多島くんの時間と私の時間と6

文字数 821文字

 多島くんがカウンターの中から取りだしたものは…… 
今日から始めよう。俺と由希乃ちゃんで、『交換日記』をさ!
こ、こうかん……
ほら、こういう風にさ
 と言って、多島くんはノートを開いた。
 そこには、カラフルなペンを使って書かれた由希乃へのメッセージや、かわいいシールが貼り込まれた過分に乙女チックなページだった。
うわあ……かわいい……なにこれ……。手帳の使い方の本とかでは、こういうの見たことあるけど……多島さん、こういう趣味なんですか?
いやいやいやいや。


俺の調べたところ、女子の人は、手帳や手紙、ノートをこういう風にデコると。

さっき文房具屋で買ってきて、そのあと店番しながら書いてたんだけど、さすがに俺毎回これだと疲れるんで……その、使い方の見本と考えてもらえると助かる。


……どう?

やります!!
そっか。ありがとう。ノートっていう物体があるかぎり、それ以上にお互いを縛るものは存在出来ないからね。

……それに、風情があっていいでしょ?

うん
じゃ、よろしくね
 多島くんは、にっこり笑った。


 その後、ペンの使い方やイラストの書き方など、由希乃に根掘り葉掘り聞かれるハメになった多島くんだったが、もともと弁当屋のポップを書き慣れていた彼にとって、これらの作業は造作も無いことだったようだ。

ところで、どうしてメッセだとあんなに文が固いんですか?
え? ああ……俺、論文とか技術資料とかそういうの書いてばっかで、柔らかい文章ってあまり書いたことないから……驚かせちゃった?
あはは……中身が別の人かと思っちゃった
興味、ある?
論文?
まさか。――違う俺について、とか
(ごくり)
 低音ボイスでささやく多島くんに、由希乃は息を呑んだ。
続きは交換日記で? ということで
うん……よ、よろしく……です
 ちょっとだけ彼の悪魔的な部分を垣間見て、
(ヤバイ扉を開けちゃったのかも……)
 と、ドキドキする由希乃だった。


                               (了)
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登場人物紹介

橘 由希乃(女子高生) 
商店街の本屋でバイトしている。内気だがすぐテンパり、暴走しやすい性格。
そのため、人見知りなのか強引なのか分からないと評される。

本屋の向かいでバイトしている多島くんと付き合っている。

多島 勝也
本屋の向かいにある弁当屋でバイトしている若者。現在、資格試験の勉強中。
自分に自信がなく、つい素っ気ない態度を取って誤解されがち。

本屋でバイトしているJK、由希乃と付き合っており、彼女との年の差をとてもとても気にしている。

弁当屋の主人
勝也の叔父。妻と二人暮らし。気配を消すのが得意。子供がおらず、勝也を息子のように可愛がっている。イチオシのお惣菜は、チーズとちくわの磯辺揚げ。

子供っぽい性格で、しょっちゅう勝也にたしなめられている。

由希乃の同級生(女子高生)


由希乃の母

病院に勤務している。バツ1。

由希乃のバイト先の先輩

本好きな女子大生。

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