混沌

文字数 1,083文字

大学病院と言えば、混沌だし、
混沌と言えば、大学病院だ。
まず、大学病院に来る患者は一般的ではない。
言わせれば、一般的ではない患者を受け入れるのが、大学病院なのだ。
町の歯科医院に、応召の義務なんてものはなく、ややこしい患者が来たら、大学病院に紹介状を送って、彼らは、小銭を稼いでいる。
大学病院は、混沌だし、
混沌と言えば、大学病院だ。

歯科恐怖症、極度の嘔吐反射!!
全身麻酔、静脈内鎮静法、亜酸化窒素吸引鎮静法、動かねーから、逆に簡単!

血糖値460の患者!
意識が朦朧としてるよ、診療したら、まじで死ぬんじゃねーの!
まず、内科に行け!
正常値の平均90だぞ!
僕の12番チェアに墓を建てる前に早く去れ

AIDSの患者
こえーよ

急患で来た、英語も日本語もわからない外国人
僕、英語は話せるけど、何語なの?
誰かわかる先生呼んできて!

ところで、みなさんは、赤い洗色液を知っているだろうか?
小学校で、やったんじゃないかな?
赤色の染色液、歯垢、歯の汚れ、磨けていない部分が赤く染まる液のことだ。

この染色液は、自分で歯を磨くようになりだした子供のブラッシング指導に、診療では、よく使われる。
他には、まだ親に磨いて貰ってる子供に使って、ここが磨けていないということを、親御さんに、目視で確認してもらう時に使う。
親が子供の歯を磨く時、たぶん、膝に頭を置いて、磨くのだと思うけど、その際に、親が右利きの場合、子供の右の歯は磨けていないことが多い。磨きにくいからね、

だから、僕が小児歯科で、その染色液を使って、子供の口に含ませて、何度か、ぐちゅぐちゅと、うがいして貰った後に、そのガキがくしゃみをするまでは、何の混沌の無い診療だった。

そのガキがくしゃみをしたせいで、診療室は真っ赤に染まった。
僕は、呆然としていた。
その後、ガキが、手に付いた染色液をチェアにこすりつけて取っていても、僕は、呆然としていた。

この染色液は、特殊で、何かについてしまうと、なかなか取れないのだ。
補助として、入ってくれている学生に、床を拭いてもらうように頼み、
僕は、早急に、チェアを起こして、ガキを僕が座っていた椅子に座らせ、チェアを拭いた。

もちろん、感染性物質なので、アルコールと、ディスポーザブル手袋はして、拭いた。
学生は真面目で、這いつくばって、拭いてくれていた。

やべぇ、医局長とかに、ブチ切れらるんじゃねぇの、目立たないように焦ろうと思って、
周りを見たら、同じ階に隣接している、障がい者歯科の方で、
患者が床にはいつくばって、よだれを垂らしているのを見て、
ああ、今日も大学病院だな!って、これぐらい大したことねーじゃん、って。
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