第2話 思い出の福智山
文字数 950文字
学生帽を被り友人と岩に腰掛けている。高校時代の福智山登山の一コマだ。定年後、父母の
いる故郷へ戻った。もう一度、あの山に昇りたいと思っていた。体調が悪く10年過ぎてしま
った。
体調も戻った年、猛暑の中を標高900mの福智山登山に挑戦した。朝6時、白糸の滝コー
スを出発した。岩に打ち込んである鎖を摑み登る。急な坂道はつづき、足下を一歩ずつ確かめ
て前進する。
途中で出会った老人は、1週間に一度は犬と来ると言って、軽々と追い越して行った。こっ
ちも必死の思いで既に、汗だくだくである。だが「福智山へ登るぞ」という気力は充分である。
樹木の日陰はあるが蒸し暑い。30分登っては息切れし、お茶を飲む。500mlの1本持参
のぺットボトルが軽くなっていく。
次の標識は「八丁越え」とあり800mの坂道が続くようだ。新たな試練である。木と木の
間にロープが渡されてある。幹には巻いたロープの食い込んだ跡が残っており、痛々しそうだ
った。
石ころだらけの不安定な坂道が延々と続く。30分過ぎた頃、心拍数も上がり、足も疲労困
憊の状況となった。振り向くと転がり落ちそうな急傾斜。無理だったら引き返そうと決めてい
たが、もはや不可能である。アブが一匹うるさく飛び回る。追い払っても付いてくる。「どう
して好んでつらい体験をするの?」とアブがからかっているのだ。
平穏な生活になれた老体には、坂道や汗まみれは辛い。時計を見ると8時半だった。「まだ
早いじゃないか」ゆとりが心を落ち着かせてくれた。
八丁峠に着くと、下山中の男性が「もう直きですよ」と励まされ、この言葉に救われ前進した。目の前が開け、頂上が見えてきた。限界を感じていたのに「山よ岩よ我らが砦」と鼻歌も
出てきた。
9時45分、夢に見た頂上に辿り着いた。あんなに苦しい上り坂だったのに、今は達成感で
幸せいっぱいである。出来ないかも知れないと思っていたことが、実現できたのだ。
高校時代から50年以上が経った。福智山の険しい山道のように、私も生きてきたのかなと
振り返り感慨に浸った。
いる故郷へ戻った。もう一度、あの山に昇りたいと思っていた。体調が悪く10年過ぎてしま
った。
体調も戻った年、猛暑の中を標高900mの福智山登山に挑戦した。朝6時、白糸の滝コー
スを出発した。岩に打ち込んである鎖を摑み登る。急な坂道はつづき、足下を一歩ずつ確かめ
て前進する。
途中で出会った老人は、1週間に一度は犬と来ると言って、軽々と追い越して行った。こっ
ちも必死の思いで既に、汗だくだくである。だが「福智山へ登るぞ」という気力は充分である。
樹木の日陰はあるが蒸し暑い。30分登っては息切れし、お茶を飲む。500mlの1本持参
のぺットボトルが軽くなっていく。
次の標識は「八丁越え」とあり800mの坂道が続くようだ。新たな試練である。木と木の
間にロープが渡されてある。幹には巻いたロープの食い込んだ跡が残っており、痛々しそうだ
った。
石ころだらけの不安定な坂道が延々と続く。30分過ぎた頃、心拍数も上がり、足も疲労困
憊の状況となった。振り向くと転がり落ちそうな急傾斜。無理だったら引き返そうと決めてい
たが、もはや不可能である。アブが一匹うるさく飛び回る。追い払っても付いてくる。「どう
して好んでつらい体験をするの?」とアブがからかっているのだ。
平穏な生活になれた老体には、坂道や汗まみれは辛い。時計を見ると8時半だった。「まだ
早いじゃないか」ゆとりが心を落ち着かせてくれた。
八丁峠に着くと、下山中の男性が「もう直きですよ」と励まされ、この言葉に救われ前進した。目の前が開け、頂上が見えてきた。限界を感じていたのに「山よ岩よ我らが砦」と鼻歌も
出てきた。
9時45分、夢に見た頂上に辿り着いた。あんなに苦しい上り坂だったのに、今は達成感で
幸せいっぱいである。出来ないかも知れないと思っていたことが、実現できたのだ。
高校時代から50年以上が経った。福智山の険しい山道のように、私も生きてきたのかなと
振り返り感慨に浸った。