぐに思った感想である。資料ったって辞書とか、教科書会社が持ってくるらしい教科書の見本とか、副教材の漢字・慣用句練習帳とか、小論文の手引きとか、そういうつまらない(失礼)本がだらだらと置いてあるだけで、理科みたいに薬品庫とか人体模型とか、解剖用の鶏頭水煮とか、テンションが上がるものがあるわけではないのだ。
 だから真っ先に、わが文芸部の部室はそういう資料を端っこに片づけて、あたしたちにとって居心地のいい、快適空間へと変貌を遂げたわけである。

 思えばこの半年は至福の時間だった。
 野宮一美、かずちゃんは、恐らく本来の文芸部員に一番近い存在だと思う。ただし、ある一点の倒錯傾向を除いては、であるが。大人しくて、本やマンガを読むのが好きで、おかっぱで色白で、どうも話によると巫女さんの家系らしい。いつもおだやかにちょこんと畳の上に座ったり、体育座りをして静かに本を読みふけるかずちゃん。しかし、そのすべては可憐なのかイケメンなのかよくわからないが、男子同士があんな関係やこんな関係になってしまうんだかどうなんだか、という特殊なジャンルで、正直あたしなんかには何が面白いんだか全然わからないんだが、筋金入りの文ゲイ路線なので、まあ尊重している。
 その割に、本から目を離している時は割とふつうの女子高生なので、おそらくクラスの他の子は、かずちゃんがあんなことやこんなことをしているとは到底思ってもいないだろう。
 秦由佳は、栗色の髪が綺麗で、すらりと背が高い美人である。彼女は絵やイラストを描くのだが、なんていうか、ちょっとアーティスティックな感じがする。いつも、お菓子を持参してくれるので、わが文芸部にとってというよりも、あたしにとっていなくては困る存在なのだ。秦一族、というのははるか昔に大陸から日本に渡ってきた渡来人の末裔だそうで、だからかどうかわからないが、べちゃっとしてなくてしゅっとしている。ああ、これじゃあ関西の人以外には、どんな感じかさっぱりわからないだろうなあ。
 ともかく気だてのとてもよいいい子だ。

 最後のあたし、常盤桜子という大河ドラマにでも出てきそうな名前の持ち主は、この中ではいちばんガサツでいい加減な人間だと思う。完全に名前に負けている感じだけれど、常盤御前のように優雅な感じもなければ、桜の花のように可憐な感じでもない。あああ、でも元気やる気本気だけは、たぶん負けない。そういえば、わが文芸部の畳の上に寝っころがって、転げ回っていたのは、三人の中であたしだけだった。そんな奴だが、それも今日さっきまでの話で、あの幸せな空間はもはやこれまでなのだ、と思うと泣けてくる。
 明日から、武道場の補充用畳を返して、ちゃぶ台やらなんやらを持って帰って、とにかく引っ越し作業が大変そうだ。
 え?補充用畳のこと?当たり前でしょ。新品だったから、「どうせ倉庫に置いとくだけなら、貸して!茶道の茶室を再現したいの」と柔道部員を言いくるめて借りてきたのだが、まさか現役の柔道部員の汗と涙と汁が染み込んだお古を、あたしたちのような乙女が喜んで持ち込むはずがないじゃない!とにかくうちの高校に茶道部が無かったことには、感謝している。

「はあ~あ、とにかく今日は参ったねえ。嵯峨の怒りようったら、凄かった」
 とりあえず下校して、作戦会議ならぬ仕切り直しであたしたち三人は、うちのガッコの生徒行きつけの、近くの喫茶店でだべることにした。
 あたしは、テーブルに突っ伏して、ため息三昧である。
「でもまあ、部室だけは取り上げられなかったから、よかったね」
 由佳はにこにこっと笑った。ああ、あんたはこんな時でもほんとに美人だね、と思う。
「いやあ、でもあたしにとっては、ハンパない量のマンガを持ち帰ることのほうが苦悩だわ」
 かずちゃんは、一番切実なことを言う。
「・・・見られたし」
 ぼそっと、最後の呟き。
「嵯峨、気付いてたねえ。意外に鋭いのか、そっちの趣味があるのかどっちかだね」
 あたしがそういうと、ツボだったのかかずちゃんはけたけた笑った。
「でも、一番の問題は、残された時間が一週間しかないってことでしょ?」
 由佳は、穏やかながらも大事なことを言う。
「そうよ!片付けはできるとして、あたしたちに『部誌』なんて書ける?ブンガクみたいなのいくつか揃えないといけないんでしょ?無理じゃん!」
 あたしは頭を抱え込んだ。
「・・・あたしが書いたら、とんでもないものが出来てしまう気がする」
 かずちゃんが呟く。
「だろうね。歴代でも燦然と輝く文『ゲイ』部誌になること間違いなしだね」
「それはやっぱり、まずいよね。まずいよ」
 あたふたとうろたえる由佳はやっぱり可愛い・・・。いや、そんなことを言っている場合ではないのだ。

「お待たせしました」
 そんな苦悩の空間を破ってくれたのは、喫茶店『ドリーム』の看板娘、マスターのお嬢さんである、あやのさんだった。
 カタン、といい響きを立てて、キャラメルマキアート的な何かとか、生クリーム添えのワッフル的な何か、が並んでゆく。
「さっきから盛り下がってるけど、学校で何かあったの?」
 あやのさんが訊くので、あたしはかいつまんで事情を説明した。
「あっら~、それは大変ね。怒られたのは、まあ仕方ないとして、一週間で作品を仕上げるのは、しっかり計画練らないと、たぶん無理よ。嵯峨先生、時間延ばししただけで、やっぱり部室取り上げるつもりなんじゃない?」
 ああ、言い忘れたが、あやのさんはうちの学校の卒業生なので、嵯峨先生のことを知っている。あたしたちから見れば、ずっとお姉さんに思えるあやのさんだが、実のところは三、四歳しか離れていないのだ。
「やっぱりそうかなあ。悔しいなあ」
そう呟きながら、あたしは肝心なことを思い出した。
「ところで、文芸部の『部誌』ってあたし見たことないんだけど、どんなのを作ればいいの?」
「はい?!」
 由佳とかずちゃんが、目を丸くする。え?何?あたしなんか変なこと言った?!
「部室にたくさん転がってるよ!桜子だから、仕方ないと言えば仕方ないけど・・・」
「ほれ」
 かずちゃんが、バッグから一冊の古い部誌を取り出した。
「用意いいじゃん!まさか持ってるとは」
「敵を知らずして、戦えないでしょう。・・・いや、いざとなったら丸ごとパクろうと思って・・・」
かずちゃんはにやりと不敵な笑みを浮かべる。だが、しかしである。
「・・・あ、あたしこれ無理」
ページをめくって、その文字しかない冊子に少しばかりクラクラしたのは、きっとあたしだけだろう。それはわかってるのだが、せめて、可愛い女の子のイラストとか、四コママンガとかついててもいいじゃん!
歴代部員の誰が作ったかは知らんが、四コマというより四文字熟語羅列率が高いその文章に、あたしはげんなりした。
「だめだめ、もっとほら、キュートでガーリーでポップな感じにしたいと思わない?だってこれ可愛くないじゃん!」
「うーん、でもあんまり可愛くすると、嵯峨先生にまた怒られるんじゃない。『文芸部誌とは、こういうもんや~!』とかこだわりありそうでしょう?」
由佳はまじめに反論する。
「あたしは可愛い男の子が描いてあったほうが・・・」
悪いがそれは却下だ、かずちゃん。

「それじゃあ、役に立つかどうかはわからないけれど、こんなのはどうかしら?」
 ふいに、あやのさんがカウンターの横から、いくつか冊子のようなものを持ってきてくれた。
 色画用紙に、タイトルだけ刷られているような冊子や、写真が載っているミニ本のようなもの、そして、明らかにこれインクジェットプリンタで印刷したでしょう、的なものをステープラーで止めてあるだけの紙の束など。
「これね、この間お客さんの大学生の子たちが、『置かせてください!』って持ってきたの。『zine』っていう手作りの雑誌なんだって、マガジンの『ジン』ね」
「へええ~」
 三人がそれぞれ手に取って、そのzineとやらをめくってみた。写真とかイラストとか詩とか、全然知らないミュージシャンの話とか、全然知らない街のおいしいカレー屋さんの話とか、あと誰かの家の犬のポチの写真とか。
「・・・これ。これやりたい」
 かずちゃんが、小さいながらも力強く言った。
「・・・これ、うちの部誌にできるんじゃない?」
 由佳が、目を輝かせた。
「・・・これだ。これなら嵯峨に勝てる!!」
あたしが叫んだ。

 手作りでさくっと原稿書いて、イラスト描いて、なんならスマホで写真撮ってきて、ステープラーでパチンと止めれば出来上がり。これだったら、一週間で間に合うし、先輩たちの部誌とはニュアンスは違うかもしれないけど、なんとなく充実したものを作れそうな予感がした。
 それに第一、可愛いじゃないか。ジン。
「あやのさん!ありがとう!これ使えそうな気がする。あたしたちの部誌、zineにしてみる!」
「あら、役に立てて嬉しいわ。それ、貸して上げるからいいzine作ってね。あ、そうだ。みんなのもできたら、うちのカウンターに飾置かせてもらおうかな」
 いえいえそんなめっそうもない、あっしらの作るものなんざ、他の方々のzineの足元にも及ばねえっすよ、と内心思いながら、それはちょっとだけ「マジ」で頑張ろう、という気持ちにさせてくれる提案だった。
「頑張って作ってみます。・・・なんか、やれそうな気がしてきたね」
「よし、帰ったらレイアウト考える」
 にこにこ顔の由佳に、早くも真顔になっているかずちゃん。そしてあたしは
「ふはははは!これで嵯峨をぎゃふんと言わせてやんよ。あたしたちに土下座させた恨み、しっかり返してやる!」
と、仁王立ちになりたいような気持ちでいっぱいだった。
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登場人物紹介

常盤桜子(ときわさくらこ)

この物語の一応の主人公。怠惰で元気な文芸部員。手作り雑誌の「Zine」を作りはじめる。

野々宮一美(ののみやかずみ)

文芸部員ながらその実はボーイズラブが大好きな文ゲイ部員。メンバー随一の切れ者。

秦由佳(はたゆか)

文芸部の中では、おっとりほんわかタイプの癒し系。

堀川摩耶(ほりかわまや)

ツインテールでロリータな美少女。違うクラスの同級生だが文芸部へやってくる。

西京極倖太郎(にしきょうごくこうたろう)

コンピュータ研究会に所属する財閥の息子。財力にものを言わせて桜子たちと反目する。

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