第4話

文字数 740文字

 角を曲がった瞬間、思わず悲鳴を上げた。
 なんと、先程のセーラー服の少女が三度(たび)、藤田の前に現れたのだ。少女はこれまでと同じく紺色のコートを着ており、藤田の方をじっと睨んでいる。ヘッドライトに照らされた少女の顔は、不気味な笑みを浮かべているように映った。
 思わず目をつぶり、あえて少女の方へとハンドルを切り、アクセルを力いっぱい踏み込んだ。
「うおおおおっ!!」
 それは少女の怨念を断ち切るための、戦艦へ無謀にも突っ込んでいく、命を捨てる覚悟の特攻隊の決意のようなものだったのかもしれない。
 激しい衝突音と共に車体が揺れる。その瞬間にまぶたを開けると、セ-ラー服がスローモーションのように弧を描きながら後方へ飛んでいく。悲鳴さえも聞こえない。
 間髪入れずにギアをバックに入れ、倒れている少女に向かって、またもアクセルを踏み込む。タイヤへ鈍い衝撃が走り、まるでその感触を楽しむかのごとく、何度も繰り返したところでようやく車を止めた。
 血だらけになった少女の顔をガラス越しに確認すると、三度目の全く同じ顔が、今度はまぶたをしっかりと開き、生命の光を失った瞳で、雪降る夜空を見上げていた。

 放心状態となった藤田は、車をUターンさせると、最寄りの警察署へと向かい、駐車場に乗り入れた。正気を失った目で車を降り、ボコボコになった車のバンパーをひと撫ですると、やがて数人の警官たちが近寄ってきた。
 取調室に案内された藤田は、たどたどしく事情を説明すると、怪訝な目をした刑事が、「ひとまず今夜はここで頭を冷やしなさい」と、署内にある留置所へ連れて行かれた。
 震える体を毛布で包みながらまぶたを閉じる。途端に血まみれのセーラー服の少女の蒼白い顔が次々に現れ、必死になにかを語りかけていた……。
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