1 東京

文字数 461文字

ビルの上に立って東京を見下ろした。
街灯りが夜空を照らしている。
「そこから飛び降りようよ」
女性の声が聞こえた。
辺りを見回した。
誰もいない。
俺はビルの縁に立ってよろめいた。
不思議と怖くはなかった。
これで楽になれるんだと思うと、嬉しくて涙が出てきた。
落下していく。
地球の重力を全身で感じながら、空と地面が真逆になった世界で、空気抵抗を頭上で受け止めた。
衝撃がいつ襲ってくるのか楽しみだ。

目の前が真っ暗になった。

「おめでとう! 108,898,055人目!」
目の前のタキシード姿の男が言った。
サングラスをかけているので表情が読み取りづらい。
ここが生と生の間の領域か。
「初めまして。オグラユウトです。ここに来るのは初めてです」
「いや違うよ」
タキシード男が言った。
「今はやりの異世界転生ですか」
ユウトは言った。
タキシード男は苦い笑いした。
「それを言っちゃあ、お終いよ」
タキシード男は肩をすくめて両手を広げた。
「もう何回も来ているよ君は。君が記憶を消せって初めてここに来た時、言ったもんだから、そのようにしてるんじゃないか。一億年前に」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み