金物屋

文字数 714文字

 京都は、良い街だけれど、近年のオーバーツーリズムで割と住みにくいところではある。観光客のために、バスに乗れないというのはその最たるもの。
 そんな異国のお客様は、わからないことがあるとスマホをかざす。それは人に対してもそうなのだ。

 先輩パートの娘さんは、京都市内でも、観光地の周縁に住んでいるので、異国のお客様をよく見かける。近頃の観光客は、いろんな理由でスマホをかざす。自撮り然り。マップ然り。

 彼らもそうだった。ここへ行きたいとスマホをかざされてよく見たら、そこは、「金物屋」だった。「カナモノヤ」。

 金物屋、とは。

 ざっくり言えば、その種類を問わず、金属製品を商品とするところだ。言わずと知れた鍋窯を置いてあるところ。

 東京のかっぱ橋じゃあるまい、プロ仕様の道具が欲しいわけでもないだろうに、何故に、金物屋?



 優しい娘さんは、あー行って、こう行って、そこを曲がって……と、懇切丁寧に身振り手振りで教えて差し上げたそうだが、途中で、はたと気づいた。
 そのスマホの翻訳には、「Goldshop」とあったからだ。
 金物屋……、確かに、「金」「物」「屋」ではあるが、ゴールドショップといえば、意味が違ってくるんじゃないだろうか。ちょっと直訳し過ぎでは?

 多分。たぶんですよ。タブン。

 何を想像していったか分からないが、たどり着いたお店にびっくりするか、がっかりするか、あるいは妄想が甚だしすぎて、そことは気づかずに、結局行き着けないか。
 そう。金物屋には、黄金のキンキラキンは置いてないんですよ。何なら、仏具屋さんのほうがご希望のお店に近いんじゃなかろうか。

 こんなところにもカルチャーショックが存在した。

         (了)
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登場人物紹介

あたし


アラフィフの一人暮らし。

日々、のんべんだらりと過ごしている。コロナで失職して以来、やる気がスライム。


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