鏡餅ーズ開き新年会
文字数 1,869文字
鏡開きには少し早いこの日、森の中の主にイタリアンなレストランは大騒ぎになっていた。
灰色ねずみのちゅー太がハムスターのコーヒーショップに置いていった鏡餅ーズは、最終的にこのレストランに押し付けられ、それを消費すべく新年会が開かれていたのだ。そして、簡単なコース料理を食べ終えた後、何人かは飲んだくれていた。
「いやぁ、賑やかだねぇ……」
パン屋の猫のクリームは、カウンターで食後のコーヒーを飲みながら騒がしい店内を見回す。
「そうだね……」
同じくコーヒーをすするオーナーの一人である白い犬は、もう一人のパン屋の猫のチェリーと茶色い犬が真顔で卓上クレーンゲームに興じているのを眺めていた。
そんな奇妙なテーブルの向こうでは、順調に飲んだくれているちゅー太としろくまの駄洒落戦争が始まっており、その隣では程よく酔っ払ったうさぎとくまがボードゲームに興じていた。
「……君のおねーちゃんは大人しくてよかったね」
「そうだね」
店の奥まった位置にあるテーブルでは、白うさぎのうさりんと、店のオーナーの一人でもあるうさぎのミントが泥酔していた。巻き込まれる薄茶くまのくまりんと、ミントの恋人のペパーは酷く迷惑していたが、迷惑さの軍配はミントに上がる。
いい加減泥酔すれば、うさりんは大人しくなるのだが、ミントはひたすら絡み酒となるだけなのだ。
「……平和だね」
店の奥のソファにだらしなく腰掛けるヒトらしきアルルは黄金色のビッグマにもたれ掛かりながら、ショウガ入りのカクテルでご機嫌なまま居眠りを始めた謎の生命体を抱き枕代わりに抱えていた。
「そうだね……」
「……夢見てるみたいに思うんだ、ずっと」
「いや、ボク達にしてみれば君の存在が不思議だよ」
「ジンジャーマンより?」
「うん」
アルルはビッグマに更に寄り掛かりながら、ジンジャーブレッドマン的な謎の生命体を脇に抛った。
「夢なら覚めなくていいや……お正月の大騒ぎは、そろそろ終わりでいいけど」
「そうだねぇ……どうする、アイスでもお替りするかい?」
「うん」
「何味がいい?」
「苺」
「じゃ、行ってくるよ」
ビッグマは立ち上がり、カウンターの奥に用意されたクーラーボックスの蓋を開ける。
寄り掛かるふかふかの枕が無くなったアルルは、更にだらしなくソファに身を投げ出す。
此処に来る前、平たく言えば、転生する前の記憶が失われる事を何処か恐れている一方で、この無意味で終わりの無い日常が何処までも繰り返される事をアルルは望んでいた。
考える事を放棄しても何ら問題の無い世界は、望み通りなのだから。
「持ってきたよ」
「いただきまーす」
アルルが苺のジェラートを頬張っていると、放り出されていたジンジャーマンが目を覚ます。
「ジンジャーマンもジェラート食べる?」
「そうじゃのう」
「何味?」
「柚子」
「残念だけど、あれはデザート限定だよ。オレンジなら残ってるけど」
ビッグマが突き付けた現実はジンジャーマンにとって随分と酷い話だったらしく、すぐに返答は無かった。
「……ショウガ味は無いのか」
「ないよ。じゃ、オレンジ取ってくるね」
ビッグマは再び立ち上がると、ジンジャーマンの分のジェラートと、熱いコーヒーを手に取った。
「へへー、また私の勝ちー」
カウンターの端でポーカーに興じていたリスとハムスターとピンクのうさぎにピンクのくまはそれぞれに感嘆の声を漏らす。
「りすちゃん、お子様アイドル辞めてギャンブルアイドルになったら?」
「いやよ、お子様アイドルの稼ぎ舐めないでよ!」
ピンクマのチップを回収しながら、リスはピンクマを睨みつけた。おおよそ、お子様アイドルとは思えない表情である。
「ねずみ年なのに運がないのはなんでかしらねぇ」
リスにチップをスライドしながら、ハムスターは首を傾げる。
「此処で運使ったらだめじゃない?」
「それもそっか……」
ピンク色の桃うさの言葉に、ハムスターは妙に納得する。
「次はどうする?」
「もうポーカーはいいわ。麻雀もどき借りてきて遊びましょ」
リスの問い掛けにハムスターはうさぎとくまがボードゲームに興じるテーブルを見遣る。
またギャンブルゲームかと思いながらそんな様子を眺めていたビッグマは、ふとアルルに問い掛けた。
「ボク達も何かゲームする?」
「いや……このまま此処でダラダラしててもいいかなって思う」
「そっか……」
店の中は終わりの見えない喧騒に満たされたまま、夜は更けてゆくのだった。
灰色ねずみのちゅー太がハムスターのコーヒーショップに置いていった鏡餅ーズは、最終的にこのレストランに押し付けられ、それを消費すべく新年会が開かれていたのだ。そして、簡単なコース料理を食べ終えた後、何人かは飲んだくれていた。
「いやぁ、賑やかだねぇ……」
パン屋の猫のクリームは、カウンターで食後のコーヒーを飲みながら騒がしい店内を見回す。
「そうだね……」
同じくコーヒーをすするオーナーの一人である白い犬は、もう一人のパン屋の猫のチェリーと茶色い犬が真顔で卓上クレーンゲームに興じているのを眺めていた。
そんな奇妙なテーブルの向こうでは、順調に飲んだくれているちゅー太としろくまの駄洒落戦争が始まっており、その隣では程よく酔っ払ったうさぎとくまがボードゲームに興じていた。
「……君のおねーちゃんは大人しくてよかったね」
「そうだね」
店の奥まった位置にあるテーブルでは、白うさぎのうさりんと、店のオーナーの一人でもあるうさぎのミントが泥酔していた。巻き込まれる薄茶くまのくまりんと、ミントの恋人のペパーは酷く迷惑していたが、迷惑さの軍配はミントに上がる。
いい加減泥酔すれば、うさりんは大人しくなるのだが、ミントはひたすら絡み酒となるだけなのだ。
「……平和だね」
店の奥のソファにだらしなく腰掛けるヒトらしきアルルは黄金色のビッグマにもたれ掛かりながら、ショウガ入りのカクテルでご機嫌なまま居眠りを始めた謎の生命体を抱き枕代わりに抱えていた。
「そうだね……」
「……夢見てるみたいに思うんだ、ずっと」
「いや、ボク達にしてみれば君の存在が不思議だよ」
「ジンジャーマンより?」
「うん」
アルルはビッグマに更に寄り掛かりながら、ジンジャーブレッドマン的な謎の生命体を脇に抛った。
「夢なら覚めなくていいや……お正月の大騒ぎは、そろそろ終わりでいいけど」
「そうだねぇ……どうする、アイスでもお替りするかい?」
「うん」
「何味がいい?」
「苺」
「じゃ、行ってくるよ」
ビッグマは立ち上がり、カウンターの奥に用意されたクーラーボックスの蓋を開ける。
寄り掛かるふかふかの枕が無くなったアルルは、更にだらしなくソファに身を投げ出す。
此処に来る前、平たく言えば、転生する前の記憶が失われる事を何処か恐れている一方で、この無意味で終わりの無い日常が何処までも繰り返される事をアルルは望んでいた。
考える事を放棄しても何ら問題の無い世界は、望み通りなのだから。
「持ってきたよ」
「いただきまーす」
アルルが苺のジェラートを頬張っていると、放り出されていたジンジャーマンが目を覚ます。
「ジンジャーマンもジェラート食べる?」
「そうじゃのう」
「何味?」
「柚子」
「残念だけど、あれはデザート限定だよ。オレンジなら残ってるけど」
ビッグマが突き付けた現実はジンジャーマンにとって随分と酷い話だったらしく、すぐに返答は無かった。
「……ショウガ味は無いのか」
「ないよ。じゃ、オレンジ取ってくるね」
ビッグマは再び立ち上がると、ジンジャーマンの分のジェラートと、熱いコーヒーを手に取った。
「へへー、また私の勝ちー」
カウンターの端でポーカーに興じていたリスとハムスターとピンクのうさぎにピンクのくまはそれぞれに感嘆の声を漏らす。
「りすちゃん、お子様アイドル辞めてギャンブルアイドルになったら?」
「いやよ、お子様アイドルの稼ぎ舐めないでよ!」
ピンクマのチップを回収しながら、リスはピンクマを睨みつけた。おおよそ、お子様アイドルとは思えない表情である。
「ねずみ年なのに運がないのはなんでかしらねぇ」
リスにチップをスライドしながら、ハムスターは首を傾げる。
「此処で運使ったらだめじゃない?」
「それもそっか……」
ピンク色の桃うさの言葉に、ハムスターは妙に納得する。
「次はどうする?」
「もうポーカーはいいわ。麻雀もどき借りてきて遊びましょ」
リスの問い掛けにハムスターはうさぎとくまがボードゲームに興じるテーブルを見遣る。
またギャンブルゲームかと思いながらそんな様子を眺めていたビッグマは、ふとアルルに問い掛けた。
「ボク達も何かゲームする?」
「いや……このまま此処でダラダラしててもいいかなって思う」
「そっか……」
店の中は終わりの見えない喧騒に満たされたまま、夜は更けてゆくのだった。