4 ✿ 空を飛ぶ約束

文字数 1,501文字

朝稽古のあと、朝七時に咲良は家を出た。


隣を、コートに身を包んだジョンがビジネスバッグを手に歩いている。

(私…夢を見ているんじゃないかしら)

おもちゃ屋で一度会ったきり、忘れられなかった魔法使いがそばにいる。


朝、こうして二人並んで歩けるなんて。

電車…
えっ
魔法使いも電車を使うんだなって、意外で……
仕事場へ向かうため彼も同じ駅を利用するという。
お空を飛べるんじゃないかなって、ちょっと考えたんです
……敬語
へっ?
どうか気さくに話してください。…と言いましても僕は敬語ですが
ジョンは後ろ頭に手を当てた。

知り合いが、くだけた日本語を使い相手を不快にさせたと話していて、敬語から覚えていったんです。


やはり不安なので僕はまだ敬語でもいいでしょうか

構わないわ。じゃあ私は敬語をはらって話すね。


良かったら、それを真似て

そうします。それで先ほどの答えですが…
ジョンは周囲を見回すと、咲良へ身を屈め、声を潜めてこう言った。
空は飛べますよ
ほんと!?

ただし、人に見られると困るので、控えています。

最近はSNSで、パッと写真が出回ってしまうんです

だから電車なんだ。空を飛ぶのは…好き?
好きですね。…今夜でも飛んでみせましょうか
見たいわ!

おしゃべりしながら坂を下り、駅にたどり着く。


ジョンが券を買うまで待って、改札をくぐった。

ホームは分かる? この駅、ちょっと入り組んでるけど…
昨日来たので、大丈夫ですよ
そっか。それじゃぁ気を付けて

咲良はジョンへ手を振って、自分の使うホームへ向かう。


それを見届けて、ジョンは別のホームへ上がった。

緊張した…

電車を待ちながら、ジョンはぽつり…とこぼす。


その頬は少し赤い。

(女性……本当は苦手なんですよね…)

それには理由がある。幼き頃のトラウマだ。

(あのストーカー事件さえなければ…。今も夢に見るし…)

彼は4歳の時、近所に住んでいた年上の少女から、ストーカーを受けた。


はじめは一緒に遊んでくれる優しい人だったが、ストーキングがエスカレート、幼心に恐怖を覚えたのである。

(もっと咲良さんと、自然に話せたらいいのだけど…)

電車が来た。


満員電車に揺られながら、幼い咲良と出会った日のことを回顧する。

(あの日咲良さんと出会って、こうしてまた巡り会ったのも運命なのだろうか…)

家族で日本を訪れたのは三回目だった。


日本に来ると家族みんなで必ずおもちゃ屋へ向かう。理由があるのだが、それはともかく。

プレイスペースに散らかされたお人形さんがかわいそう、って。


 僕は日本語を勉強中で、うまく聞き取れなくて…。


 身振り手振り僕に話しかけてくれたあの子が、咲良さんだったんだなぁ…)

(まるで神様が僕らの出会いを用意したようだ。


 未来で帯刀家と縁があると知っていて・・・)

せん賢武けんぶは、IWCIへ稽古で来た時、魔法について知った。

さくも、指名手配のウィザードを捕まえたことがあった。ケガをしたので、なぎにも事情を話した。

咲良さらだけが知らないように見えて、家族の誰より早く魔法と出会っていたのだ。

僕が空を飛ぶところを見たいと言っていた…。見るだけでいいのかな…? 咲良さんがもっと喜ぶ魔法はないだろうか)

やがて電車が、ジョンの下りる駅についた。


駅を出てしばらく歩くと、目標のビルが現れた。

ここは警視庁だ。玄関をくぐり、エレベータに乗って、上階フロアで降りる。


IWCI合同捜査本部〟と看板のかかった部屋の前に立ち、ノックする。


「どうぞ」と声がして

Good morning.
ジョンは、捜査本部へ入った。
  つづく 
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登場人物紹介

帯刀 咲良  (たてわき・さら)


 高校2年生、剣術道場の娘。

ジョン・リンデン


イギリス人

インターポールの捜査官。

天羽 理々(あもう・りり)


高校2年生、咲良の親友

合気道部

ラルフ・ローゼンクランツ


ドイツ人

インターポールの捜査官。

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