世界のハジメ

文字数 1,999文字

 パリパリ……
 ムシャムシャムシャ……

 ハジメは、ポテチをつまみながら今日も銀河テレビの生配信を見ているらしい。ここ一か月くらい、毎日こんな感じ。
「うぉっ! お前も見ろよ、すげーことヤッてんぞ!」
 ――うるさいなぁ、あたしは忙しいのに。
「ぐぁははっ!(笑)」
 ――うぁー。イライライラ……。
「なあ、聞いてんのか? おい、メグミ!」
 アッ!
 やってしまった。

「もう、うるさいよ! いま大事なところだったのに!!」
 コイツのせいで、タイミングをミスった。
「なんだ、ゲームなんかやってるのかよ」
 半笑いのハジメ。
「そんなのやめちまえよ。それよりさ、メグミもコレ見ろよ……」
 ハジメが言い終わる前に。カチンっ! 音はしなかっただろうけれど、あたしのなかではプチッと切れた。
「なによ! ハジメだって、くだらない動画ばっか見てるくせに!」
「なんだ? オレのことはともかく、暗黒星雲チャンネルをバカにすんな!」
「暗黒星雲がなによ! あたしの課金、弁償してよ!」
 かくしてケンカのゴングが鳴った。いや、ゴングってぶっちゃけ何なのか、あたしは知らないけど。
 ありとあらゆる罵詈雑言(バリゾウゴン)が飛び交う。さっきまで熱中してたゲームも配信もそっちのけ。クッションを投げつけるハジメに、あたしのぬいぐるみのクロスカウンターが入る。

 そんなこんなをしていると――
 ゴオォーッ、ドンッ! 地面が揺れた。
 こんな辺境に来る人なんかいないはず……。
 ヤバっ、忘れてた。今日はもしかして、いや、もしかしなくても、(あるじ)さまのご帰還の日だ!!
 そうなるとケンカはもちろん休戦。主さまの前で仲たがいをしているわけにはいかない。二人して、散らかった部屋を整理整頓して(ホントとりあえずだけど)、身だしなみを整える。

 十数分かくらいして。ガァーッ。自動ドアを開け、主さまがいらっしゃった。
「しばらくぶりだな。二人とも、私のいない間にも元気にしていたようで何よりだ」
「はい、おかげさまで」
 あたしたちは直立不動で応じる。あたしは声がちょっと裏返ってヘンな感じになって、なんか気まずかった。
「まぁ私も、丈夫に造ったつもりだからな」
「はい、ありがとうございます」
 さすがのハジメも主さまの前ではビビっている。
「それはそれとして、さて。さっき空からも見たが、もう荒れ放題ではないか。私がしばらく留守にしている間、働きもせずに。さんざん自分勝手に遊びよって」
 さっそく(しか)られた。
「何のために私がおぬしらを造ったのか。目が見えるようにして、手足も付けて動けるようにして、言語も知能も実装してやったのか。分かっているのか?!」
 分かりません、ハジメは頭をかく。
 うあっ、ハジメのバカッ! 怒られるッ! あたしは息を()んだ。
 けれど主さまは、ハアアァーッと、ため息を長くついて、
「こんな頭の悪いように造った覚えはなかったんたがなぁ、まったく誰に似たんだか……」
 しかし、主さまに似ましたぁーなんて、あたしたちは口が裂けても言えない。

 そして、お説教が始まった。
「もう忘れるなよ、改めて説明するから。私はこの星を管理するために、おぬしらを造ったのだ。せっかく創った私の庭だからな。おぬしらの役目は、この星の見回りをして、異状を見つけたら直すこと。だから、動けるように足を生やしてあるし、目も見えるし耳も聞こえるようにしたし、考える頭までも付けてやったのだ」
 ハイ。うなずくあたし。
「ああ、そうだったのですか、神様……」
 アホのハジメが言った。
「だから、実装してやった能力をムダにするではない」
 正直いって何千年も経ったのであたしたちが役目を忘れていたのも無理もないと思うんだけど。でも、全知全能の主さまからしたらそりゃぁ、あたしたちがバカに見えるのも当然だ。

「昔、私の同類も言ったものだ」
 主さまはそうおっしゃって、続けた。

――東に病気の子どもあれば 行って看病してやり
――西に疲れた母あれば 行ってその稲の束を負い
――南に死にそうな人あれば 行って怖がらなくてもいいと言い
――北にケンカや訴訟があれば つまらないからやめろと言い

 さっきまでそのケンカをしていたあたしたちには、身につまされる話である。主さまだって当然、宇宙を遊び歩いているわけではなくって、この彼みたく宇宙を飛び回って事件を解決しているから星を留守にしているんだ。頭が上がらない。(ま、そうでなくたって、もとより主さまには頭が上がらないんだけど。)
「まったく、それにひきかえ、おぬしらは……」
「申し訳ございません」
 二人一緒に、謝罪して頭を下げた。
「さぁ分かったか? 分かったらさっさと行け。いますぐ、見回りに行ってこい」
 主さまにたきつけられ、あたしたちはあわてて、とるものもとりあえず基地を飛び出した。
 うわぁ。いままでサボってたから()まってる。急いで見てまわんなきゃ!
 知的生命体のお仕事は忙しい。
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