詩小説『深海商店街』3分の日常。全ての夫婦へ。

エピソード文字数 891文字

深海商店街

そうだ、夫婦になろうか。
私は、ひらめいちゃった。

夫婦をしたら、次はなにをしようか?

駅前の百貨店は眠りについたよ。
私とあなたは交差点を渡ってアーケードの下。

日暮れを待たずして湯船に浸かる。濡れた髪のままに、サンダルで歩くの。
ここは深海商店街。ぶくぶく、ぶくぶく、シュノーケルを銜えて泳ぐの。
手と手を絡ませてあなたと沈んでいくの。

買い物袋で魚が揺れている。今夜はグラスを傾け、話をしようか。泡みたいな時間の中にふたりは居るの。このまま溶けて混ざってしまえばいいのに。

古新聞に包まれた、揚げたてのコロッケを頬張りながら歩くよ。透き通った瞳。神秘的なあなた。黙るあなたの横顔に、あなたを探すよ。バタ足でゆっくり潜るよ。あなたはどこに居るのだろう? もっと沈んで行くよ、あなたを探しているよ。

他愛のない話をしてよ。密の様な日常を垂れ流してよ。今日の夕食には静かに乾杯しようよ。宇宙に行こうよ、月面に着陸しようよ。テレビを見ようよ。背中から抱き締めるからそのままで居てよ。

黄昏時。薄暗くなった深海商店街。ビー玉が揺れるよ。ラムネが喉で弾けたよ。指先に溢れたよ。あなたによく似た味がするよ。

一緒にお風呂に入ろうよ。手のひらを丸めてお湯を飛ばしてみてよ。キャミソール姿の君が好きだよ。傘電球の下でお魚を食べようよ。お酒を嗜もうよ。

言葉はもはや不必要だよ。そのまま眠りにつこうよ。指先を絡めるよ。微かに触れるキスをするよ。撫でるようなキスをするよ。

ベランダに下着が揺れるよ。電線に向こうに、団地が埋もれる。この世界を見下ろすよ。生温い風が吹くよ。あなたの匂いがするよ。指先を舐めるよ。

ここは深海商店街。後悔は沈んでいくよ。傷跡は溶けてしまうよ。蒼くて、静かな深海商店街。ぶくぶく、ぶくぶく泡の中。手を混ぜあって、あなたと泳ぐよ。

生まれ変わったらなんになろう?
そうだ、私になろう。そうだ、あなたになって。
そうよもう一度夫婦になろうか。夫婦になったら今度はなんになろう?

溶けてしまえばいいのにな。混ざってしまえばいいのにな。
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登場人物紹介

主人公はあなたです。それぞれの恋愛模様を『詩小説』で。

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