第2話 大掃除は大変 ②

文字数 1,161文字

「さて、そのゴキ……じゃなかった、Gは何処に居るんだ?」
『待って。その前に、アキトに掃除道具を渡しておくわ』
「掃除道具か……まぁ、素手でやるわけにはいかないしな」
『一応、家の中にあるのは箒、雑巾、塵取り、火炎放射器、ラチェットスパナ……』
「お前、一体何を掃除する気だったんだよ?」
「そういえば、ご両親は?」
『両親はGが出た途端、ハワイに逃げたわ』
「何処まで逃げてるんだよ!」
『両親は即座に戦線を離脱。残されたのは私と、アキトだけになるわ』
「普通ならすっごい嬉しいシチュエーションなのに、全くそれを感じない」
夏目は流石に熱くなったのか、ガスマスクを取り外す。
マスクの下からは額に汗が滲み出た夏目の顔が出てくる。
切れ長の目で、すこしツンケンした感じ。髪はポニーテールの女の子。
「それじゃあ、今回の任務を発表するわ。敵はこの家に籠城。これを速やかに撃退、制圧に移ること。ただし、決して潰したりしないで。中身が飛び散ったりしたら目も当てられないわ」
「もし、つぶした場合は?」
「つ・ぶ・さ・な・い・で!」
絶対にしてはならない事のようだ。
とりあえず夏目から箒と塵取りを受け取る。

「それで、その肝心のGは何処に?」
「最初見た時は一階の脱衣所だったわね」
「な、なんだって! それは大変だ、今すぐ向かう――」
「行かせるわけないでしょ?」
顔は笑っているが、夏目の目は笑っていなかった。
仕方ないが、諦める他ないようだ。
ここで、自分の頭が冴えわたる。
「もしかしたら夏目の部屋にいるかもしれないな」
付き合って半年以上になるが、未だ夏目の部屋は見たことが無い。
この機を利用して、見るチャンス。
だが、そんな邪な考えは既に感づかれていたのか、こちらを見る視線には
ギロリと睨みを利かせていた。
「覗いたらコロス」
「いや、そうは言うけど、もし居たら?」
「居たら、アキトをコロス」
「理不尽すぎぃ!」
取り付く島もないとはこの事か。
仕方ないので、当初の予定通りリビングに向かう。
リビングは清潔な空間が漂い、部屋の隅に大型テレビが設置され、中央には家族で食事できるように木のテーブルと椅子がある。そばに隣接されているキッチン。
見た所、まだ部屋がきれいな事を見ると、大掃除の手つかずの場所のようだ。

「しかし、本当にこんなところにGがいるのかね?」
テーブルの下からカサカサと何やら音が聞こえる。
まさか、と覗いてみると、そこにはスリッパサイズのGが蠢いていた。
「で、デカイ!」
これは夏目じゃなくても驚くデカさだ。
未だ俺に対して警戒をしていないのか、その場でカサカサとゆっくり動いている。
「おい、夏目いたぞ。これはすごい大きさ……って夏目?」
返事がない。
振り返ると、夏目の姿は既になく、バタン、というリビングの扉が閉まる音。
あいつ、逃げやがった。
to be continued
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色