詩小説『アクアパッツァ』3分の個性、自由、スタイル。全ての若者へ。

エピソード文字数 1,381文字

アクアパッツァ

駅からは少し離れた、
線路沿いのアパート。
二階が彼の部屋。

コルクに止めた、写真は、
無造作に並べられている。

ハートの浮かぶ、ラテアートだとか、
窓際のサボテンに、オレンジのミラー。
なんでもない交差点の写真。

グラスに泳ぐ熱帯魚は、
月を目がけて浮かんでくる。
真っ青なヒレを垂らして。

海外で買ったという、
よく分からない、
アジアンテイストの置き物が、
こちらを見ている。そんな部屋。

彼はいつだって個性を主張する。
誰とも似つかないセンスの持ち主、
そう、自分のことを思っている。
なんとも安っぽい、
アーティスティックの押し売りだ。

そんな彼はもうじき仕事から帰って来る。
捻じ曲がり、読み辛い秒針の針を、
眺めながら、ぼんやり思った。

仕事といってもアルバイトだ。
やはりカメラマンの、
アシスタントをしている。

アートをお金にして、飯を食う。
そんなこと、まだ言ってる。

ひとりでいるこの時間は嫌いではない。
なんだかほっとしたりする自分に、
罪悪感を覚えながら。

彼と僕とは恋人だ。
彼も僕も所謂ゲイというヤツだ。

この身体に違和感がある訳ではないし、
特殊な恋愛をしている感覚もない。
いたって普通、誰かと同じ。
自然体に生きているつもり。
ゲイという響きに、驚かれるだけ。

ウォーターサーバーの泡は、
ブクブク、ブクブクと、
浮かんで、弾けて、消えた。

あなたの奇抜なタンクトップは、
ベランダにて揺れています。

僕は、バーでアルバイトをしている。
彼ともバーで出逢った。

ジャケットを羽織った彼が、
客としてふらりとやって来た。

ネオンカラーのTシャツから、
ちらりと見えた二の腕に。

それがきっかけ。
ちなみにゲイバーではない。

いったい僕はどこへ向かって、
歩いているのだろうか?

そもそも、歩いているのか?

彼を見て、胸が痛むことがある。
ゲイということすら、
旗のように振りかざして。

自由を掲げて、自由に生きている。
そんなふりをする彼を。

なによりも、誰よりも、
なにかに縛られているのは彼だ。
雁字搦めなのだ。

余裕ぶるのにも限界がある。
お金も、年齢も、個性も、
限界がある。消耗品なのだから。

それなのに、また、余裕ぶって。

よく分からない表現で、
それこそ詩人のように、
それっぽいことを言っては、
また、苦しんでいる。

冷凍庫には、
ミント味のアイスクリーム。
よくいう、シャリシャリの、
歯磨き粉。

オリーブオイルに、
生ハムに、アクアパッツァ。

味ではない。雰囲気が好き。
それで大好物。

今の生活に不満はない。
ただ、夜に愛し合う時は、
不便に思うことがある。

ただ、性の壁はなかった。

僕のその後は、
普通に会社員となり、
普通に女性と職場恋愛をして、
普通に結婚しました。

あなたは、下北沢に、
居場所を見つけましたか?
探し物は見つかりましたか?
自由ですか?

幸せですか?

灯りもつけない昼下がり。
彼が東急ハンズで買ってきた、
家庭用プラネタリウム。

天井にぺらい星を散りばめて、
くるくると廻してみた。

小窓から覗く、電線。
焦げた線路。ちぎれ雲。

階段を駆け上がり、
ドアの開く音。

彼が帰ってきた。
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登場人物紹介

主人公はあなたです。それぞれの恋愛模様を『詩小説』で。

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