第1話(2)

エピソード文字数 3,236文字

 ~午前8時50分(宿題・数学)~

「数学は、楽勝だな。ここをこうやって…………はい一問終了」
「ほー、師匠速いにゃぁ。微分積分、得意なが?」
「これは微分でも積分でもないんだが、そうだね。数学に関しては学年1位です」
「おおおっ、そりゃスゴイぜよっ! 師匠に頼んだら、元担任先生が保管しちゅう宿題は数時間で片付くにゃぁっ」
「お前いい加減やれよ。レミアとシズナがいるから、ちょっくら戻ってやってきなさい」
「あそうそう。師匠、一つ質問してえい?」
「また誤魔化しやがった……。まぁいいや、なに?」
「π、ってマークがあるやろ? 円周率のやつ」
「ああ、あるね。それが?」
「πって、はみ出た鼻毛に見えんかえ? ほら、右がカールした」
「やめろボケ! 鼻毛にしか見えなくなるだろうが!」
「ワシの話は、以上やき。引き続きファイトぜよっ」
「うるせぇよ! テンション下げて去るんじゃねーよボケナスっ!」

 これが、数学の時間に起きた出来事。

                  ◇※◇

 ~午前11時10分(宿題・古典)~

「ゆーせー君っ。お茶さんの差し入れだよ――にゅむぅっ!」
「ノートがびしょ濡れに!? 折角全部訳したのにぃ……」
「ごめんなさいっ、すぐ乾かすねっ! 灼聖(しゃくせい)――」
「それ神蔵さんを倒した太陽のやつでしょ!! やめ――間に合わんっ、レミア命令だ中止しろ!」
「……畏まりました、優星様」
「はぁ、はぁ、危なかった……。それ出したら、乾くを通り越して何もかも燃えるでしょうが」
「つ、ついやっちゃったよー……。ぇぅ…………あたし、どーすればいーのかな……」
「あーもう泣くなっ。幸いプリントじゃないから、別のページに書き直したら提出できるよ」
「にゅむ……。でも、ゆーせー君の努力が……」
「だから泣くなって。この原因は善意だから、気にしないよ」
「……にゅむん、ありがとー。今度は細心の注意を払って、お茶さんを持ってくるね」
「おう。どうもです」
 というやり取りを、その後3回繰り返す羽目になりました。

 これが、古典の時間に起きた悲劇。

                  ◇※◇

 ~午後3時40分(宿題・生物)~

「おっかしいなぁ。昼ご飯を挿んだとはいえ、数学と古典をやっただけで4時前になっちゃったよぉ」
「従兄くん、愚痴を零さないの。ほら、プリントに集中して」
「あ、ああそうだね。そうしよう」
「次は、問題5ね。私も勉強してみたいから、読んでみて」
「えっとだな。問5…………俺は虹橋シズナが大好きで、毎晩太腿をナデナデしてる――なんだこれ問題文が狂ってる! プリントすり替えやがったな!!
「余所見している間に、入れ替えました。お手製の問題はどうだった?」
「最悪の気分だよ! いい加減にしろ――ってあれ? 怒ってるに、なんで興奮しないんだ?」
「興奮を抑え込み、やがて抑えきれなくなり、時折ビクンッとなるのを楽しんでるの。ぁふっ、こういう……ひあんっ……楽しみ方も、あるのね……!」
「変な遊びを思い付くなよ! つーかここでやるんじゃないっ!」
「きゃふん! だ、だめぇ……っ。そんなに続けられたら、シズナ、しずなぁっ、おさえきれないぃぃぃぃぃぃっ!」
「…………ヘッドホンをコンポに繋いで、両耳に装着っと。いや~、父さんがいいヤツを買っててよかったよ。外の音が聞こえない」

 これが、生物の時間に起きた変人事件。

                  ◇※◇

 ~午後5時35分~(宿題・英語)~

『にゅむー。この国のテレビゲームさん、面白いねー』
『これがワシらぁの日本に入ったら、市場先生は激変するぜよ! 黒船来航ぜよ!』
『私ってこういうのに興味がないのだけど、それでも楽しいわ。こちらの世界って、ゲームは何歩も先を行っているわね』

 よっし、アイツらは携帯ゲーム機に夢中だ。この隙に一気に終わらせよう。

「英語は、あれだったな。先生が昔書いたラブレターのコピーを、日本語に訳すんだったっけか」

 あの教師は、自分が楽をするためならなんだってする人。問題を用意したくないから、自分の恋文を出してきちゃいましたよ。

「んーとなになに……。『親愛なるケイトさん、こんにちは。いいお天気ですよね』」

 なに言ってんだ、先生。ケイトさんが読んでる時の天候は不明だろ。

「んーっと…………『突然のお手紙、すみません。どうしても、カレンさんに伝えたいことがあるのです』」

 俺は、見てはいけないモノを見てしまった気がする。二股ではないと信じたい。

「『貴方と出会ってから、もう一年半ですね。僕の頭の中は、いつも貴方で一杯です』」

 ほぅ。あの人にしては、ベタだな。

「『僕の脳髄は、すっかりケイトさんに侵されています。ケイトさんなしでは、生きられない身体になってしまいました』」

 言いたいことは分かるが、言葉選ぶの下手過ぎ。この人には、文才が壊滅的にないわ。

「『ケイトさんと会えない日は、手足が震えています。所謂ケイト中毒です』」

 中毒て。それくらいの存在って意味で用いたんだろうけど、これは逆効果だな。

「『ですから僕は、ケイトさんと結婚したい。二人で、駅まで徒歩7分以内3LDKの条件を満たすマンションに住みたいです』」

 おーい。お前の好みは、いらないよー?

「『つきましては良い物件を見つけているので、一緒にチェックに行きませんか? 結婚してもよいのであれば、同封した地図にある響マンションの前まで来てください。今日の正午に、青い傘を持って待っています。さようなら』」

 以上で、ラブレターはお仕舞い。
 もうツッコむのがバカらしくなったから、ツッコみません。はい英語の宿題終わり。

「ぁ~ぁ。アイツらを遠ざけたら、教師に気分を害されるんだな……。少々早いが、風呂に入ってリラックスしよう――」
「『チェンジ・マナ』を持つ者よ! 貴殿に恨みはないが、死んで頂くであります!」

 天井を突き破ってね。目の前にね。腕が14本ある男が5人現れたよ。

「覚悟せよっっ! 我々には、あっと驚く特殊能力が――」
「従兄くんには指一本触れさせないわ! 『ボディー・グラビティー』っ」
「「「「「ごぶへ!」」」」」

 5人の悪漢は、大量の血を吐いて死んだ。
 それは、登場して4秒後のことでした。ちゃんちゃん。

「英雄さんは、相変わらず桁違いだなぁ。それはどんな魔王術なの?」
「掌から出した光弾に当たるとソレが体内に入り、内部に異常な重力をかける――というものよ。彼らは、身体の内が潰れて絶命したの」

 内臓は鍛えようがなく、とても弱い。今のは相手の弱点を鋭く突く良い攻めだな。
 尤もコイツらは、どんなに鍛えていても瞬殺しちゃうんですけどねー。

「今回も、滅茶苦茶すっごい…………が…………これから、それ以上のことを許可させる試練が待ってるんだもんなぁ。俺にできるのかね……?」
「優星は呟き、服とタオルを持って風呂場に向かう。だがこの時彼は、まだ気付いていなかったのだ――ああもう従兄くんっ! 相手をして頂戴っ」
「あーもーうっさいなぁ。うぜぇ時と場合を考えてふざけろ! イライラするんだよ! こっちは宿題とかで疲れてんだ! テストまで数時間なんだから、ちったぁ配慮しろよアホ!!
「んぁぃはぅんっ! こんなに、大量、は、むりぃ…………」

 シズナは激しく震え、やがて失神した。
 よーしよしよし。怒り気絶成功だ。

「フュルー、悪いが風呂場の前で待機してくれー。んでレミアは、コイツの看病ヨロシクねー」

 俺は満足げに気絶してるアホ女を一瞥し、LDKを後にした。


 はい。これが、本日最後の宿題をしている時に起きた出来事でございました。
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登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

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