3-5 一回目の終わり

文字数 647文字

 玄関を出たところで、(はるか)が空を仰ぎ後ろを向いて何かを見ていた。
 ──
 あっ、すず──
 つられて蕾生(らいお)も同じ方向を見ると、二階の出窓、そのカーテンの奥からこちらを覗く鈴心(すずね)の姿が見えた。蕾生(らいお)は思わず大きな声で呼びかけようとしたが、(はるか)に無言で制された。


 そうしてにっこり笑って(はるか)は手を振る。

 鈴心(すずね)は慌ててカーテンを閉めてしまった。

 ──帰ろ
 いいのか?
 うん、顔が見れたから
 満足気に薄く笑って(はるか)は屋敷を後にする。

 その健気な態度に蕾生(らいお)は胸が締めつけられる思いだった。

 (はるか)が遠ざかった後、鈴心(すずね)は暗い部屋の中で大きく息を吐く。
 ……
 来なくて良かったの?
 ──星弥(せいや)

 ノックぐらいしてください!

 ごめんね、ちょうど二人が帰ったから窓からでも見送ったらどうかと思って急いできたから
 ……
 でもそれには及ばなかったね
 ……今日は何の話をしたんですか
 えへへー、内緒!
(ジロー……)
 知りたかったら降りておいでよ、来週も来るから
 まだ来ると?
 すずちゃんが降りてくるまで諦めないと思うよ


 あ、来週はお部屋の前で三人で踊ろうか?

 そんなことしたら絶対開けませんから
 拒絶しているように見えて鈴心(すずね)の言葉には微な希望が読み取れる。きっと意識してのことではないのだろう。


 その小さな小さな穴を穿つことができるか、彼らのお手並みを拝見しようと星弥(せいや)はまた来週を心待ちにするのだった。

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登場人物紹介

唯 蕾生(ただ らいお)


15歳。男子高校生

怪力なのが悩みの種

九百年前の武将、英治親の郎党・雷郷の転生した姿


周防 永(すおう はるか)


15歳。男子高校生

蕾生の幼馴染

九百年前の武将・英治親の転生した姿


御堂 鈴心(みどう すずね)


13歳。銀騎家に居候している少女

英治親の郎党・リンの転生した姿

永と蕾生には非協力

銀騎 星弥(しらき せいや)


16歳。高校一年生

銀騎詮充郎の孫で、銀騎皓矢の妹

鈴心を実の妹のように可愛がっている

永と蕾生に協力して鈴心を仲間に入れようとする


銀騎 皓矢(しらき こうや)


28歳。銀騎研究所副所長

詮充郎の孫

銀騎 詮充郎(しらき せんじゅうろう)


74歳。銀騎研究所所長

およそ30年前、長らく未確認生物と思われていたツチノコを発見、その生態を研究し、新種生物として登録することに成功した


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