第1話 プロローグ または 謎の2人の、長い長い説明

文字数 2,072文字

 びっくりした? いいや、君は夢を見ているわけじゃないよ。
 俺たちは、ここに、こうして、実在する。

 俺/僕たちは、Soul S/h/aver、
 Soul Shaver と Soul Saver は2人で1つ
 魂を、削り/救いに来たのさ―

         ***

 僕ら、いや、僕は、生き物が死ぬとき、持てる魂の倍量を与え次の生へ送り出す
 生き物には、文字どおりすべての命あるものが含まれる、微生物も人間も
 そう、みんな魂があるんだ

 俺は、他者を故意に傷つけ罪悪を成した者の魂を、それを贖う分だけ削っていく
 対象は、人間だけ―なぜなら、そんな悪しき行いは、人間以外、しないからな

 そして今、こうして僕らがわざわざ出向いたのは、君に用があるから
 心配しないで? 魂を削るとか奪うとかじゃない、君にとってはたぶんいい話
 ただちょっと、長いに付き合ってもらわなくちゃなんだけど

         ***

 生き物には魂がある、人間だけじゃない
 魂にはそれぞれ質量があって、次の3つの兼ね合いで決まる
  ・その生き物の種固有の、平均的な寿命
  ・他の生き物から得たエネルギー量
  ・その個体の、存命中の行動
 “兼ね合い”が具体的にいかなるものかは、まあ、企業秘密のようなものだが

 でも、人間の魂がトップクラスで大きな質量を持つことは、間違いないよ
 人間より長生きなものもいるけど、それらは消費エネルギーはごく微量だもの

 生き物は、死に際し、持てる魂の質量が倍加され、以て次の生の形態が決まる
 これを繰り返して次第に魂の質量を増やす―気の遠くなるような話だろう?
 寿命数時間、ほぼエネルギーを使わず命を終える微生物の魂の積み重ねなんて
 人間に至るまでにどれだけの時間がかかることか

 そんな大きな質量を持つ人間の魂はね、成せる悪事に応じて削られていくんだ
 小さな悪事ではちょっぴり、大きな悪事では ばっさりと、ね
 他の生き物は、魂の質量は生涯変わらない
 当然だよね、悪事をはたらかないから
 害虫・害獣と呼ばれる生き物はいるけれど
 それは人間が勝手にそう呼ぶだけ 自分の都合に合わせてね
 でもそんなこと、当の生き物にはあずかり知らぬことだよね

 そうだ、人間だ、人間だけが、生涯、魂の質量を削られながら生きて行く
 99%の人間の魂が、死の前に当初の半分以下になる
 つまり、次の世は人間以外の生き物になる
 犬、猫、虫、あるいは細菌? それでも、生まれ変われるだけましだ
 もう二度と、命として生まれることが無くなることもあるからな

 魂が削られる理由、それは本当に様々だよ
 殺人や強盗だけじゃない、他者を傷つける行為すべてが、悪事に該当する
 他の生物の命である食物の廃棄、生息環境を悪化させるポイ捨ても
 万引き、詐欺、いじめや嫌がらせも、また他者に故意に与える損害
 …つまり、本当に難しいってこと、人間がその魂を保ち続けるのは

 削られる量が多い連中は、もう削る部分もないほど、魂が失われてしまっている
 それを購うには本人のだけでは足りなくて、子や孫の魂までも借りていたりする
 生まれながらにして、来世は虫以下決定という子どもも多いぜ、気の毒な話だが
 ま、彼らはその人生では大抵いい暮らしをする、それでよしとするしかないな

         ***

 とはいえ、人間の魂は削られるばかりではないよ、足されることもある
 さっき彼が言ったけれど、生を全うすると、そのときの倍量の魂をもらえる
 人間の場合、その行いによっては魂を足されることも、ごく稀にだけど、ある
 まず人間くらいなものだからね、意図的に善い行いができるのは

 善い行い、それは、ひたすら誠実に、精一杯の努力をし続けること
 並大抵じゃないぜ、1日も怠らずにそうして生きるなんていうのは

 そうやって人間に生まれ変わる以上の魂の量を増やす人間がいたら
 褒美が与えられるべきじゃないか? そういうことになったんだ

 どんなご褒美かって? 超スペシャルだぜ
 自分の人生のある時点のできごとを、やり直すチャンスがもらえるんだ
 自分がその時点の自分に戻るか、もしくは第三者として関与して

 そう、もうわかったね? 真宙(まひろ)、あんた/君の番が、回って来てるってこと―

         ***

 真夜中。寝室に突然現れた不審者2人組が滔々と語る話を、ただ口をあんぐりと開けたまま聞いていた。何? 日々の行いに応じて人間の魂を削る? 増やす? 死に際の魂の量で来世が決まる? おまえの番? こいつら、イカれてる?
 語られた内容を反芻しながら、警戒心 MAXで上掛けを引き寄せた。何を言っているのか、言葉は把握できているのに、意味が理解できない。頭が追い付かない。そんなこちらの状態については一切意に介さない風の2人。何なんだ。

 だけど、話はこれで終わりではなかった。
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