5-6 老獪

文字数 1,177文字

 まあ、仕方ない。皓矢(こうや)、データはとれたか?
 はい、概ね
 なんだと?
 この部屋には生体解析AIを搭載した監視カメラを数台設置しているのでね。外からわかる程度の情報はとらせてもらったよ
 彼らが座っている長椅子から接触して、微小ではありますがその気の流れも式神に写しました
 !
 兄さん!こっそりそんなことするなんて!
 だから正直に報告したんだよ、せめてもの誠意でね
 ──話し合いの余地なんて最初からなかったな、帰るぞライ、リン
 詮充郎(せんじゅうろう)皓矢(こうや)の汚い罠のかけ方に辟易した蕾生(らいお)はすぐさま立ち上がった。

 

 だが、その瞬間、蕾生(らいお)の全身に電流が走った。手足の自由がきかない。そこから動けなくなった。

 ライ!?
 な……んだよ、これ
 皓矢(こうや)、このガキ!
 (はるか)が即座に状況を理解して皓矢(こうや)を睨んだ。皓矢(こうや)が金縛りを蕾生(らいお)にかけていたのだ。
 お祖父様、約束が違います!
 まあ、待ちなさい。話はまだ終わっていない
 完全に優位に立ったと確信して笑う詮充郎(せんじゅうろう)と、皓矢(こうや)の術により自由を奪われた蕾生(らいお)の苦しい表情を見比べて、苦々しげに歯噛みしながら(はるか)はもう一度ソファの端に座り直した。
 わかった
 (はるか)がそうしたことで、蕾生(らいお)にかけられた金縛りはすぐに解かれる。その反動で体のバランスを崩し、ソファに腰を沈めた。
 ライ、大丈夫ですか?
 ああ……
 (ただ)蕾生(らいお)──いや、ケモノの王よ
 ──は?
 何故、お前だけ転生しても記憶を保持できないのかは知っているか?
 余計なこと言うな!
 ──随分と慎重なことだ。まあ、それも仕方のないことだが
 どういうことだ?
 詮充郎(せんじゅうろう)はニヤリと笑って机の上にあるボタンのようなものの一つを押した。
 よいものを見せてやろう
 その言葉と同時に部屋の壁の一部が機械音を立てて剥がれていく。シャッターが上がるように、中から水槽のようなガラスが見え始めた。

 

 最初は部屋の明かりが反射されて何があるのか分からなかったが、壁の一部が上がり切る頃にはその禍々しい物体が一同の前に姿を現した。

 な──
 ──!
 ひっ!

 頭は猿、胴体は猪、尾は蛇、手足は虎。

 ガラスの奥に、そう形容できる黒ずんだ物体が二つ。

 虚ろな瞳を携えて、あらぬ方向を向きながら空しさを語るようにそこに存在している。

 ……
 蕾生(らいお)にとってそれらは初めて見るものであるけれど、どこか懐かしいような不思議な感覚があった。
 この、悪趣味ジジイ……
 この遺骸が、我々が(ぬえ)と呼ぶものだ。よく見たまえ、僅かだが個体差があるだろう、そこが素晴らしい
 ……
 ライ、もう見るな!
 何故?よく見るといい、かつての自分の姿を!
 ──は?
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登場人物紹介

唯 蕾生(ただ らいお)


15歳。男子高校生

怪力なのが悩みの種

九百年前の武将、英治親の郎党・雷郷の転生した姿


周防 永(すおう はるか)


15歳。男子高校生

蕾生の幼馴染

九百年前の武将・英治親の転生した姿


御堂 鈴心(みどう すずね)


13歳。銀騎家に居候している少女

英治親の郎党・リンの転生した姿

永と蕾生には非協力

銀騎 星弥(しらき せいや)


16歳。高校一年生

銀騎詮充郎の孫で、銀騎皓矢の妹

鈴心を実の妹のように可愛がっている

永と蕾生に協力して鈴心を仲間に入れようとする


銀騎 皓矢(しらき こうや)


28歳。銀騎研究所副所長

詮充郎の孫

銀騎 詮充郎(しらき せんじゅうろう)


74歳。銀騎研究所所長

およそ30年前、長らく未確認生物と思われていたツチノコを発見、その生態を研究し、新種生物として登録することに成功した


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