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エピソード文字数 836文字

「身代わりと知った上で、於濃の方様と婚儀を……」

「紅も薄々気付いていたのではないか。濃姫は気が強い女子(おなご)だと、平手政秀より聞いておったが、帰蝶は奥ゆかしい女だった。如何なる理由かは知らぬが、声を無くし身代わりとなった帰蝶が不憫であった。
 喋れぬことをいいことに、蝮の餌食となったのだ。その企みを知りながら、斎藤道三に加担した明智光秀が、今だに帰蝶と情を通じていると知り許せなかった。
 紅、わしは間違っておるか」

「……上様」

「帰蝶は鳴かぬのではなく、鳴けぬのだ。もしかしたら、蝮に声を奪われたのやもしれぬ」

 そんな……。
 帰蝶が声を失ったのは、病ではなく斎藤道三に脅されたからだというの?

 信長は斎藤道三の企みを知った上で、和睦のために身代わりとなり輿入れした帰蝶を正室に迎えた。

 その心情を想いやり、夫婦の契りを交わさずとも、心が自分に向いていればよかったというのか……。

 だけど、帰蝶は……
 身も心も明智光秀に捧げた。

「紅、わしは中国遠征出兵準備のために上洛する。蘭丸を同行させるゆえ、紅は帰蝶と安土城に残るがよい」

 中国遠征出兵……。
 まさか……本能寺へ……!?

「上様、本能寺に立ち寄ってはなりませぬ!」

「なんと、これは異な事を。わしが考えておることが、よくわかったな。本能寺に暫く逗留(こうりゅう)するつもりだ」

「本能寺に行ってはなりませぬ!」

「何を向きになっておるのだ。紅の指図は受けぬ」

「どうしても本能寺に行くのなら、俺もおともします」

 信長は一瞬目を見開いたが、すぐに頬を緩めた。

「蘭丸に妬いておるのか?わしと蘭丸は主君と小姓以外の何ものでもない」

「……そんなこと、わかってる」

 信長は笑いながら、あたしを抱きしめた。光秀は秀吉の援軍に向かうはず。

『於濃の方様を悲しませることは致しませぬ』と、はっきりあたしに断言した。

 ――光秀が本能寺を襲撃するはずはない。
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登場人物紹介

斎藤紗紅(さいとうさく)16歳

レディース『黒紅連合』総長

 斎藤美濃(さいとうみの)17歳

紗紅の姉、家族想いの優等生

 織田信也(おだしんや)20歳

紗紅の交際相手

元暴走族

 織田信長(おだのぶなが)

戦国武将

明智光秀(あけちみつひで)

戦国武将

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