私と、電車のすき間の都市伝説
文字数 1,994文字
『地下鉄神津線の南神津 駅ホームで急行電車がすれ違う時、向かい側のホームにいる幽霊と目が合うんだって』
学校でそんな話を聞いて、私は南神津駅のホームに張り付いていた。
結論、まじで幽霊見える。
南神津駅は各駅停車しか止まらない駅で、3本に1本が各駅停車、2本が急行というぐらいの割合で電車が走っている。急行2本が行きかうタイミングはあんまりないけど、1時間くらい粘れば3回くらいは巡り合える。
急行電車がピュゥッとホームを通り過ぎるとき、窓も人もちょっと斜めの残像みたいな感じで、ザザザと通り抜ける。でもじっと目を凝らして見ていると、急行と一緒に流れ去る人影とは別に、ホームの向こうに動かない人影が見える。
電車が過ぎれば誰もいない。
やっべゾクゾクする。
うわさを聞いて最初に見に来たのは放課後のいわゆる通勤時間帯で、正直急行に乗ってる人が多くてよくわかんなかった。
それでもずっと見ていてだんだん人が少なくなってきたとき、急行と急行の向こうにチラっと、人影みたいなもんが見えたんだ。
結局その日は終電直前まで粘ったから、帰った時に親にめっちゃ怒られた。
だから、私は夏休みにもう一回トライすることに決めた。夏休みの自由研究だ。昼なら乗ってる人も少ないだろ?
ついでに待ってる間つまんないから友達を一人つれてきた。東矢 っていうおんなじクラスのやつで、こいつも怖い話が好きなやつだ。
「ナナオさん、これやな感じするからやめたほうがいいと思うんだけど」
東矢がそう言ったのは、急行がもう10回もすれ違った時。
驚いたことに、休日で人が少ない急行の窓ごしのホームに、10回とも何かの影があったのだ。
しかも、回を重ねるたびにどんどんくっきりしてくる気がする。
全体的にぼやけててよくわからないけど、女っぽいのかな。なんか変なひらひらした白っぽい服を着てる、気がする。
「東矢、お前も見えてんだろ」
「まぁ、見えてるけどさ」
東矢は心配そうにこっちを見てるけど、私はひるまない。
そうだ、写メればくっきりわかるんじゃないか?
私は写メを構える。
今だっ!
急行と急行のすれ違うホームにカメラを向けた。
撮れた写真は盛大にブレていた。正直、手ブレはあんまり考えてなかった。
ザザッと斜めにずれた写真をじっくり見る。
でも、動いている急行の窓を通してみる姿と携帯で切り取られた姿では、結構違ってみえた。
んんん、なんか、変。
ぼんやりはぼんやりしているけど、なんかうねうねしてる感じ?
よっしゃ、手ブレないようにもっかい撮ろう。
携帯を構えてじっと電車が来るのを待つ。正直、結構腕が疲れる。
東矢はやめとこうとかしきりに言ってるけど、知ったことか。
プルプルする二の腕が限界になってきたころ、地下鉄の暗い線路の奥から待望の電車がパァと音を立てて現れた。
反対車線からやってくる急行と交わるのを今か今かと待ち受ける。
私は携帯の画面を今までになくじっくり注視する。
シャッターを押そうとしたとき、私は気が付いてしまった。
ヒュッと全身の血の気が引いた。
女の人だと思ってたけど、違った。
なんていうか、たくさんの白い腕が何十本もうねうねと何かに絡みついていた。
あっこれヤバイやつ……
そう思った瞬間、向かいのホームのたくさんの白い腕は、急行と急行の間の窓ガラスをすり抜けて私の髪や手首や腰に絡みつき、そのまま波が引くように線路に引きずり降ろそうとした。
踏ん張る間もなく足まで絡めとられ、私の体は勢いよくホーム上の白線を超えていく。
一瞬の出来事で、抵抗のしようもない。
もうダメかも……
あきらめかけた、その時。突然何かが私の腰をホーム側に引っ張った。
電車にぶつかる一歩手前、私はがくがくする膝でなんとか踏みとどまる。
ダラダラと大量の冷や汗を流しながら、一瞬おいてフッと息をつく。
急行はパァァという音をたてて走り去った。ホームにざわざわという音が戻る。
向かいのホームを見たけど、もうそこには何もなかった。
私の後ろで、ハァ、というため息が聞こえた。
「だからやな感じがするって言ったのに」
疲れた声が東矢から漏れる。
私が白い腕に襲われて電車にひきずりこまれようとしたときに、東矢がデニムのベルトをつかんで引き戻してくれたらしい。
「ナナオさん結構重い……」
「ちょっなんてことを」
軽く笑うと、血の気が引いていた体に、少しだけ熱が戻った。
改めて小さく呼吸をして、体をそらして伸びをした。
やっとまともに息ができる感覚。
「自由研究は失敗か、成功か、それが問題」
私が東矢を振り返ると、あきれた顔が見えた。
東矢といると面白いことがいろいろ起こる。
なんか、こいつのほうが幽霊っぽい気もするな。
学校でそんな話を聞いて、私は南神津駅のホームに張り付いていた。
結論、まじで幽霊見える。
南神津駅は各駅停車しか止まらない駅で、3本に1本が各駅停車、2本が急行というぐらいの割合で電車が走っている。急行2本が行きかうタイミングはあんまりないけど、1時間くらい粘れば3回くらいは巡り合える。
急行電車がピュゥッとホームを通り過ぎるとき、窓も人もちょっと斜めの残像みたいな感じで、ザザザと通り抜ける。でもじっと目を凝らして見ていると、急行と一緒に流れ去る人影とは別に、ホームの向こうに動かない人影が見える。
電車が過ぎれば誰もいない。
やっべゾクゾクする。
うわさを聞いて最初に見に来たのは放課後のいわゆる通勤時間帯で、正直急行に乗ってる人が多くてよくわかんなかった。
それでもずっと見ていてだんだん人が少なくなってきたとき、急行と急行の向こうにチラっと、人影みたいなもんが見えたんだ。
結局その日は終電直前まで粘ったから、帰った時に親にめっちゃ怒られた。
だから、私は夏休みにもう一回トライすることに決めた。夏休みの自由研究だ。昼なら乗ってる人も少ないだろ?
ついでに待ってる間つまんないから友達を一人つれてきた。
「ナナオさん、これやな感じするからやめたほうがいいと思うんだけど」
東矢がそう言ったのは、急行がもう10回もすれ違った時。
驚いたことに、休日で人が少ない急行の窓ごしのホームに、10回とも何かの影があったのだ。
しかも、回を重ねるたびにどんどんくっきりしてくる気がする。
全体的にぼやけててよくわからないけど、女っぽいのかな。なんか変なひらひらした白っぽい服を着てる、気がする。
「東矢、お前も見えてんだろ」
「まぁ、見えてるけどさ」
東矢は心配そうにこっちを見てるけど、私はひるまない。
そうだ、写メればくっきりわかるんじゃないか?
私は写メを構える。
今だっ!
急行と急行のすれ違うホームにカメラを向けた。
撮れた写真は盛大にブレていた。正直、手ブレはあんまり考えてなかった。
ザザッと斜めにずれた写真をじっくり見る。
でも、動いている急行の窓を通してみる姿と携帯で切り取られた姿では、結構違ってみえた。
んんん、なんか、変。
ぼんやりはぼんやりしているけど、なんかうねうねしてる感じ?
よっしゃ、手ブレないようにもっかい撮ろう。
携帯を構えてじっと電車が来るのを待つ。正直、結構腕が疲れる。
東矢はやめとこうとかしきりに言ってるけど、知ったことか。
プルプルする二の腕が限界になってきたころ、地下鉄の暗い線路の奥から待望の電車がパァと音を立てて現れた。
反対車線からやってくる急行と交わるのを今か今かと待ち受ける。
私は携帯の画面を今までになくじっくり注視する。
シャッターを押そうとしたとき、私は気が付いてしまった。
ヒュッと全身の血の気が引いた。
女の人だと思ってたけど、違った。
なんていうか、たくさんの白い腕が何十本もうねうねと何かに絡みついていた。
あっこれヤバイやつ……
そう思った瞬間、向かいのホームのたくさんの白い腕は、急行と急行の間の窓ガラスをすり抜けて私の髪や手首や腰に絡みつき、そのまま波が引くように線路に引きずり降ろそうとした。
踏ん張る間もなく足まで絡めとられ、私の体は勢いよくホーム上の白線を超えていく。
一瞬の出来事で、抵抗のしようもない。
もうダメかも……
あきらめかけた、その時。突然何かが私の腰をホーム側に引っ張った。
電車にぶつかる一歩手前、私はがくがくする膝でなんとか踏みとどまる。
ダラダラと大量の冷や汗を流しながら、一瞬おいてフッと息をつく。
急行はパァァという音をたてて走り去った。ホームにざわざわという音が戻る。
向かいのホームを見たけど、もうそこには何もなかった。
私の後ろで、ハァ、というため息が聞こえた。
「だからやな感じがするって言ったのに」
疲れた声が東矢から漏れる。
私が白い腕に襲われて電車にひきずりこまれようとしたときに、東矢がデニムのベルトをつかんで引き戻してくれたらしい。
「ナナオさん結構重い……」
「ちょっなんてことを」
軽く笑うと、血の気が引いていた体に、少しだけ熱が戻った。
改めて小さく呼吸をして、体をそらして伸びをした。
やっとまともに息ができる感覚。
「自由研究は失敗か、成功か、それが問題」
私が東矢を振り返ると、あきれた顔が見えた。
東矢といると面白いことがいろいろ起こる。
なんか、こいつのほうが幽霊っぽい気もするな。