第1話

文字数 1,089文字

ぼくだって聴きたいよ。
お母さんは寝なさいって言うけど。
やっぱりリアタイじゃなきゃ、意味ないよ。

ベッドの中でこっそり、ぼくはラジオを聴く。小学生にとってはちょっと遅い時間だけど、どうしても聴きたいんだ。

お母さんがぼくの健康を思って言ってくれているのはわかるけど、ごめん。明日は今日の分も早く寝るから。

あ〜。今日もいい声だなぁ。
あ、新曲流してくれるんだ! やったぁ!
がんばって起きててよかった。

ぼくは今度こそ絶対に放送委員になって、給食の時間にお気に入りの曲をいっぱい流したい。
それで、学校にファンが増えたらいいなぁ。

コンサートも、また行きたいなぁ。
一度、すごくいい席が当たって、目の前でファンサ、もらえたんだよ。
もう奇跡だよ。

いい席だったのはその一回きりで、あとは遠い遠い席ばかりだけど、ぼくは同じ空間にいられるだけで大満足なんだ。

お母さんは
「クソ席!」
なんて言ってたけど、大人気(おとなげ)ないなぁと思ったよ。

僕はラジオ番組にメールを送ったことはないけど、お母さんはメールを読んでもらったことがあるんだ。
夜中なのに「キャー!!」って叫んで、びっくりしたお父さんが起きてたよ。
でも叫びたい気持ちはわかる。
そりゃうれしいよ。
お母さんは録音したその日のラジオを何度も何度も聴いてた。

ラジオの向こうで大好きな人が笑ってる。
ぼくも楽しい気持ちになる。

「なんでそんなに好きなの?」
って聞かれるけど、好きなものは好きなんだからしょうがない。
ぼくだって、理由なんてわからない。

笑顔やがんばってる姿を見ると、ぼくもがんばろうって思うんだ。

グッズだって、お年玉やお小遣いを貯めて買ってる。どれを買うか、いつもうんと悩むんだ。ポスターは毎回買いたいけど、お母さんが
「そんなに買っても、もう貼るところがないでしょう」
って言う。
そう言う問題じゃないのになぁ。

オタク(りょく)では、お母さんよりぼくのほうが断然上だと思うよ。

でも、CDやDVDはお母さんが買ってくれるから、あまり逆らうわけにもいかないんだ。
そのへんの加減が難しいよ。

そうそう。
ぼくの大好きな人は夢にはなかなか出てきてくれない。
他のメンバーは出てきてくれるのに。
なんでだろうってお母さんに聞いたら
「オタクあるあるだね」
と言っていた。
そうなのかな。

あ、お母さんがリビングで笑ってる。

ラジオ、聴いてるんだな……。

一緒に聴いたらもっと楽しいのに……。
残念だけど仕方ない。
もうちょっとぼくが大きくなったら、お母さんともっと一緒にオタ活ができる。
楽しみだなぁ。

あと少しで放送が終わる。
元気な声を聴かせてくれてありがとう。

今夜こそ、ぼくの夢に出てきてね。

おやすみなさい……。

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