第107話  絆で結ばれた家族 2

エピソード文字数 4,985文字

 ※


 雨の中、車はどこに向かっているのか分からない。


 俺は後部座席で華凛を膝に乗せ、その横には寄り添うように座っている白竹姉弟。

 助手席には聖奈がスマホで誰かと連絡しているようだった。

平八。実家へ行くわよ
承知しました。十五分ほどで到着します

 聖奈の実家だと? って事はくっそでかい家なのか?

 思わず「実家?」と聖奈に尋ねると、今は両親とは別に住んでるらしい。

平八と二人きりで住んでるの
そんな言い方をされては誤解を招いてしまいますぞ

 いやいや。誤解はしないけどさ。

 ってか聖奈が別に住んでたとはね、少々驚いた。


 

 しかし。車の中では会話が無い。

 しょうがないっちゃ、しょうがないが……


 聖奈と平八さんは普通に喋っている辺り、先程の騒動からは頭を切り替えたようである。

 まぁ今は自分の車っていうホーム状態だからな。

…………
…………

 その点白竹姉弟は完全なアウェーなのでしょうがない。とりあえず話をつけるまでは我慢してください。


 震える美優ちゃんに手を伸ばすと、手を繋ぐ。

 すると向こうもギュっと握ってくれた。そして今度は美優ちゃんが魔樹の手を持ってくると、三人で手を繋いでいた。


 そんな時、膝に乗る華凛が小さな声を出す。

お姉ちゃん。目が覚めたらお姉ちゃん居なかったから……

電話にも出ないし、それで聖奈お姉ちゃんに……

そういう事だったのか。ごめんな華凛

 じゃあネカフェに入る前。美優ちゃんに会う前にスマホの電源切った後かよ。

 しまったなぁ。先に気付いておけば……


 ダメだな今日は。

 全部後手後手に回っちまってる。くそっ!




 とにかく。みんなと相談して、これからどうするのか。

 納得いくまで話し合わないと。

美優ちゃん。魔樹。大丈夫だから。
とは言うものの、まだ話し合いもクソもないので、さして意味が無いだろうが、二人の震えっぷりが痛々しくてな。
楓蓮。あんたはまず手当てしないと

大丈夫だよ。俺の傷なんてすぐ治るさ。

ってかこれって平八さん知ってます?

左様ですな。入れ替わり体質の人間は、傷の治りが早いのは存じ上げております
そうなの? 何で?

入れ替わる時にさ、身体が変化するだろ? あの時に妙に治るんだな。

詳しくは俺もしらねぇけど。多分二日あったら治る傷だと思う

綺麗サッパリ? 全快するの?
多分残らないだろう。な? 魔樹。美樹ちゃん
 すると、白竹姉弟は知らないと言うのだ。
僕は聞いた事がありません
私も。そんなの初耳です

 あら? じゃあ俺達家族だけのスキルなのか?

 そんな事ってあるのかよ。

まぁ。このくらいの傷はさ、中学の頃に結構やられてるから心配しなくていい。

と本人が言ってるんだから大丈夫だって

ダメよ。ちゃんと手当てするの。医者にも見てもらうから
医者嫌いなんだよなぁ。ぶっちゃけすげー苦手でさ
お願い……楓蓮
 そんなつらそうな顔すんなよ。

 分かったって言うしかねぇだろ。


 俺の返事を貰った聖奈は、運転している平八さんに向き直る。

あと平八。どういうこと? 何であんたが白竹さん家のこと。知ってるの?

 平八さんは黙ったままだった。

 だがルームミラー越しに俺と目が合うと、口を開いた。

このような状況になってしまえば、別に隠す必要もございませんな
 みんなが平八さんに注目する。その喋り方からして色々と知っていそうだからな。

私と麻莉奈さん。そして楓蓮お嬢様のお父様である麗華さん。

この三人は昔からの親友でございます

 親父と仲が良いのは知ってたが、白竹ママとも仲が良かったのか。
何で私にも教えてくれないのよ

三人が親友である事。この話は麗華さんからまだ秘密にするべきだと。そういう約束をしておりましてな。私はそれを守っておりましたゆえ。聖奈お嬢様にも話す訳にはまいりませんでした。

平八めは口が硬うございましてな

隠す意味が分からない。何のメリットもないわ

おっと、到着しますぞ。

この件はまた後でお話します。まずはみなさんから事情を聞かねば、なりますまい

 これだけでは納得できない。

 それは聖奈や美優ちゃん。魔樹だってそう思っただろう。






 やがて車が大きな門を潜ると、そこから聖奈の実家なのだろう。中はとんでもなく広い敷地で2,3分車を走らせると、ようやくでかい屋敷が見えてきた。



 和風チックな屋敷だったが、まるでどこかの高級旅館のような規模だった。これが敷地内にあるとか。凄いとしか言いようがない。


 車を降りて中に入ると、本当に旅館みたいな場所が広がる。ここで平八さんが一人で奥に入ってしまうと、俺達は聖奈の後を付いていった。

先に一回着替えましょ。気持ち悪いわっ。浴衣があるからそれを使ってよ
 長い廊下を歩き、通された場所は客間のような部屋だった。
俺。外で着替える
なんで?
いやいや。男だし
何恥ずかしがってんのよ。今は楓蓮でしょ?
むりむり。美優ちゃんや聖奈がいる部屋で着替えれるかよ
あっそ。じゃあ勝手にしなさい

 華凛はいいだろ。あんまり気にしてないみたいだし。

 聖奈は勿論、美優ちゃんも何も言わない。


 浴衣だけ持って廊下に出ると、同じように出てきたのは魔樹だった。


 その後に出てきた聖奈は向かいの部屋を指差すと「そこで着替えなさいよ」と言われてしまう。

こっち来いよ
…………

 部屋に入ってさっさと服を脱ごうとすると、浴衣を両手で持ったままの魔樹が目に入ると、俺は自然と背中を向けていた。


 あぁすまんな。ってかこの場合恥ずかしがるのは俺か。

 別に入れ替わり体質なら気にしなくていいんじゃねぇって思った。


 お前も美優ちゃんのような極上の身体になっちまうんだろうが、今のあいつは男である。

 全然気にする必要はない。


 背中から服の擦れる音がするので、ようやく着替えだしたのかと思っていると、俺は先に着替え終わる

ひっ!
え? 別にそんなビビらなくていいだろ?

 さっきから何を恥ずかしがってるんだよ。男の裸を見たからって何とも思わないから。魔樹のすんげー赤ら顔を無視してさっさと部屋を出た。

楓蓮お嬢様。応急処置をしましょうか

 廊下に出ると、平八さんが戻ってきていた。

 どうやら救急箱を持って来たらしい。


 その場で救急箱を開けると、顔一面に消毒液をぶっかけられ悶えたが、手際よくガーゼを当てる平八さん。すげぇ手馴れてる。


 ほぼ顔一面にガーゼで覆われると、あっさり終了だ。

今後入れ替わりの予定は?
えっと、もう入れ替われると思うけどこのままでいいです

 昼寝を挟んでるからな。リミットの時間も見てなかったし分からん。

 ただ四時間は経過しているのは間違いない。いつでも入れ替われる状態ではあるはずだ。

じゃあ入れ替わり前に外して、ガーゼを換えましょうか。恐らく医者に診て貰わなくても大丈夫でしょう
ありがとうございます
 平八さんは良く知ってるな。身体を固定する物を付けてると入れ替わる時にブチって剥がれちまうし、すんげー痛いんだよ。
では平八も着替えてきますゆえ

 すみませんね。平八さんも先に着替えれば良かったのに。

 その時丁度魔樹も出てきたので、俺達は聖奈たちの居る部屋に向かう。

いいか~?
いいわよ。入りなさい

 一度魔樹と目が合うがすぐに逸れてしまう。

 さっきの絶望しきった顔よりマシになってる。


 大丈夫だって! 話し合うだけだし、お互いすっきりさせよう。

 ※



 部屋に入ると、みんな同じ浴衣姿となっていた。


 途中仲居さんのような人が数人来ると、俺達の着ていた服を回収しさっさと消えてしまう。

 なんというか、皆で一緒に温泉旅行にでも来た気分である。

とりあえず順番に話していく。質問はその都度聞いてくれて構わん

 聖奈が頷くと、華凛を膝の上に乗せる。すっかり懐いてやがるぜ。

 まぁこの場合。聖奈と同じ聞く立場だからな。


 そして平八さんが部屋に来ると、聖奈の横に座る。

 このタイミングで今回の事件を話し出した。




 まず俺が話し、美優ちゃんがその時思っていた事を正直に話し出した。


 次に魔樹も……ちゃんと白状する。

 俺が襲い掛かったこと。その時どう思ったのか。

 魔樹も俺を殴った時の事を、素直に話す。


 美優ちゃんも、所々泣きそうになりながらも、正直に話してくれる。



 そして最後に……聖奈達が車で現れる所まで話すと、聖奈は分かったと頷く。

なんていうのかな? タイミング悪すぎでしょ?
そうだな。どうしようもねぇくらい。酷かった
 聖奈はうんうんと頷くと、急に部屋の畳を平手でバシっと叩く。
この話おしまい! 終わり。解決しました

 これには白竹姉弟も俺も目が点になった。

 しかも平八さんも「左様ですな」と頷く始末。首を傾げるのは華凛だけだ。

っていうかね。これは皆同じくらい同罪。ケンカした時点で両者引き分けのイーブンね。はい終了!
待てよ聖奈! そんな都合よく……

うるさいわね! あんたも美優ちゃんを締めたんでしょ?

もう少し冷静に聞いていればこんな大惨事にならなかったのに

ぐっ……

 そう言われるとそれ以上突っ込めない。

 傷口をえぐられるような感覚に、自然と頭が下がってしまう。


 恐らくこの出来事は生涯忘れる事は無いだろう。

あんたもよ。魔樹! 事情も聞かずに殴ったのはアンタの責任。あんたに殴られる間に、蓮が無抵抗だったのに、おかしいとは思わなかったの?
……はい。そのとおりです
 魔樹も顔面蒼白。同じように視線を落とすしか出来なかった。 

美優。魔樹にちゃんと説明しておけば……こんな事にならなかったハズよ。

こんな大事な話なのに、それでも魔樹に何も話さず、一人で逃げて部屋に篭るなんて……


それは違う。

 美優ちゃんはふらふらと魔樹に抱きついてしまった。

 そしてごめんなさいと声を震わせる彼女を見て「もうやめてくれ」と制止した。

それに、私も同じだわっ。楓蓮の話にちゃんと耳を傾けておけば、魔樹を殴ることも無かった。


ごめんなさい……

いや、お前はただ……俺を……

同じよ。逆上して止められなかった。

あんたの顔を見て、頭が真っ白になった。

あの、さっきは……ごめんなさい
華凛……
だからみんな悪い。それでいいじゃない

ですな。誰々が一番悪いのではなく……今回の騒動は皆の責任。


それでよろしいのではないですか?

平八さん……

自分が一番悪い。そう自分を追い詰めないで。

ね? みんな一緒。もう……いいじゃない

 聖奈の言葉に、美優ちゃんも魔樹も俺に視線を合わせると、三人が一緒に頭を下げた。
はい終了っ! 解決したわ。この話は終わり!

 聖奈はもう一度、手のひらで畳をバシっと叩いた。

 勝手に聖奈が話を終わらせた感が半端無いが、この締め方でみんなが納得できた。

でもさ。悪いことばかりじゃない。

だって……入れ替わりの人間同士が今日、知り合えたんだもの。そうでしょう?

そうですぞ。華凛お嬢様もお喜び下され。

また新たな家族が増えたのですぞ

お、お姉ちゃん? 家族?
 華凛の小さな声に俺はうんうんと頷き「そうだな」と言うと、さっきまでの怯えた表情は無くなっていた。

美優ちゃんも魔樹も、きっと……俺達と仲良くなれる

 俺がそう言うと華凛は聖奈の膝から離れ、ゆっくりと白竹姉弟に近寄った。
さっきはごめんなさい。あの……な、仲良くしよう?
偉いわ。華凛ちゃん。もっと二人に言ってあげて。なんなら抱っこしてあげなさい

 いくらなんでもそりゃ無理だって。そう思ったのに……


 美優ちゃんの背中にそっとくっ付いたのには、俺まで驚いてしまった。

華凛ちゃんはこの中で一番小さいのよ。

だからお姉さんやお兄さんがちゃ~んという事聞いてあげないと

 そして聖奈がこっちに向き直ると、ここぞとばかりの微笑を下さった。
ねぇ楓蓮。入れ替わり体質っていうのは、正体さえ知ってしまえば、家族のように仲良くなれるんでしょ? それならつまんない話をダラダラするよりも、楽しいこと。しましょうよ

そうだな。ここからみんなで仲良くやればいいだけだ。

 参ったな。こりゃまた聖奈に借りを作っちまった。


 ありがとう。聖奈。

 これ以上無いくらいの、ハッピーエンドだわ。

いい加減に泣くのをやめなさい。ここからは……私達と仲良くすればいいだけじゃない?


もういいの。もう……終わったのよ。

だから……仲良くしよう。美優。魔樹

 


 仲良くしよう。

 それは……俺が一番大好きな言葉だ。   

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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