プロローグ(2)

エピソード文字数 2,935文字

「ゆーせー君? どしたのー?」
「もしかして、一万回も待ってるのが嫌? それなら、実はもう一つ方法があるのよ」
「俺は面倒で『ぁ』と発したんじゃないんだが、そっちも気になるな。それってどうやるの?」

 もしこっちが簡単なら、そちらにすればいい。どんなのだろ。

「『戦場空間』を乗っ取って従兄くんがリアカー等に乗り、私が全力で引っ張り陸路で移動するの。そうすれば無料で、しかも一時間足らずで着くわ」
「ほぉ、それっていいじゃん。よく思い付いたね」
「私は常に、従兄くんのお役に立ちたいと思っています。きっとその気持ちが、寸時に浮かばせたのね」

 シズナは自分の胸に両手を当て、品よく微笑む。
 この人は、なんて嬉しいことを言ってくれるんだ……! と思っていたら、だ。妙に頬が上気していることに気が付いた。

「アナタ、若干興奮してないか? してるよね?」
「従兄くん、していません。なぜ、この状況でそうなるのですか?」
「アンタに――アンタらに、常識は通用しない。シズナちゃんや、正直に明かしたら後で5回怒ってあげるぞ」
「ダッシュ中にワザと急ブレーキをかけて従兄くんを前に吹っ飛ばせば、ものすごく怒られて気持ち良くなるわって思っていたの。私の怒られ脳が、寸時に素敵なアイディアを捻り出したのよ」

 ほれみたことか。他意ありまくりだった。

「はーい移動はワープにしまーす。それでは、『ぁ』と発した理由をお知らせするねー」
「にゅむむ。ゆーせー君、どーしてそー言ったの?」
「っっ! わかったぜよっ!」

 フュルが、バシンとテーブルを叩いた。

「ズバリ、ワシらぁが寝泊まりする場所を確保できんがやね!」
「ズバリ、ちがう――」
「けど安心してや! ワシの家はキャンプが大好きで、異空間に大きなテント先生があるがよ――」
「人の話を聞け! だから違うんだよ!」

 こちらの声を遮った声を遮る。ウチの母さん曰く、秘技・遮り返しを発動させた。

「ありゃりゃ、大ハズレやったがかえ。けんど師匠、従妹先生の家にワシらぁがおると不自然ぜよ?」
「そりゃ、仰る通りだ。けれどもどうにか理由付けして、三人も泊まれるようにするよ」

 護ってくれてる者が外で自分は内、なんてのは有り得ない。気が咎めて夜寝れなくなるぞ。

「…………あのね、俺が問題にしてるのは巻き込まれの件。知人が殺されたら動揺すると思い、滞在中に襲撃されるのが心配なんだよ」

 これは、母さんを遠ざけたのと同じ。人質を使うのは駄目だがそういうやり方はOKなので、伯父さんファミリーに危険が及ぶ確率が高いのだ。

「これをクリアしないと、高知県には行けない。レミアフュルシズナ、なにか手はないかな?」

 俺は表情を変え、真剣なソレで三人の瞳を見る。

「訳あって、この旅は何が何でもしないといけないんだ。どうにかならないかな?」

 アイツのために、父さんの故郷に戻らないといけない。お願いだ、方法があってくれ……!

「にゅむぅ。特に忙しー時期を過ぎたから、こっちもできるにはできるんだけどねー……」
「やれるようにするのは、うーん。かなり難しいがよ」
「それでも構わないっ。とにかくやり方を教えてくれ!」

 この目的を果たす為なら、人に迷惑がかかること以外はなんでもやる。これから何をすれば、可能になるんだ?

「あのね、従兄くん。伝説のプリーストの……正確にはそのプリーストに力を貸している、異世界人から民を守る神様――『プリースト神(しん)』様が出す試練を、貴方が乗り越えればいいのよ」
「そーしたらねっ。『加護が必要(ひつよー)な弱き者』さん――特別な力のない生き物さんに限りだけど、ゆーせー君が指定した人全員にバリアーがつくんだよー」
「ちなみにそのバリアーの効果は、『異世界の生物に攻撃されたら、1時間は絶対に破られない。もし攻撃されたら、設置を頼んだ人は察知できる』。要するに、どこにいても壊れる前に撃退しに行けるのよ」

 レミアとシズナは羽を使えば1時間以内に地球の裏側にでも行けるため、どんな状況下でも絶対に救える。こんな便利なのがあったんだな。

「プリースト神先生はワシらぁの日本の守り神で、本来は他の世界の生き物を護ったらいかんが。それやき、異世界人先生の場合は試験を課すがよ」
「なるほどね。それでそのテストとやらは、すぐに受けれるモノなの?」
「伝説のプリーストが居れば、出来るわ。本人と連絡を取ってみるわね」

 ここで活躍するのが、通話用の魔法『遠言』と『遠聴』。シズナが異世界にラインを繋ぎ、あちらの日本にいる現プリーストさんと話しだした。

「もしもし私よ。従兄くんがあの試練を受けたがっているから、来てくれないかしら?」
「プリースト先生はワシらぁと違って多忙で、忙しい時期が過ぎてもなっかなかプライベートの時間がないがよ。この試験は『戦場空間』ではやれんき…………下手したら、来週でも都合が合わんかもながよね……」
「にゅむむむむぅ……! お願いですーっ、都合(つごー)が合いますよーに……っ」

 フュルとレミアは共に手を合わせ、祈りながら待つ。
 どう、だ? どうなんだ……?

「…………ここだけの話、私は従兄くんを従妹から遠ざけたいの。スケジュールをチェックせずに、拒否して頂戴」
「ざけんなよ小声にしても聞こえてんだよ蹴り飛ばすぞこの野郎!!
「んぁんっ! きもい、いい……!」

 シズナは、仰け反って興奮する。
 くそぉっ。また嵌められた。

「シズナさん、真面目にやってくれ。あちらはなんて仰ってんの?」
「奇跡的に、今日の――ここの日本時間で、今日の午後十時から明日の午後十時まではオフみたい。仕事が終わったら、すぐ来てくれるそうよ」

 おおおおお! やったっ! やったぞ!!

「空いてるだけではなく、二十四時間もあるっ。これなら――」
「一日、かえ……。レミア先生、かなり厳しいにゃぁ……」
「にゅむー。ヤバヤバだねー……」

 二人は、ちっとも喜んでいない。
 うそ。これでも足りないほど、試練って難しいんだ……。

「ね、ねぇ。テストって、なにをするの?」
「それは人によって違ってて、会った時に決まるがよ。ただ、過去にクリアした者先生は0」
「しかも、その人さんはね……。3日あってもバッテンだったんだよぉ」

 ………………。
 よ、余所は余所、ウチはウチ。諦めるのは、まだ早い。と思いたい。

「け、けど、ゆーせー君ならだいじょーぶだよっ。だって魔王(まおー)使いさんなんだもんっ」
「そんな職業の先生は、滅多におらんきね! きっと結果も、滅多にない良いのが出るぜよ!」
「そうね。従兄くんなら、きっとそうなるわ」

 レミア、フュル、通話を終えたシズナも励ましてくれる。
 ……そうだな。俺は常人離れした者になってるんだから、他の方とは違う――最初にクリアした者にもなれるはずだ!

「サンキュ、みんなっ。頑張ってみるよ!」

 俺はガッと拳を振り上げ、気合を注入する。
 よっし……! 絶対に、乗り越えてみせるぞ!!
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登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

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